斡旋の職を2回拒否で、失業手当支給停止
―求職者の義務と権利に関する法案を可決
失業保険制度の見直しと中高年の雇用促進策をすすめてきたフランスは、7月23日、「求職者の義務と権利に関する法案」を可決した。今後、公共職業安定所(ANPE-UNEDIC(注1))から斡旋された職を2回拒否した求職者は、求職者リストから2カ月間削除され、失業手当の支給が止められる。政府は、「失業者に対する個別の雇用復帰支援を充実させる一方で、失業保険制度を悪用していつまでも就職せずに手当をもらい続ける者に対してはペナルティーを科す必要がある」と説明している。
「合理的な職」を条件に設定
法案によると、公共職業安定所は求職者一人一人に、個別就職計画(PPAE:Project Personnalise d’ Acces a l’Emploi)(注2)を作成する。PPAEには、地理的条件、希望給与額、個々の求職者に適した職業訓練プランなどが記される。このPPAEに基づき、公共職業安定所は「合理的な職」を求職者に紹介する。なお、「合理的な職」の条件については、定期的に見直され、失業期間が長くなればなるほど厳しくなる。しかし、失業期間が長いからといって、その地域・職業で慣行となっている賃金、及びSMIC(法定最低賃金)を下回る水準の賃金を受け入れるように強いられることはない。
この「合理的な職」の条件は以下のように定め、条件に合致する職を2回断った求職者は、求職者リストから削除される。△失業から4カ月経過した求職者=職業資格・能力と一致し、かつ従前の賃金の95%以上の賃金△失業から6カ月経過した求職者=従前賃金の85%以上の賃金で、通勤時間が公共交通機関を使用して最大1時間、距離にして30キロ△失業から12カ月経過した求職者=本人の能力に適合し、通勤時間が公共交通機関を使用して最大1時間、距離にして30キロで少なくとも失業手当(多くの場合、従前賃金の約57%)の水準の賃金を得られる。
求職活動の免除制度、段階的廃止
法案には、求職活動の免除制度の段階的廃止も含まれている。同制度は、57.5歳以上の失業者は、一定の条件を満たせば再就職活動をしなくても、失業手当を受給することができるというもので、1984年に導入された。現在、(1)57.5歳以上の失業手当受給者(2)160四半期の保険料納付期間を証明した55歳以上の失業手当受給者(3)55歳以上の特別連帯手当(ASS:Allocation de solidarite specifique)(注3)の受給者――が求職活動を免除されており、その数は40万人に上るといわれる。政府は、6月末に発表した新たな中高年の雇用促進策(注4)に同制度の廃止を盛り込み、今回の法案でその具体的なスケジュールを決定した。
法案によると、免除制度は2012年1月1日に完全に廃止する(注5)。これに向けて、免除の対象者を3段階で減らす。まず、2009年1月1日以降は、(1)58歳以上の失業手当受給者(2)56.5歳以上のASS受給者、及びいかなる手当も受給していない求職者。次に、2010年1月1日以降は、(1)59歳以上の失業手当受給者(2)58歳以上のASS受給者、及びいかなる手当も受給していない求職者。そして、2011年1月1日以降は、手当の受給にかかわらずすべての60歳以上の求職者――スケジュールを設定している。
中高年の就業率向上へ
フランス政府は、2012年までには失業率を5%に引き下げ、就業率を70%に引き上げるという目標を掲げている。その背景には高齢化の進展と中高年の就業率の低下が存在する。フランスの高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は15%を超え、増加傾向が続いている。一方、失業率が悪化したオイルショック後(1970年代半ば以降)、若年層の雇用機会拡大を目的に、公的年金支給開始年齢の引き下げ(1983年)や早期・段階的引退時の所得保障制度(プレ年金)など、中高年労働者の早期引退政策を強化してきたこともあり、中高年の就業率は著しく低下している。EU(欧州連合)が「2010年までに高齢者(55~64歳)の就業率を50%とし、平均引退年齢を約64.9歳に引き上げる」という目標を打ち出すなか、フランスの2007年の55~64歳の就業率は38.3%で、EU加盟国の中で最も低い国の一つとなっている(EU27カ国の平均は44.7%)。
高齢化社会を支えるために、政府は、財政状況の厳しい公的年金制度について、2012年までに、フルペンション(年金の満額)受給に必要な保険料拠出期間を現行の40年から41年に延長するという改革案を発表した。高齢者がより長く働くようにならなければ、この改革は実現が難しい。政府は、公的年金制度の改正と並行して、今後も中高齢者の雇用促進策を進めていく方針だ。
注
- 公共職業安定所ANPEと失業保険制度の運営機関であるUNEDICは、失業保険の給付と求職活動支援をひとつの組織で対応する(ワンストップサービス化)ために統合されることが決まっている。なお、フランスの失業保障制度は、労使が拠出した保険料を主な財源として経営者団体と労働組合により運営される「失業保険制度」と、国の扶助制度のひとつで失業保険制度による手当の受給権を満了した長期失業者や困難な状況にある求職者に一定額の手当を支給する「連帯制度」に大別される。
- 個々人が求職活動を行うにあたっての基本行動計画となるもので、失業者の再就職活動を円滑に進めることを目的として、公共職業安定所が個別に作成する。失業者は求職登録後、公共職業安定所による聞き取り調査を受ける。具体的には、学歴、資格、職業経験、家庭事情(子供の有無などにより、どの程度の就労が可能かどうか等)、通勤事情(自宅からの通勤圏の決定や転勤の可能性について等)、その地域の雇用情勢などが精査される。その上で、求職者の希望を考慮して、再就職にふさわしい業種や職種、雇用形態、(希望)賃金、勤務地、必要な職業訓練等、再就職活動の方針を定めたPPAEが作成される。
- 受給期間を満了した長期失業者に国から支給される手当。雇用契約終了前の10年間で5年以上働いており、収入が一定限度額以下でかつ効果的に仕事を探していることなどが条件。支給期間は6カ月。更新可能。
- 政府は、6月26日に、公的年金制度の改正に関する政労使協議の場で、新たな中高年の雇用促進案を発表した。その主な内容は、(1)中高年の採用や雇用の維持を定めた企業別(従業員数300人以上の企業が対象)や産業別の協定の締結を、2009年末までに義務づける(2)賃金労働者が退職する年齢を自由に選択できるようにするために、定年や就労年限を全廃する(3)60歳以降の就労促進のため、就労しながら年金を受給する要件を緩和(4)就労を継続して年金受給を繰り延べた場合の年金額割増率を引き上げる(5)高年齢失業者の求職活動免除規定の廃止(6)中高年の従業員の解雇規制強化、等である。
- 2012年1月1日より前に、免除を認められた者については、制度の適用が継続する。
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