G20でさらに大量失業の恐れ
―ILO/OECD報告

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2011年10月

国際労働機関(ILO)と経済協力開発機構(OECD)は9月26日、「G20の雇用成長率が予測の0.8%にとどまる場合、2012年には約4000万の大量失業が生じる恐れがあり、2015年までさらに深刻化する可能性がある」との見通しを発表した。ソマビアILO事務局長は、「雇用創出をマクロ経済の最優先事項とすべきだ」と述べ、G20各国に対して抜本的な雇用対策に取り組むよう要請した。

金融危機後、進まぬ回復

本発表は、9月26日から27日にかけてパリで開催されたG20労働・雇用相会合に向けて、ILOとOECDが共同で作成した報告書に基づいて行われた。両組織の代表は「G20全体で長引く雇用の低迷が、若年失業や長期失業者の増加といった構造問題を悪化させ、弱い回復の足枷となっている」と指摘。さらに「世界全体の失業者数は約2億人に達しており(注1)、2008年の世界同時不況の最悪水準に再び近づいている」として、G20各国の早急な対応を求めた。

報告書によると、金融危機によってG20全体では2008年から2010年にかけて約2000万の雇用が失われたが、危機前の水準を取り戻すためには2015年まで少なくとも年1.3%以上の雇用成長率を達成する必要がある。しかし、現行では1%にとどまっており、今後は0.8%に低下することが予測されている。雇用の伸びが0.8%と、労働力人口の伸びを下回る状態が続くと、失業者や不完全就業者、生活困窮者が増加し、2012年末までにさらに2000万の雇用が失われることになり、計4000万人の大量失業が生じる恐れがある。

回復が遅れる日本、震災対応の重要性

G20における日本の状況をみると、図1のように、他国と比較して経済・雇用ともに指数が低く、金融危機からの回復が非常に遅れていることが分かる。

図1. 2011年第1四半期 G20主要国の実質経済成長指数と総雇用指数
(2008年第1四半期=100)

図1.2011年第1四半期 G20主要国の実質経済成長指数と総雇用指数(2008年第1四半期=100)

  • * Selected urban areas for the employment rates.
  • 1 2010 Q3 for Indonesia (base 100 in 2007 Q3).
  • Source: ILO Short-Term Indicators Database, OECD Main Economic Indicators Database and national labour force surveys.

G20労働・雇用相会合では、前述報告書のほか各国の政策分析レポートも公表された。日本については、急速な少子高齢化によって2050年までに生産年齢人口の約4割が減少するとの予測が出されている中で、女性の労働参加促進が急務であることや高齢者の効率的な労働参加の必要性を指摘している。また、世界競争の激化で各企業が労働コストを削減した結果、非正規雇用が急増したことにも触れ、非正規労働者の社会保障の脆弱性や、訓練・能力開発機会の少なさを課題として挙げている。その上で、このような非正規の増加による生産性の低下は、日本の成長全体を抑制する要因ともなり得るとの見方を示した。

危機後の主な最近の雇用政策については、「失業率の急速な悪化に対応するため、失業者の生活保護へのアクセスを拡大し、失業給付期間を単純延長しなかったことは適切な措置」と評価。その理由として、失業者は失業給付期間終了後、生活保護への移行を躊躇する者が多く、結果として失業者の就業移行の妨げにはなっていないことを挙げた。

最後に、金融危機の対応策として日本政府が実施した「雇用保険の適用範囲の拡大」、「生活保護受給の要件緩和」、「求職者支援制度導入」などの各種雇用政策は、恒久政策として定着させることが必要で、特に今年3月の東日本大震災の被災失業者と有機的にリンクしていくことも重要としている。

参考資料

  • ILO Press release(September 26, 2011)、ILO Country Policy Briefs、ILO駐日事務所プレスリリース(9月26日付)

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