最近の最低賃金事情

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  • 国別労働トピック:2008年9月

中国で最低賃金の引き上げが相次いでいる。上海市など多くの外資企業が集中する沿岸部を中心に昨年比で10%~20%の上昇となっている。賃金の上昇は消費者の購買力を底上げするなどプラスの効果が大きい反面、原材料の高騰や人民元高などが重なって、企業に対する負担を重くしている。中国の最近の最低賃金事情を検証してみる。

制度の概要

1993年11月、労働部が『企業最低賃金規定』を公布、同時に『最低賃金保障制度実施に関する通達』、『賃金支給規定』等の法規を制定した。中国で最低賃金制度が実施されるようになったのはこの時からである。その後2004年1月、労働・社会保障部が新たな『最低賃金規定』を公布し、労働部が公布した『企業最低賃金規定』の一部を修正するとともに補足を行った。

『労働法』第48条は、「国は最低賃金保障制度を実施する。最低賃金の具体的基準については、省、自治区、直轄市の人民政府が規定し、国務院に届け出る」と規定している。つまり、中国は最低賃金制度を採用するものの、全国統一の最低賃金基準を定めているわけではない。中央政府は立法を通して最低賃金基準の決定や調整、最低賃金の実施と監督といった問題について原則的な規定を定めるに過ぎず、実際の最低賃金基準を定めるのはそれぞれの地方ということになる。

最低賃金では通常、最低月給基準と最低時給基準の形式が採られる。最低月給基準は全日制の労働者に適用され、最低時給基準は非全日制の労働者に適用される。最低賃金基準の決定に当たっては、政府、労働組合、企業の三者の代表が協議するのが原則。まず国務院の労働保障行政部門の指導の下で、省、自治区、直轄市の人民政府の労働保障行政部門が同レベルの労働組合、経営者団体と共同で検討して決定し、その地方の商工業連合会、財政、民政、統計部門の意見を聞く。各地で最低賃金基準を決定する際には、地域間の差異や特徴を考慮し、経済発展の程度に応じてそれぞれの地域に応じた最低賃金基準を定めるべきとされている。一般に、最低賃金基準は、失業保険基準を上回り、その地方の従業員の平均賃金を下回るものとなっている。

最低賃金基準とその適用範囲が決まった場合、省、自治区、直轄市の人民政府に届け出て許可を得なければならず、現地の政府公報と少なくとも一種類の地方新聞で発表しなければならない。最低賃金基準が公布実施された後、最低賃金基準制定時に参考とされた各種指標、たとえばその地方の最低生活費、従業者の平均賃金、労働生産性、都市部の就業状況、経済発展水準等に変化が生じた場合、又はその地方の従業者の生活費指数の変動が大きくなった場合、最低賃金は適時に調整されなければならない。2004年の『最低賃金規定』で最低賃金基準は少なくとも2年に1回は調整されることとなった。最低賃金制度が実施されてから現在に至るまでに、全国の31の省、直轄市で最低賃金基準が制定され、経済発展や市場の物価水準の変動に伴って最低賃金基準の調整が行われてきた。主要都市における最近の最低賃金改訂の状況について以下に述べる。

主要都市の状況

主要都市の2007年と2008年の最低月給基準の動きをまとめると表1のようになる。

表1:主要都市の最低賃金の動き
  2007年 2008年 増加率
北京 730元 800元 110%
上海 840元 960元 114%
深セン(特区) 850元 1000元 118%
深セン(特区以外) 750元 900元 120%
広州 780元 860元 110%

出所:各都市ウェブサイトより作成

【北京市】

北京市は2008年7月1日から、時給で4.36元以上、月給で730元以上としていた最低賃金水準を、時給で4.6元以上、月給で800元以上に引き上げた。また、非全日制労働者の最低時給基準は8.7元/時間から9.6元/時間となり、非全日制労働者の法定の休日の最低時給基準は20元/時間から22元/時間に引き上げられた。

北京市政府はまた、出来高払いの賃金形式を採る企業につき、労働者が法定の勤務時間内に労働を提供した場合に得る賃金が北京市の最低賃金基準を下回らないよう規定している。北京市政府はこのほか、生産経営が正常に行われ、経常利益が持続的に増えている企業については、原則として、労働者が法定の勤務時間内に労働を提供した場合に得る賃金が最低賃金基準を上回るべきだと規定している。また逆に生産、経営上に難があり、どうしても最低賃金基準で全労働者又は一部の労働者に賃金を支払うことになる場合には、集団交渉を通して決定するか、又は従業員代表大会での話し合いで決定すべきことを定めている。

【上海市】

上海市は2008年4月1日から、最低賃金基準を840元から960元に調整し、最低時給基準は7.5元から8元に調整した。上海市が実施した最低賃金基準の改訂は今回で16回目となる。基準額の調整では主に、上海市の経済発展水準、従業員の平均賃金の上昇率、住民の消費物価指数の変動といった要素が考慮されるが、昨年以来上海市では消費者物価が急激に上昇しており、低所得者層に対する物価上昇の影響が比較的大きいことから、今年行われた最低賃金基準の引き上げ額は近年来最大のものとなった。

【広東省】

広東省では2008年4月1日、基準額の調整が実施された。広東省は、原則として広東省政府が定める基準が一律適用されるが、深セン市については『深セン特区最低賃金条例』に基づく。条件が整っている地域では省政府が定めた基準をさらに上方修正することが認められているが、基準の下方修正は許されない。一部の市で都市部と比較して経済発展レベルの格差が比較的大きい場合には、低い方の基準を適用することができる。広東省では、各地とも最低賃金制度を厳格に実施しており、通達が下されてから15日以内にそれぞれの地域の最低賃金基準を発表することが求められている。

物価の高騰が続く深センでは、最低月給基準が福田、羅湖、塩田、南山の各特区で前年の850元から17.6%引き上げられ1000元に、宝安、龍崗など特区以外では750元から20%引き上げられた900元となった。他方、広州市では一類基準が適用され、全日制の最低月給基準が860元、非全日制の最低時給基準が4.94元となっている。珠海、佛山、東莞、中山では二類基準が適用され、最低月給基準が770元、最低時給基準が4.43元とされ、汕頭、恵州、江門では三類基準が適用、最低月給基準670元、最低時給基準は3.85元とされた。さらに韶関、河源、梅州、汕尾、陽江、湛江、茂名、肇慶、清遠、潮州、掲陽、雲浮では四類基準が適用され、最低月給賃金は580元、最低時給基準は3.33元となっている。

【大連市】

大連市では、2007年12月20日に最低賃金を調整した。中山区、西崗区、沙河口区、甘井子区、旅順口区、金州区、長海県の最低月給基準が600元から700元に調整され、瓦房店市、普蘭店市、庄河市では500元から600元に調整された。また、経済技術開発区、大連保税区については、650元から700元に調整されている。最低時給基準は中山区、西崗区、沙河口区、甘井子区、旅順口区、金州区、長海県で5元を7元に、瓦房店市、普蘭店市、庄河市が4.5元を6元、大連経済技術開発区、大連保税区については、5.5元を7元に調整した。

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