申請数、発給枠の2倍に
―学士以上取得の就労ビザ

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2008年6月

IT企業などが外国人技術者を雇用するのに必要なH-1Bビザ(特殊技能を要する職業のためのビザ)発給の申請が4月1日から1週間受けつけられた。ビザの年間枠発給数は6万5000人で、これとは別に修士・博士学位取得者を対象とする2万人の追加枠が設けられている。今回の募集は、2008年10月1日からの雇用を対象とするもので、申請総数は16万3000人にのぼり募集数の2倍近くあった。特別枠に限っても3万1200人分の申請数があった。市民移民サービス局は4月中旬に抽選によって8万5000人を決定した。企業の外国人技術者への需要は強いとして、ビザ発給枠の拡大を求める声が経営者の中で強まっている。一方、アメリカ人技術者の賃金水準の低下につながりかねないとして、慎重論も出ている。

特殊技能労働者が不足

H-1Bビザとは、建築、工学、数学、物理学、医学・衛生、教育、経営学、会計、法律、神学そして芸術など特定分野での学士以上の学位を対象としている(アメリカにおけるこの他のビザに関する概要は表1を参照)(注1)。滞在期間は3年とし、更新は1回可能で最大で6年間。申請者の多くはIT関連企業だ(表2参照)。

ソフトウェア企業オラクル社は1000人の外国人特殊技能者の雇用を申請したが、希望が通る見込みは薄い。同社のロバート・ホフマン副会長は、昨年、技術者が不足し、アイルランドやインドで事業を展開せざるをえなかったと述べている。また、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長は3月12日、下院科学技術委員会の公聴会に出席し、H-1Bビザの発給数が経営者の申請数を大きく下回っている事態が続いているために、発給枠を拡大するよう求めた。また、今年の10月に採用できるのは、前年の5月から6月での学位取得者であり、ビザ取得時期の見直しが必要だと指摘した。

全米商工会議所の移民政策担当シニア・マネージャー、ケリー・クリーガー・ハント氏は、現在はIT産業の技術者に多いビザ取得者を他の多くの職種に広げるべきだと主張。学士以上の学位取得者の失業率は2.1%でほぼ完全雇用に近い状態にあり、高技能の移民労働者の需要は大きく、ビザの上限枠を引き上げるように働きかけているとしている。

雇用枠拡大の法案の提出続く

実際にH-1Bビザ発給数拡大を目的とする法案が議会に提出されている。ガブリエル・ギフォード下院議員(アリゾナ州選出・民主党)は、3月13日、2009年度の上限を13万人に引き上げ、2010年から2015年まで年間18万人に引き上げる「イノベーション雇用法案」を提出した。また、ラマー・スミス下院議員(テキサス州選出・共和党)は3月14日、2008年から2009年にかけて上限を19万5000人に引き上げる「米国技術とイノベーション促進法案」を提出した。さらに、ジョン・コナン上院議員(テキサス州選出の共和党)は4月10日、2009年から2011年まで上限を11万5000人とする「グローバル競争法案」を提出した。同法案では、主要なインド企業が短期間インド人をアメリカに入国させ技術分野の外注業務の請け負いを可能とする施策も含まれている。

国内労働市場を活性化するとの調査結果

高技能移民労働者を雇用することはアメリカ国内の労働市場にも好影響を与えるという調査結果がある。調査団体、National Foundation for American Policy(NFAP)によれば、H-1Bビザプログラムを通じて特殊技能移民労働者を雇用した技術系企業は、移民労働者1人当たり、アメリカ人労働者の雇用を5人分増やしているという調査結果を発表している。また、スタンダード・アンド・プアーズ500社(注2)では合計14万人分の求人があり、技術系企業では1社あたり毎月470人の求人を公表しているという。

ただ、この調査結果への反論もある。ハイテク労働者の集まり「プログラマーズ・ギルド」のキム・ベリー代表は、NFAPの調査結果は単に英語を話すことのできない守衛を雇うと、英語を話すことのできる労働者が同じ人数だけ必要となる論理と同じで因果関係に無理があると指摘する。また、もしもアメリカ人労働者を雇うとなれば、教育訓練の機会と割高な給与の支払いを要求される。企業は様々な技術分野で5年以上の経験者を採用したいと考えているが、教育投資をするつもりはない。だから、アメリカ人ではなくH-1Bビザ保有者が好まれると話している。

国内労働市場への負の影響も

H-1Bビザにかかわる経営者の不法行為が跡をたたない。ニューヨークの健康関連専門企業、アドバンスト・プロフェッショナル・マーケティング社は、雇用する156人のフィリピン人労働者を正当に処遇しておらず、約300万ドルが賃金未払いの状態になっていた。ピッツバーグにあるコンピューターコンサルタント会社アイ・ゲート・マステック社は30人のコンピュータープログラマーを採用する際、アメリカ人労働者を不当に排除し、H-1Bビザ保有者を優先したと法務省から指導を受けた。

リチャード・ダービン上院議員(イリノイ州選出・民主党)、チャールズ・グラセリー上院議員(アイオワ州選出・共和党)などは、H-1Bビザ拡大に対して慎重な姿勢を示す。在米外国企業、例えばインドのIT企業がH-1Bビザを活用して移民労働者を米国で就労させることは、3年か6年後に本国に帰国させて本社で雇うことを見込んでおり、アメリカ経済に対する競争相手を作り出すことと同じであるという。 しかも、インドIT企業は移民労働者をアメリカ人労働者に比べて低賃金で就労させており、H-1Bビザ就労者がアメリカ技術労働者の賃金ダウンの要因となっていると労働団体は批判している。また、ある経営者はインド外注企業によってビザの枠からはみ出しをくらっているとして、H-1Bビザ枠拡大の法案には反対している。

フロリダのIT関連企業では、職場でアメリカ人はまず見かけない。H-1Bビザ就労者と同水準で働きたいというアメリカ人技術者はほとんどいないだろうと、その企業に勤務するアメリカ人技術労働者は語っている。また技術労働者の雇用状態を良好だとしてH-1Bビザ発給枠拡大を求める声に対して、あるアメリカ人技術者は、4年間の求職の末に最近やっと現在の職を得たと語っている。彼は取材を受けたことが勤務先に知られることを恐れ匿名を条件として応えた。

出所:在日米国大使館リンク先を新しいウィンドウでひらくのホームページより作成

出所:New York Times, April 1, A19からの孫引き

参考

  • Daily Labor Report, March 12, No48, BNA
  • Daily Labor Report, March 13, BNA
  • Daily Labor Report, March 27 BNA
  • Daily Labor Report, May 6, BNA
  • Daily Labor Report, May 13, BNA
  • New York Times, April 1, A19
  • New York Times, April 11, A18
  • Wall Street Journal, April 9, A12
  • 連邦市民移民サービス局(USCIS)ウェブサイト

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