全米で公務員労組の権利制限の動き
―ウィンコンシン州では法案成立へ
公務員労働組合の基本的権利を制限する動きが2月から全米各地で見られる。ウィンコンシン州では新たな法案が成立する見込みだし、連邦レベルでは公務員の組合費チェックオフを停止する法案が議会に提出されている。
またニューハンプシャー州では州公務員に対する労働条件、社会保障水準の低下が進行している。そのほか、公務員の年金水準などを切り下げた州も出ている。
ウィスコンシン州で労働協約によらない労働条件低下の動き
ウィスコンシン州では議会の専決により団体交渉手続きを経ない労働条件の引き下げが警察、消防職員に対して行われた。これに引き続き、州公務員労組の権利を制限する法案が成立の見込みである。
6月15日、ウィスコンシン州最高裁判所は州公務員労組の権利を制限する法案審議手続きに関する訴訟に関し、手続きが公正に行われたとする裁定を行った。これにより、法案は成立の見通しである。この法案には公務員労組の基本的権利の制限が織り込まれている。それは次のとおりである。
- 団体交渉を賃金のみに制限
- 賃上げは消費者物価指数上昇内に留める
- 消費者物価指数を上回る賃上げは住民投票による賛成を必要とする
- 労働協約の期限は一年単位とし、新協約が締結されるまで賃上げは凍結される
- 団体交渉単位として認定を受けるために組合員による投票を毎年行って過半数を獲得していることを示すこと
- 組合費チェックオフ制度を廃止すること
- 組合員は組合費を任意に支払えるように(任意に支払わなくてもよいように)すること
この法案を審議するにあたり、民主党は強硬に反対していた。ウィスコンシン州は下院、上院ともに法案に賛成する共和党が多数派を占める。したがって、民主党上院議員が投票に必要な人数を満たすことを防ぐため、議会への出席を拒否していたのである。
共和党および共和党出身の州知事は民主党上院議員を議会へ出席させることを断念し、上院のかわりに特別委員会を設置して、民主党議員抜きで3月9日に法案を可決する方法を選択した。これにより、翌日には法案に修正を加えて再び下院に送り、可決したのである。
反対派は、特別委員会設置の招集から開催までの時間が短すぎるとして訴訟手続きを行った。この訴えが州最高裁で4対3の僅差で退けられたのである。
この裁定に先んじて、新たに採用される警察職員、消防職員の年金、社会保障に関する労働者個人負担が引き上げられることになった。これはウィスコンシン州の上下院議員からなる財政両院協議会が行った6月3日の採決に基づくものである。協議会はこの件を団体交渉事項から除外することも付帯して決議した。
警察職員、消防職員は団結権、団体交渉権が認められていたものの、争議権はもともとなかった。一方、それ以外の州公務員労組は争議権を有していたが、今回の法案が成立することにより、団体交渉権、争議権ともに大きな制限を受けることになる。そのため、警察職員、消防職員に対して行われた労働条件、社会保障の引き下げはそれ以外の州公務員に対する同様の措置の布石となるだろう。
連邦公務員組合員の組合費チェックオフを停止する法案が提出
反労働組合的な動きは州政府に留まらない。
6月7日、共和党議員による「従業員権限委譲法(The Empower Employees Act)」が連邦議会に提案された。この法案は表面的には従業員の権利を拡大するとしている。その中身は、労働組合が行う組合費徴収業務の代行を停止することである。
現在、連邦政府は給与から自動的に組合費を引き落とすことで、労働組合が行う組合費徴収作業を代行している(チェックオフ)。この代行作業を取りやめることで経費削減とするとともに、組合費を支払い続けるかどうかについての選択を従業員の判断に委ねるとする。しかし、チェックオフをやめれば組合費の徴収率が下がることにつながりかねない。これにより、労働組合が提供するサービスにタダ乗り(フリーライド)する従業員が増える可能性がある。結果として不公平感をもたらし、間接的ではあるが、労働組合にとって大きな打撃となる。
同様の内容はウィスコンシン州で実施される予定の法案にも織り込まれている。この法案が連邦法として成立する見込みは低いものの、共和党はあらゆるところで労働組合の基本的権利に制限をかけることを試みている。
ニューハンプシャー州では年金額および退職年齢の見直し
直接的な反組合的な動きではないものの、ニューハンプシャー州では年金額および退職年齢の見直しを定める「公務員年金法(a public employee pension bill)」を議会が可決したことを受けて州知事が承認するというできごとが起こった。
その内容は、2011年7月1日以降に採用した従業員の退職年齢をこれまでの60歳から65歳に引き上げるものである。また、勤続30年以上で60歳を超えた従業員が65歳になる前に退職した場合には年金月額を0.25%削減する。さらに、年金の個人負担額が現在の5%から7%へ引き上げられるほか、警察職員が9.3%から11.55%へ、消防職員が9.2%から11.80%へそれぞれ引き上げられる。支給する年金の上限額も制限が加えられることになる。
この減額は、47億ドルにのぼる退職者向け年金、医療保険の積立不足を反映したものである。
ウィスコンシン州同様、ニューハンプシャー州で行われている労働条件、社会保障水準低下の取り組みは新たに雇用する従業員に対するものとしている。これは、労働組合員間で待遇に差が生まれる2階建て構造をもたらすものである。このことが労働組合員間に新たな対立をもたらしかねない。
参考
- New Hampshire Legislature Approves Public employee Pension Benefit Cutbacks, June 8, Daily Labor Report
- House, Senate Bills Would End Automatic Deduction of Union Dues for Federal Workers, June 8, Daily Labor Report
- Wisconsin Case procedurally Messy, Impossible to Predict Outmace, Scholars Say, June 8, Daily Labor Report
- Wisconsin Measure Would Cut Benefits, Bargaining for Police and Fire Personnel, June 3, Daily Labor Report
Wisconsin Supreme Court upholds anti-union bill, June 15, BBC News
参考レート
- 1米ドル(USD)=80.75円(※みずほ銀行ホームページ2011年7月4日現在)
2011年7月 アメリカの記事一覧
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関連情報
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