所得データベース「ELENA」を導入

カテゴリー:勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2010年2月

経営者は、2010年1月1 日から全ての従業員の賃金や諸手当等に関する情報を毎月「ELENA(Eleketronischer Entgeltnachweis)」と呼ばれる中央データベースにオンラインで報告することが義務づけられることになった。

全国4000万人の労働者が対象

ドイツ政府によると、企業は、連邦雇用エージェンシー(BA)に社会保障給付を申請する約320万人の労働者のために、所得や雇用に関する証明書類を年間約6000万枚発行しており、その費用は経済界全体で約8500万ユーロに上る。

「ELENA」は、各種証明書に関する事務処理の軽減や紙書類の削減を目指して、2008年6月26日の閣議で導入が決定し、これまで準備が進められてきた。ドイツ全土で働く約4000万人の労働者が対象になる。今後は各人に順次ICチップ付のカードが支給され、2012年以降は紙による証明書の発行が不要となる。

連邦雇用エージェンシーでは、「ELENA」の導入により、失業保険や各種手当の申請の際に、申請者に提出を義務づけている雇用証明、副収入証明、雇用履歴、住宅手当、児童手当などの情報をデータベース上で照会し、給付の可否決定を迅速に行うことが可能になる。2010年から2012年の2年間は、本格的な制度導入までの移行期間となっている。この間は既存の紙面による証明書類の手続きを継続し、オンライン報告情報とあわせてヴェルツブルクの中央データベースに入力される。

労働組合や市民団体は懸念を表明

一方、労働組合や個人情報保護を訴える市民団体は、この「ELENA」の運用に関して強い懸念を示している。公共国際放送メディアのドイチェ・ヴェレは、賃金や諸手当に関する情報に加え、不就業の実績も報告義務となっていることから、当該労働者がストライキに参加したかどうかの情報まで記録に残ってしまう可能性があることを指摘している。フランク・ブジルスケ統一サービス産業労組(Ver.di)委員長は、メディアのインタビューに対して「この巨大なデータベースは、誤用可能性など多くの問題がある」との懸念を表明している。

こうした懸念に対し、フォンデアライエン労働社会大臣は、1月11日に市民団体の質問に回答する形で、「経営者が『ELENA』へどのような情報を報告したかについて、企業内の従業員代表組織はそれを知る権利があることを認める。また、不就業記録については、それがどのような事情によるものか(合法ストライキに参加したことによるものか、もしくは違法ストライキによるものか)の特定は行わない」との方針を発表した。

今後EU加盟国間で相互運用の可能性も

ドイツでは、すでに医療保険分野で2006年からデータベース化(eGK)が進み、各人の加入者番号や処方箋、病歴、救急データなどが記載されたICカードが普及している。

政府は、今後他分野のデータベースとの整合性を図りつつ、「ELENA」が他省庁の手続きにも利用されれば、多額の行政コストが削減され、資料作成上の手違いも減るのではないかとみている。

また、EUレベルに目を向けると、欧州委員会が2005年に発表・採択した「i2010~成長と雇用に向けた欧州の情報社会」で述べられている通り、将来的には「ELENA」のようなデータベースをEU加盟国間で相互運用する構想も出ている。これが実現すると、今後はEU域内の国際的な労働力移動の管理などに活用される可能性もある。

参考資料

  • 連邦労働社会省HP、Deutsche Welle(2010年1月1日)、Handelsblatt紙(2010年1月1日)、NNA(2010年1月4日)、FedEE Newswire(2010年1月11日)、Commission of the European Communities “i2010 - A European Information Society for growth and employment”(2005年6月1日)

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=126.28円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2010年2月4日現在)

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