斡旋の職を2回拒否で、失業手当支給停止
―求職者の義務と権利に関する法案を可決

カテゴリー:雇用・失業問題高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2008年9月

失業保険制度の見直しと中高年の雇用促進策をすすめてきたフランスは、7月23日、「求職者の義務と権利に関する法案」を可決した。今後、公共職業安定所(ANPE-UNEDIC(注1))から斡旋された職を2回拒否した求職者は、求職者リストから2カ月間削除され、失業手当の支給が止められる。政府は、「失業者に対する個別の雇用復帰支援を充実させる一方で、失業保険制度を悪用していつまでも就職せずに手当をもらい続ける者に対してはペナルティーを科す必要がある」と説明している。

「合理的な職」を条件に設定

法案によると、公共職業安定所は求職者一人一人に、個別就職計画(PPAE:Project Personnalise d’ Acces a l’Emploi)(注2)を作成する。PPAEには、地理的条件、希望給与額、個々の求職者に適した職業訓練プランなどが記される。このPPAEに基づき、公共職業安定所は「合理的な職」を求職者に紹介する。なお、「合理的な職」の条件については、定期的に見直され、失業期間が長くなればなるほど厳しくなる。しかし、失業期間が長いからといって、その地域・職業で慣行となっている賃金、及びSMIC(法定最低賃金)を下回る水準の賃金を受け入れるように強いられることはない。

この「合理的な職」の条件は以下のように定め、条件に合致する職を2回断った求職者は、求職者リストから削除される。△失業から4カ月経過した求職者=職業資格・能力と一致し、かつ従前の賃金の95%以上の賃金△失業から6カ月経過した求職者=従前賃金の85%以上の賃金で、通勤時間が公共交通機関を使用して最大1時間、距離にして30キロ△失業から12カ月経過した求職者=本人の能力に適合し、通勤時間が公共交通機関を使用して最大1時間、距離にして30キロで少なくとも失業手当(多くの場合、従前賃金の約57%)の水準の賃金を得られる。

求職活動の免除制度、段階的廃止

法案には、求職活動の免除制度の段階的廃止も含まれている。同制度は、57.5歳以上の失業者は、一定の条件を満たせば再就職活動をしなくても、失業手当を受給することができるというもので、1984年に導入された。現在、(1)57.5歳以上の失業手当受給者(2)160四半期の保険料納付期間を証明した55歳以上の失業手当受給者(3)55歳以上の特別連帯手当(ASS:Allocation de solidarite specifique)(注3)の受給者――が求職活動を免除されており、その数は40万人に上るといわれる。政府は、6月末に発表した新たな中高年の雇用促進策(注4)に同制度の廃止を盛り込み、今回の法案でその具体的なスケジュールを決定した。

法案によると、免除制度は2012年1月1日に完全に廃止する(注5)。これに向けて、免除の対象者を3段階で減らす。まず、2009年1月1日以降は、(1)58歳以上の失業手当受給者(2)56.5歳以上のASS受給者、及びいかなる手当も受給していない求職者。次に、2010年1月1日以降は、(1)59歳以上の失業手当受給者(2)58歳以上のASS受給者、及びいかなる手当も受給していない求職者。そして、2011年1月1日以降は、手当の受給にかかわらずすべての60歳以上の求職者――スケジュールを設定している。

中高年の就業率向上へ

フランス政府は、2012年までには失業率を5%に引き下げ、就業率を70%に引き上げるという目標を掲げている。その背景には高齢化の進展と中高年の就業率の低下が存在する。フランスの高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は15%を超え、増加傾向が続いている。一方、失業率が悪化したオイルショック後(1970年代半ば以降)、若年層の雇用機会拡大を目的に、公的年金支給開始年齢の引き下げ(1983年)や早期・段階的引退時の所得保障制度(プレ年金)など、中高年労働者の早期引退政策を強化してきたこともあり、中高年の就業率は著しく低下している。EU(欧州連合)が「2010年までに高齢者(55~64歳)の就業率を50%とし、平均引退年齢を約64.9歳に引き上げる」という目標を打ち出すなか、フランスの2007年の55~64歳の就業率は38.3%で、EU加盟国の中で最も低い国の一つとなっている(EU27カ国の平均は44.7%)。

高齢化社会を支えるために、政府は、財政状況の厳しい公的年金制度について、2012年までに、フルペンション(年金の満額)受給に必要な保険料拠出期間を現行の40年から41年に延長するという改革案を発表した。高齢者がより長く働くようにならなければ、この改革は実現が難しい。政府は、公的年金制度の改正と並行して、今後も中高齢者の雇用促進策を進めていく方針だ。

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