介護労働者の最低賃金、委員会案が固まる

カテゴリー:労働条件・就業環境

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2010年4月

介護委員会(Pflegekommission)は3月25日、今年7月1日から介護労働者の最低賃金を時間当たり7.5ユーロ(東ドイツ地域)、8.5ユーロ(西ドイツ地域)とし、2013年までに段階的に引き上げる案を打ち出した。今後7月1日までに閣議決定を経て、連邦労働社会省が出す法規命令(注1)(Rechtsverordnung)によって正式に決定される見通しである。

介護委員会は、労働者送り出し法(注2)第12条に基づいて連邦労働社会省から任命された8名の労使代表(注3)で構成され、さらに同省から任命された1名が進行役を務める。同委員会では、これまで約半年にわたり介護労働者の最低賃金に関する検討を行ってきた。今回の決定を受けて7月に最低賃金が導入されれば、高齢者や病人の介護を行っている約81万人の労働者が適用を受けることになる。

具体的な委員会案

3月25日に発表された連邦労働社会省の資料によると、具体的な委員会案は表1の通り。介護労働者の最低賃金額は、今年7月1日から、東ドイツ地域では時間当たり7.5ユーロ、西ドイツ地域では同8.5ユーロとなり、その後段階的に引き上げられ、2013年7月1日には、それぞれ8ユーロ、9ユーロとする予定である。

表1.介護労働者の最低賃金(時給額)
  東ドイツ地域 西ドイツ地域
2010年7月1日以降 7.50ユーロ 8.50ユーロ
2012年1月1日以降 7.75ユーロ 8.75ユーロ
2013年7月1日以降 8.00ユーロ 9.00ユーロ

資料出所:連邦労働社会省ホームページ

今回の委員会案について、介護委員会で進行役を務めたブリュッカー(Rainer Brückers)氏は、記者会見で「ドイツの介護分野では、15年前から賃金が下がり続けており、今回の最低賃金導入によって、少なくともこの状況に一定の歯止めがかかることを期待している」と述べた。

ドイツの地元メディアによると、今回の背景には、東欧など近年新しくEUに加盟した諸国に対して、2011年5月から労働市場が開放されることがあるという。すなわち、来年以降、東欧諸国から多くの労働者が介護分野に参入して賃金ダンピングが進むのではないかの懸念があり、最低賃金導入によってそれを排除しようとする目的があるとみられている。また、ドイツでは少子高齢化が進んでおり、今後数千人から1万人程度の介護労働者が不足すると考えられている。しかし、現状では7月に導入予定の最低賃金よりも低い賃金で働く介護労働者が多く、こうした介護労働者の適正な賃金水準の確保と、新たに介護分野への就職を希望する者を積極的に獲得していこうとする狙いもあるようだ。

各界の反応

メルケル首相が率いる中道右派政権は、2009年10月の成立以来、国レベルの最低賃金の導入について「雇用喪失と失業率の上昇を招く」として、一貫して、特に自由民主党(FDP)が、反対の姿勢を取ってきた。しかし、今回「介護」という特定分野における最低賃金導入については、これまでのところ政権内で大きな反発は出ておらず、一定の理解が得られている。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のフォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)労働社会大臣は、記者会見で「質の高い介護を維持していくためには、適正な対価を受け取る専門人材が欠かせない。そのため、介護分野における最低賃金について今回の委員会案に至ることができた意義は大きい」と述べている。また、同大臣は、自由民主党(FDP)のレスラー(Philipp Rösler)厚生大臣との懇談の中で「良質な介護の必要性」の点では合意したとして、現在、省内で最低賃金導入のための事務手続きを進めていることを明らかにした。

3月25日付のロイター電によると、労使は、ともに今回の委員会案について歓迎の意を表している。統一サービス産業労組(Ver.di)のパシュケ(Ellen Paschke)氏は「過度に行きすぎた賃金ダンピングに歯止めがかかった」と述べており、使用者代表も「適切な最低賃金額であれば、介護分野の雇用を脅かすことはない」としている。

今後の手続き

介護委員会の提案は、今後内閣の同意(閣議決定)が必要である。その後、連邦労働社会省が、介護労働者の最低賃金に関する法規命令を出し、それをもって正式な決定となる。

参考資料

  • 連邦労働社会省HP、Reuters(2010年3月25日)、ZDF(2010年3月25日)、Spiegel online(2010年3月25日)、JILPT資料シリーズNo.63「欧米諸国における最低賃金制度Ⅱ」

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=127.70円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2010年4月6日現在)

関連情報