州別最賃、引き上げの動き
―連邦最賃引き上げの影響か

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  • 国別労働トピック:2008年7月

米国では2つ以上の州にまたがって事業を展開し、年商50万ドル以上の事業主を対象とする連邦最低賃金とともに、各州で規定する州別最低賃金制度がある。連邦最賃が昨年7月、10年ぶりに引き上げられ(本海外労働情報2007年7月参照)、州別最低賃金の引き上げの動きや市や郡で定めるリビングウェィジ(生活賃金)条例の見直しの動きが出ている。

州別最賃、33州で連邦最賃よりも高水準

州別最賃が連邦最賃の現行水準(時給5.85ドル)よりも高水準で定められているのは現在33州で、そのうちの8州は、段階的引き上げが実施される連邦最賃の最終到達額である7.25ドル(2009年7月)をすでに抜いている。今後の引き上げ予定としては、ワシントンDC:7.00ドルから7.55ドルへ(今年7月24日)、イリノイ州:7.75ドルへ(今年7月1日)、8.00ドルへ(2009年7月)、8.25ドルへ(2010年7月)(ただし、家族労働者除く従業員4人以上が対象)、ミシガン州:7.40ドルへ(今年7月)(ただし従業員2人以上が対象)。州別最賃の連邦最賃との水準の比較については図1を参照。

州別最賃の改正をめぐっていくつかの州で波乱が見られた。コネチカット州では、州議会で最賃引き上げ法案が可決し、州知事によって拒否権が行使され、その後、議会が知事の決定を覆す判断を下した。同州議会で可決された法案では、2009年1月に現行の1時間当たり7.65ドルを8ドルへ、2010年1月にはさらに8.25ドルに引き上げるという内容だった。ジョディ・レル州知事(共和党)は、経済が全国的に低迷している中、企業経営や労働市場にマイナスの影響を与えることは避けたいという理由から、5月27日、州最賃を引き上げる法案に拒否権を行使した。

これに対し州議会は、6月23日、知事の拒否権を覆す決定をした。知事は、「あまりに近視眼的な決定だ」と不満をあらわにした。さらに「私は過去、最賃引き上げを推進してきた。経済状態が好転したときには実際に引き上げをしようと考えていたのだが」とつけ加えた。

ミネソタ州では、企業規模別に2種類の最低賃金を設定している。年商62万5千ドルを基準とし、この額以上の大企業と未満の中小企業とに分け、州議会は5月9日、それぞれの最賃額を14カ月の間に1.6ドル引き上げる法案を可決した。7月24日に、大企業については一時間当たり6.15ドルから6.75ドルに、中小企業は5.25ドルから5.75ドルに引き上げ、続いて来年同日にそれぞれ1ドルずつ引き上げるという2段階で実施するというものである。上院では賛成40票対反対18票、下院では賛成89票対反対45票という大差がついた票決だった。

しかし、ティム・パウレンティ州知事は、5月15日、この法案に拒否権を行使した。知事は過去、最賃引き上げの推進者だったが、今回の法案に対しては時期尚早とし、引き上げ幅も高すぎるとコメントしている。拒否権を行使された後の州議会の対応については未詳。

オレゴン州では2008年1月に7.8ドルから7.95ドルに引き上げている。同州やワシントン州などでは、消費者物価指数の変動を基準として毎年、最低賃金の見直しを行っている。オレゴン州では昨年の物価上昇が1.97%プラスであったため、0.15ドルの引き上げを決定した。2002年11月にこの制度を開始し、2003年以降、毎年、0.15ドルから0.4ドルの引き上げを行い、2002年の6.5ドルの水準から2008年の7.95ドルの水準まで引き上げられた。

図1

:高い水準 :同水準:規定無 :低い規程あり

出所:連邦労働省ウェブサイトリンク先を新しいウィンドウでひらく(2008年6月26日現在)

リビングウェィジをめぐり裁判も

アメリカでは連邦及び州別最低賃金のほかに市や郡で定めるリビングウェィジ条例がある。法定最低賃金よりも高い水準を生活賃金の水準として定め、主に公的機関が契約する案件の事業主に対して、高い水準の賃金を支払うことを求めるものである。

カリフォルニア州最高裁は、6月11日、シンタス社がヘイワード市のリビングウェィジ条例に違反していると判断し従業員219人分、約144万ドルを支払うように命じた。同社はヘイワード市にユニフォームを納品する提供する契約を締結していた。事業所が市境の外に位置しているため、同社はリビングウェィジ額を支払う必要はないと判断していた。市の条例の適用範囲はかねてより論議の的となっていたが、今回一つの司法的な判断が下されたことになる。(注1

ロサンゼルス市でも市内特定地域のホテルを対象としたリビングウェィジ条例に関して適用範囲の解釈をめぐる訴訟が起きている。同市では市議会が2006年11月「ホテル・ワーカー・リビングウェィジ条例」を可決。本来は公的機関との契約案件を対象として適用されるリビングウェィジ条例だが、地域開発に市の予算が投じられており公共性が高いとの判断からセンチュリーブルーバード(ロサンゼルス国際空港への幹線路)地区の13のホテルに対して同市が定めるリビングウェィジ水準を支払う条例を可決した。健康保険制度のある企業では時給9.39ドル、制度のない企業では10.64ドルと定めるものである。

これに対して、ホテル及びその支援者は、本来のリビングウェィジ条例の範囲を逸脱しているとして署名を集め、条例を無効とするか、住民投票にかけることを求める請願をした。両者の話し合いがもたれ、1月31日に条例を見直すことで合意した。

これを受けて、2007年2月21日、市議会が改正した「区域条例」を可決。ロサンゼルス国際空港近辺に限定し段階的にリビングウェィジを適用する内容が盛り込まれた。ロサンゼルス国際空港は市が所有するものであり、空港関連からの収益が数千万ドルに及ぶとされ公共性が高いという理由からである。これに対して、2月28日ホテル側は再び反発。ほぼ同じ内容の条例を可決することは、1911年州憲法に違反すると訴えた。カリフォルニア州地方裁判所は5月2日、実質的に二つの条例に違いはないことを認め、ホテル側の訴えを支持する判決を下した。ところが、この訴えに対して控訴審では、2007年12月27日、二つの条例は十分に異なる内容になっており違憲性はないとの判断のもと同条例は有効との判決を下した。さらに、今年4月9日にカリフォルニア州最高裁の判決があり、ホテル側の上告を棄却し、条例は有効との判断が下された。

連邦最賃の引き上げの影響もあり、リビングウェィジ条例を改正する動きもある。ニューメキシコ州サンタフェ市では、市との契約案件以外にも、市に事業登録が必要なビジネス分野に関して従業員25人以上の企業を対象とし、時給9.5ドルの水準の支払いを義務づけるリビングウェイジ条例がある(2003年制定、2005年改正)。

連邦最賃引き上げ間もない2007年9月4日、この条例の対象範囲をすべての労働者に拡充するという内容の発表をデイビッド・コス市長が行った。これは市の企業団体とリビングウェィジ引き上げを支援する団体による合意に基づくものである。

サンタフェ商工会議所のサイモン・ブラックレイ会頭は、サンタフェ市の企業のほとんどは、従業員25人以下であっても現行のリビングウェィジ額を支払っているので大きな問題はないとしながらも、連邦最賃が引き上げられることに引きずられるようにリビングウェィジ額が上がることに対しては非難のコメントをしている。ニューメキシコ州では、連邦最賃引き上げに先立つ2007年3月州別最賃引き上げを発表し、2008年1月、6.5ドルに引き上げ、2009年1月に7.5ドルに引き上げる予定である。

時間給労働者の2.3%が最賃以下で就労

労働統計局が2008年3月25日に発表した人口動態調査(Current Population Survey)の推計によると、2007年、最賃以下で就労する労働者数は172万9000人で、7583万人の時間給労働者の2.3%に当たる。ちなみに、時間給労働者は雇用労働者の58.5%に相当する。

2006年と2007年のデータを比較すると、最賃未満で就労する労働者数は128万3000人から146万2000人に増加、最賃同額で就労する労働者は40万9000人から26万7000人に減少、以上の2つを合計した最賃以下で就労する労働者数は169万2000人から172万9000人に増加する結果が示されている。過去の最賃以下で就労する労働者の動向については表1を参照。

出所:連邦労働省ウェブサイトリンク先を新しいウィンドウでひらく「最賃労働者の特徴」表10より筆者が作成

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