IGメタル、8%の賃上げ要求へ
―ユーロ圏全体が交渉の行方を注視

カテゴリー:労使関係

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2008年10月

ドイツ最強の金属産業労組(IGメタル)は9月23日、組合員360万人を対象に過去16年間で最高となる8%の賃上げを要求する方針を明らかにした。これについてドイツ連邦銀行(中央銀行)のウェーバー総裁は同日、2009年の同国の経済成長率が1%をやや下回る可能性があるとの見方を示し、社会民主党(SPD)らとの会合で、節度ある賃金協定に同意するよう労働組合に呼びかけた(注1)。欧州中央銀行(ECB)も9月上旬時点にすでに、賃上げによるインフレの二次的影響を警告し、高い賃上げを要求しないよう訴えていた。だが、要求は、同国のインフレ率(約3.3%)を大幅に上回るもの。ドイツ金属労使の合意内容は、ドイツ全地域の交渉を左右するモデル賃金協約としての意味合いを持つとともに、ユーロ圏15カ国の賃金交渉にも影響を及ぼすため、ユーロ圏全体の注目の的となっている。

IGメタル会長、景気回復の恩恵を労働者にも

今回の要求についてベルトホルト・フーバー・IGメタル会長は、「金属産業はドイツ経済成功の主軸のひとつ。要求は、景気拡大による利潤の公正な分配を目指すとともに、これまで賃金抑制に耐えてきた労働者の期待に応じたもの。十分正当化される」などと主張した。同氏によると、金属産業では、2004年から2007年に工場収益が220パーセント上昇したが、労働者の実質賃金の伸びは2%に過ぎないという。また、同賃金交渉中央部長のアルマン・シント氏は、原油、食料品、住宅価格の上昇を背景に賃上げの必要性を訴えている。

使用者側はこの要求を非現実なものとして撥ねつけている。金属産業経営者連盟(ゲサムトメタル)のマーティン・カンネギーサー会長は、「ドイツの金属労働者の賃金は世界で最高水準だ」として、組合側の理解を求めている。

だが、IGメタルに限らず、同国の労働組合は総じて、近隣諸国よりも急速な景気回復を遂げたのは数年にわたる賃金抑制によるものだとの認識で一致しており、徐々に要求水準を高めている。ハンス・ベックラー財団の調査によれば、2000年から2008年の間に実質賃金が低下(-0.8%)したのはEU加盟諸国中ドイツのみだった。2007年の賃金交渉ラウンドでは、各部門の労組が大幅な賃上げを要求し、ストライキが多発。2008年に入ってからも、より高い賃上げを求めて運輸、郵便、酪農部門の労組がストを打った。ルフトハンザ航空の労組は、ストの末、8月に5.1%の賃上げを勝ち取ったばかりだ。ドイツ経済・社会科学研究所(WSI)の調査によれば、2007年に締結した賃金協約における平均賃上げ率は2.2%で、2008年には3.3%に達するとの予測を示している(注2)。

欧州中央銀行・ドイツ銀行、賃金-物価スパイラルを警告

賃上げ圧力が高まるなか、欧州中央銀行(ECB)のジャン=クロード・トリシェ総裁は9月上旬、賃上げによる物価上昇スパイラル(いわゆる二次的影響)の危険を警告し、大幅な賃上げを要求しないようユーロ圏の労働者に呼び掛けていた。インフレの昂進に伴い実質賃金が低下すれば、労働者は賃上げを主張する。そして労働コストが上昇すれば物価が一層上昇することになるためだ。ドイツ銀行チーフエコノミストのノルバート・ウォルター氏も「急激な賃上げは、短期間にインフレ効果を生み、成長力が弱まるだろう」とコメントし、賃上げがもたらす危険に警鐘を鳴らしている。一方で、ECBがインフレ圧力を懸念するのは、ユーロ圏の労働組合が、数年にわたり抑制されてきた賃金の大幅な引き上げを要求するのを阻むのが狙いかもしれないとの見方もある。

全16州のうち2州の金属労働者についての賃上げ交渉第1ラウンドは10月2日にスタートする。現行の賃金協定の期限は10月31日。IGメタル側は期日までに合意がみられなければ、ストを辞さない構えだ。なお、昨年IGメタルは6.5%の賃上げを要求し、4.1%で妥結。今年にになって、これに加え1.7%の賃上げを獲得している。

資料出所

  • Deutsche Well(2008年9月24日、9月15日)
  • Spiegel Online(2008年9月8日)
  • Bloomberg.com(2008年9月4日)
  • ダウ・ジョーンズ債券・為替情報(2008年9月24日、8月19日)
  • EUROnline(2008年9月22日、9月15日、8月20日)

2008年10月 ドイツの記事一覧

関連情報