年次報告書「欧州の雇用」を発表

カテゴリー:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2009年12月

欧州委員会は11月、年次報告書「欧州の雇用」を発表した。世界的な不況の影響で急増する失業者への短期的な対策と併せて、より長期的な視野に 立った施策の必要性を主張。労働市場の流動性の維持や積極的労働市場政策により、就業促進や失業長期化の防止をはかるとともに、低炭素化による産業・就業 構造の転換を円滑に推進するため、新たな技術に対応した訓練の実施などを提言している。

労働市場の柔軟性を重視、ただし不利益に配慮も

欧州統計局が10月末に発表した雇用関連統計によれば、EU27カ国の9月の平均失業率は2000年の調査開始以降で最高の9.2%に達し、失業者数は 2212万人となった(前年同月比で 2.1ポイント、501万人増)。ラトヴィア(19.8%)やスペイン(19.3%)、アイルランド (13.1%)などが高い水準で推移している。また、25歳未満層の失業率は対前年同月比で4.4ポイント増の20.2%で、特にスペインでは41.3% と当該層の4割以上が失業状況にある。前後して発表された09年第2四半期のGDP成長率は0.2%で、大方の加盟国が不況に突入した08年第4四半期以 降初めてプラスに転じており、来年にかけて緩やかな成長が見込まれている。しかし、企業の間では当面人員削減などが続くとみられ、雇用状況の改善には時間 を要するとの見方が強い。

欧州委員会は「欧州の雇用」報告書の冒頭で労働市場の現状に触れ、09年半ばまでの1年間で経済は4.9%縮小しているのに対して、同期間の雇用 の減少はマイナス1.9%に留まっており、今回の不況による雇用への影響は当初想定されていたよりも小さかったとしている。景気の雇用への影響には通常6 カ月以上の遅れが生じること、短時間労働などの失業防止策が活用されたこと、また産業によっては賃金引き下げによって調整が行われたことなどを理由に挙げ ている。しかし、この間に失われた430万人の雇用に加えて、09年から2010年の間にはさらに700万人以上雇用が減少し、失業率は2010年に 10%を超える可能性があるとも予測している。

不況に対して短期的な対策を講じるだけでなく、生産性向上や技術革新、技能水準の向上、環境対策などを推進する機会と捉えるべきであるとの視点か ら、今年の報告書は二つの長期的な課題をテーマとして取り上げている。その一つは、労働市場のダイナミズムの問題だ。欧州委員会は近年、労働市場の柔軟化 と就業支援策を併用する「フレクシキュリティ」を推進しており、失業者や非労働力人口の就業への移行が90年代半ば以降進展してきた理由の一端は、労働市 場への参入・退出や転職がより容易になったことにあるとしている。02年から07年の間の労働移動率(就業者のうち雇用形態を変えたか、転職した者の比 率)は年平均22%、労働移動率の高い国では、就業に移行する比率も比較的高くなる。ただし労働移動率の差は、加盟国間以上に産業間で大きく、産業毎の技 術要因、組織要因あるいは需要変動要因などが労働市場のダイナミズムを左右しているとみられる。一方、労働者の属性別には、女性や若者の間で労働移動率が 高いほか、加盟国によっても度合いはまちまちだが、教育水準が高いほど労働移動率が低くなる傾向にある(ただし、失業・非労働力層から就業に移行する可能 性は教育水準が高くなるにつれて高まる)。

高い労働移動率は、衰退産業から成長産業への労働移動の障壁を引き下げる一方、摩擦的失業や職業紹介にかかるコストの増加、人的資源の損失、失業 給付コストの増大を招きかねず、また近年の就業率の向上が不安定雇用や就業しながらも貧困状態にある低賃金層の増加と並行して進んできたことからも、最適 な柔軟化のレベルについて明確に結論付けるのは難しい、と報告書は述べている。

また、長期失業は依然解決の難しい問題として残っている。90年代半ば以降、長期失業者は減少傾向にはあるものの、例えば05~07年の間、失業 者の45%近くがやはり1年以上失業状態にある。失業期間が長期化するほど失業から脱する可能性は小さくなる。不況という循環的な要因によって現在増加し ている失業者が、構造的失業に変容してしまうことを避けるため、特に長期失業や非労働力化のリスクが高い層に対して積極的労働市場政策を実施する必要があ る、と報告書は指摘する。

低炭素化で雇用増の可能性

もう一つのテーマは、気候変動と労働市場への影響だ。報告書は、既存の分析結果などをもとに、これを分析している。低炭素・知識基盤型経済化の進展は、 産業構造や就業構造、技能ニーズなどの変化をもたらし、これに伴って労働力の移動が生じる。このとき、短期的な影響としては環境対応に伴う雇用創出や逆に 一部の雇用の喪失などが想定され、またより長期的には、新製品や新たな製造プロセスによる雇用増は、技術の成熟や新たなインフラ整備の進捗に伴って減少す ることが予測される。ただし、市場が競争的であれば、継続的な技術革新やインフラ整備への投資を通じて雇用効果が期待できる。また、新技術導入の初期段階 では、必要な技能を有する高度技術者に労働需要が限定される可能性が高いが、技術の普及に伴って、十分な訓練を受ければ未熟練労働者でも仕事を担うことが できるようになると考えられる。

以上から、低炭素化に伴う雇用へのマイナス効果は限定的で、むしろ十分な政策が実施されれば、長期的には若干のプラス効果が期待できると報告書は 予測、労働力の移動に伴う摩擦の緩和に向けた政策とともに、技能労働者不足の解消に向けて十分な教育訓練が実施される必要がある、と結論付けている。

さらに、低炭素化経済への移行に伴う一連のプロセスが社会的責任に配慮した形で推進されるためには、低炭素化の雇用への影響に関する分析機能の強 化とならんで、EU指令の定める労働者への情報提供・協議を通じた労働者の権利の保障や、社会的対話の強化により、経済的観点と社会的観点の両面から効率 的かつ望ましい労働市場政策を策定・実施していく必要があるとしている。

参考

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