政府、再就職支援などに1億ポンド投入へ

カテゴリー:雇用・失業問題人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2008年11月

世界的な金融危機の影響などから、長く好調が続いたイギリス経済も景気後退に直面しつつあり、各企業で生産調整や人員整理などが進められている。政府は、景気後退の影響が著しい産業部門で失業の危機にある人々の再訓練や、支援の必要な離職者に対して優先的に職業訓練などを実施すると発表した。1億ポンドを投じ、円滑な再就職を図る考えだ。

16年ぶりのマイナス成長

イギリス経済は、昨年半ばの金融危機以降も多くの産業では目立った影響は表れておらず、経済全体としては緩やかな成長が続いていたが、昨年末から今年前半にかけて、経済成長の鈍化や雇用の伸び悩みなどの状況が生じ、経済・雇用の先行きには悲観的な観測が目立ちはじめていた。9月末に再び発生した世界的な金融危機をうけて、ついにこの10月、イギリスの中央銀行(イングランド銀行)は景気後退を宣言、政府もこれを認めた。10月末に発表された7-9月期のGDP成長率の速報値は、対前期比で0.5ポイント減と16年ぶりのマイナスに転じ、またこれまで比較的好調が続いていた雇用状況にも悪化の兆しが現れ始めている。

統計局が同月に公表した6-8月期の雇用関連統計によれば、失業率は5.7%で前期(3-5月)から0.5ポイント上昇、失業者数は前期から16万4000人増の179万人で、17年ぶりの増加幅となった。解雇者数も、前期比2万8000件増の14万7000件と増加を続けている。直近の9月の求職者給付申請者数は、前月から3万1800人増の93万9900人となった(注1)。

企業の人員削減策など相次ぐ

昨年の金融危機の影響を直接的に被ったとみられる金融部門では、過去18カ月ですでに約8万人が解雇されたとみられ、経営者団体のCBIは、年末までにさらに1万2000人が解雇されると予測している。また、製造業や小売業などでも、消費需要の落ち込みなどの影響から、人員整理・倒産による数百人規模の解雇や生産調整などが相次いで発表されている。現地メディアで10月に報じられた大規模な人員削減の事例としては、ヒューレット・パッカードの子会社のEDS(公共部門へのITサービスを実施)の3300人、自動車部品大手のGKNの1400人などで、GKNでは解雇と工場の閉鎖に加え、残る工場での稼働時間短縮を併せて実施するとしている。一方、UKフォードや国内の複数のGM工場、またホンダや日産の工場などでは、数日から数週間の一時的な操業停止や、稼働時間の短縮、生産量自体の圧縮を通じた生産調整の実施を決めており、同様の手法で人員削減の回避をはかる事例は多い。例えば、建設機械製造大手のJCBでは、350人の解雇を回避するため、イギリス国内7工場の2500人の組合員が、13週間にわたり週4日勤務とすることで組合側が合意したという(週当たり賃金額で50ポンドの減に相当)。

CBIは、製造業企業500社を対象とした調査の結果、年度末までの6カ月に6万5000人の人員削減が予想されるとしている。ただし、こういった解雇事例の全てが金融危機の直接の影響によるものではないとの見方もある。大手コンサルティング会社のKPMGが7月、民間企業や公共機関を対象に実施した調査によれば、約半数の53%の組織が人員整理を考えていると回答しているが、調査対象となった約500組織の8割は、金融危機による資金調達難などには直面していないと回答しているという。

景気回復は、長期にわたるというのが大方の見方で、失業者数は来年中に300万人にも及ぶとの予測もある。政府は、景気後退の影響が著しい産業部門で失業の危機にある人々の再訓練や、支援の必要な離職者に対して優先的に職業訓練を実施することなどを目的に、1億ポンドを投じると発表した。また、職業紹介や求職者給付などの窓口業務を行うジョブセンタープラスにおける離職者向けサービスを強化するとの方針を示している。離職者の円滑な再就職を支援することにより、国内で未だ60万件を超える求人の充足に結び付けたい考えだ。

参考資料

参考レート

  • 1英ポンド(GBP)=156.38円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2008年11月5日現在)

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