業種別最賃の拡大に暗雲
―郵便最賃に違法判決

カテゴリー:非正規雇用労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2008年4月

ベルリン行政裁判所は3月7日、1月に施行された郵便事業の最低賃金に違法判決を下した。業種別最賃の拡大をめざす連邦労働社会省はこれを不服として直ちに控訴した。郵便事業に続いて、労働者派遣事業の労使が最低賃金協約の業界全体への適用を申請しているが、より賃金の低い競合企業はこれに猛反発している。その他の業種では、これまでのところ労使の意見が合わず、3月末までの最低賃金の拡張適用申請は困難な状況となっている。

郵便事業への最低賃金の適用

2008年1月1日のドイツ郵便市場の完全自由化(50g以下の書状のドイツ・ポストの独占撤廃)と同時に、「国境を越えるサービスに係る強制的労働条件に関する法律」(労働者送り出し法)(注1)に基づく最低賃金が郵便事業に適用された。最低賃金の時給額は、ドイツ・ポストを中心とする郵便サービス事業者連合会と統一サービス労組(ヴェルディ)の最低賃金協約に基づき、郵便配達労働者が西部ドイツ9.8ユーロ、東部ドイツ9.0ユーロ、郵便仕分け労働者が西部ドイツ8.4ユーロ、東部ドイツ8.0ユーロ。

郵便サービス事業者連合会に加盟していないドイツ・ポストの競合企業のPINグループやTNTポストは、高すぎる最低賃金の業界全体への適用に激しく抗議した。両社は連邦宅急便サービス連盟(BdKEP)を結成し、新郵便・配達サービス労働組合(GNBZ)との間で西部ドイツ7.5ユーロ、東部ドイツ6.5ユーロの最低賃金協約を締結していた。PINグループの大株主の出版大手アクセル・シュプリンガー社は、最低賃金の導入による競争力の喪失を理由に同社への出資を凍結すると発表した。これによりPINグループの多くの企業が破産申請に追い込まれ、約3000人の労働者が解雇された。オランダ企業のTNTポストも、小包配達拠点を活用した個人向け郵便サービス事業への参入を断念し、企業向けサービスに限定する方針を発表した。

ベルリン行政裁判所判決、郵便最賃は競合企業の基本権を侵害

PINグループ、TNTポスト及び連邦宅急便サービス連盟(BdKEP)は1月末、過度に高い最低賃金の業界全体への適用は公正な競争を阻害するとしてドイツ政府に対する訴訟を起こした。

ベルリンの行政裁判所は3月7日、ドイツ・ポストの競合企業の訴えを認め、連邦労働社会相がより高い最低賃金を郵便業界全体に適用するのは法的権限を逸脱し、原告の基本権を侵害しているとの判決を下した。裁判所は、労働者送り出し法の規定は賃金協約に拘束されない使用者及び労働者を対象としており、一般的拘束力宣言を受けた最低賃金は他の賃金協約を排除してはならないとしている。

連邦労働社会省は、「今回の判決は連邦行政裁判所や連邦労働裁判所の判決に矛盾し、誤りである」として、直ちに控訴した。判決にかかわらず、郵便事業の最低賃金には引き続き効力があるとしている。ヴェルディは、「今回の判決は全く理解できない。労働者送り出し法を価値のないものにし、連邦議会の判断を形骸化しようとしている」と批判した。

グロス連邦経済相は、判決を「競争の勝利」と称賛した。キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の一部議員は、ショルツ連邦労働社会相に対し、労働者送り出し法と最低労働条件法の改正による最低賃金の拡大計画を放棄するよう要請した。PINグループの大株主の出版大手アクセル・シュプリンガー社は、連邦政府に対し、損害賠償の訴えを起こす可能性を示唆した。

労働者派遣事業労使が最低賃金の適用を申請

ショルツ連邦労働社会相は2007年12月、郵便事業を皮切りに、労働者送り出し法に基づく最低賃金の適用を派遣労働、食肉業、美容院、パン製造などの対象分野に拡大する方針を示した。その前提は、労働協約の適用率が50%以上ある分野の労使が最低賃金協約に合意し、2008年3月31日までに業界全体への適用を共同で申請することである。

労働者派遣事業の使用者団体の連邦労働者派遣事業者連盟(BZA)及びドイツ労働者派遣事業協会(iGZ)は2008年2月11日、ドイツ労働総同盟(DGB)とともに、労働者送り出し法に基づく最低賃金の適用申請をショルツ連邦労働社会相に提出した。最低賃金の時給額は、BZAが2006年3月、iGZが2007年9月にそれぞれDGBと締結した労働協約に基づき、西部ドイツ7.31ユーロ、東部ドイツ6.36ユーロを予定している。BZAとiGZに加盟する使用者は、派遣労働者約70万人のうちの過半数を雇用しており、労働者送り出し法の適用条件を満たしていると見られる。しかし、もう1つの労働者派遣事業の使用者団体である中小人材サービス企業使用者連盟(AMP)は、ドイツ・キリスト教産業労働組合(CGB)との間でより低い水準の賃金協約を締結しており、BZA、iGZとDGBの最低賃金協約への労働者送り出し法の適用に激しく抗議している。キリスト教民主同盟のポファラ幹事長は、労働者派遣事業は労働協約の適用率が100%の業種であり、今後、EU域内の新規参入業者が労働協約を締結しない場合にも、労働者派遣法に基づき派遣先事業所の正規従業員との均等待遇原則が適用されることから、同業界に国が関与する最低賃金を導入する必要性は全くないと主張している(注2)。

他産業への最低賃金の適用

連邦全体で約17万人が働く警備及び安全保障業は、労働者派遣事業に次いで、労働者送り出し法に基づく最低賃金導入に最も近い業界と見られている。将来、EU域内の労働者の移動の自由が東欧諸国にも適用されるのに伴い、使用者側も賃金の下限を設定する必要性を認めている。警備及び安全保障業の労働者の賃金は、現在、ザクセン州の時給4.4ユーロからバーデン・ヴュルテンベルク州の7.8ユーロまで大きな幅がある。警備及び安全保障業の全国連盟は、ヴェルディとの交渉において、西部ドイツ7~8ユーロ、東部ドイツ6ユーロの最低賃金を提案したが、ヴェルディは少なくとも時給7.5ユーロを強行に主張し、交渉は決裂した。使用者団体側は、現在、次なる協約相手として、キリスト教産業労働組合と交渉を行っている。

連邦全体で約16万人が働く廃棄物処理業でも労使が賃金ダンピング防止の必要性で一致している。現在、最低等級の協約賃金は、西部ドイツ7.94ユーロ、東部ドイツ7.35ユーロである。ヴェルディは時給10ユーロの最低賃金を要求しているが、使用者側はそれでは高すぎるとしている。

33万3000人が働く食肉業は、家族企業で働く15万5000人による伝統的な職人組合と大規模な賭殺場や加工工場などの食肉産業の2つに分けられる。食品・飲食・レストラン労働組合(NGG)は時給7.5ユーロの最低賃金を求めて、家族企業の職人組合と交渉を行っている。職人組合は、最低賃金が食肉産業にも適用される場合のみこれに従うとしているが、食肉産業は最低賃金に抵抗している。

その他、小売業、園芸、介護、ホテル・レストラン、パン製造、理髪師などの業界について、労働者送り出し法に基づく最低賃金適用の可能性が取り沙汰されているが、労使の意見が一致しておらず、2008年3月31日までの申請は困難と見られている。

参考レート

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