176億ドル規模の雇用創出法成立
―減税策が主な柱
米国の失業率は2009年10月に10.1%に達し、その後、11、12月と10%台で推移し、2010年2月には9.7%と一桁台になったものの依然として高い水準にある。労働統計局発表の雇用統計(注1)によれば、2010年2月現在、27週以上の長期間にわたって失業状態にある労働者は613万3000人である。
このようななか、雇用創出を目的とする減税措置を柱とする法案(雇用改善のための採用インセンティブ法案)(注2)が、上院において3月17日、賛成68、反対29の賛成多数で可決した。民主党議員のほか、共和党議員11人が賛成している。
本法案は上院民主党のリード院内総務(ネバダ州選出)によって2月12日に提出されたもので、2月24日に既に上院において賛成70、反対28で可決され、その後、下院で3月4日に可決(賛成:217、反対:201)された際に修正が加えられたため、上院で今回再度採択されたものである。
下院では2009年12月、高速道路建設や公共施設の修復事業を柱とする1550億ドル規模の雇用対策法案を可決しているが、この法案は上院での可決は難しいという判断から、今回の法案(176億ドル)を共和党議員が立案した条項を盛り込むことで可決を急いだかたちである。
今回成立した法案は、総額176億ドル規模の雇用の維持と創出を目的とするものであり、企業を対象とする減税と公共投資が主な内容である。例えば、60日以上失業状態にある労働者を雇用した使用者を対象として、賃金に対して6.2%課税される社会保障税を免除する措置が盛り込まれている。対象となるのは2010年2月3日以降に採用された者で、2010年末までを期限とする措置である。また、新規に雇用した従業員を少なくとも52週間継続雇用した場合、当該従業員一人当たり1000ドルの法人税を免除する。これらの措置に対して130億ドルの予算を計上している。このほか、100万人の雇用維持・創出を目的とする高速道路整備計画に関する条項も盛り込まれている。
経済諮問委員会(CEA)のローマー委員長は、同法の成立を受けて、「使用者が雇用を促進しようとするインセンティブが働くような税制優遇措置が盛り込まれており、民間部門に効果がでるものになっている。短期間で成果が出るだろう」と述べている。また、同委員長は同時期に成立した医療保険に関する法律に関連して、財政的な負担が大きいことに対する共和党議員からの強い反対があることに対しては、「9.7%という高い失業率の水準を見据えて、今のこの時期に雇用創出につながる対策が必要である」ことを強調した。
会計関連の専門サービス会社、アーンスト・ヤングのビジネス・インセンティブ・税サービス部門のディレクター、アリ・マスター氏によれば、雇用対策の実施時期が重要な要素となると述べている。2月3日から12月31日までという期間は短いものであり、使用者にとって「制限された窓」のようなものである点を強調している。法案の鍵となるのは、新規に雇用することの税制上の利点を活用しようにも、既に雇っている従業員を解雇して新規雇用に切り替えることを禁じる条項が含まれていることである。ただ、60日間失業状態にある労働者は潜在的には約870万人とされており、雇用創出に向かうよう労働市場を刺激する役割が期待できるとしている。
AFL-CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)のトルムカ会長は、今回の雇用対策を高く評価した上で、「金融の崩壊で失われた雇用を回復する必要性がある。粉々になってしまったインフラを再構築し、将来のグリーンジョブのための投資をすべきときだと考えている。連邦、地方政府のサービスを向上させ、教育、警察、消防などのなし崩し的なコストカットを回避しなければならない」と主張した。
注
- 次のアドレスを参照:http://www.bls.gov/news.release/pdf/empsit.pdf (PDF:198.29 KB)
- 英語名称は「Hiring Incentives to Restore Employment (HIRE) Act (PDF:365.61 KB)」
参考資料
- New York Times, March 17, 2010, A16
- Wall Street Journal, March 18, 2010, A8
- Daily Labor Report, March 5, 18, 2010, Bureau of National Affairs
- ブルームバーグテレビでのCEAローマー委員長へのインタビュー
- NBCニュースでのCEAローマー委員長へのインタビュー
参考レート
- 1米ドル(USD)=94.42円(※みずほ銀行ホームページ2010年3月4日現在)
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