職業経験認定制度、伸び悩む利用者数

未来予測・公共政策評価・デジタル経済開発担当閣外大臣のエリック・ベソン氏は、9月4日、職業経験認定制度(VAE)の評価報告書『職業経験の評価を高める:VAE措置の評価(VALORISERL’ ACQUIS DE L’EXPERIENCE:Une evaluation du disposif deVAE)』を発表した。VAEは、3年以上の職業経験のある者を対象に、職業経験(ボランティア労働も含む)から得た知識・技術を認証し、職業の資格・免状を与えるという制度で、2002年1月の社会近代化法(loi de modernization social)で制定された。この制度を通じて、年間でおよそ6万人が資格を取得すると政府は見込んでいたが、制度開始から6年間でVAEによる資格取得者は、わずか7万7000人であることが明らかになった。政府は、制度の機能不全を認めるとともに、課題を明らかにし、同制度をさらに発展させていく意向を示している。

資格所得に職業経験を評価

労働協約や企業協定を通じて資格取得者に一定の賃金水準の保障が図られているフランスでは、学校体系に応じた段階的な資格体系が整備されているだけでなく、各職業教育訓練を通して取得した資格に応じて就業可能な職業の範囲が明瞭に区分されている(表1)。

こうした資格社会において、最低でも職業適性証(CAP)、職業教育就業免状(BEP)を取得していなければ職に就くことは難しい。資格の有無・内容が、就職や社会経済的地位を決定する要因となっており、資格を持たない者の就職・転職は困難な状況にあるにもかかわらず、学業不振などを理由に資格を取得できない者が増加しており、その対策が求められていた。そのひとつとして、職業経験を通じて習得した知識・技能を評価して資格取得の機会を広げるという試み(VAP:Validation des acquis professionnels)が1980年代半ばから始まり、VAPを整備・拡充したものとして、2002年にVAEが制定された。

VAEは、3年以上の職業経験のある労働者を対象に、労働の経験そのものを認証するというもの。申請した活動内容が職業経験として認められれば、教育法典L335-6条の定める職業資格総覧や雇用男女同数委員会の作成した部門別職業資格総覧に登録されている資格・証明書、職業資格証明書(CQP:Certificat de qualification professionnelle)を取得できる。制度発足以来、申請者数が多かった資格の内容は、職業能力のレベルV(CAP、BEP)の資格だった。具体的には、2006年では、(1)弱い立場の人々を対象とする職業(社会生活支援者、乳幼児の集団的受入れ、準看護師)又は規制のある職業(独立開業するために必要な美容師職業資格、公務員として本採用されるために必要な免状等)に関するもの(2)企業によるサービスの質を保証するための規制という観点から必要性が明らかなもの(3)労働編成及び採用が、免状によって構成されているような労働市場に属するものが多かった(表2)。

(『フランスの労働事情』1990年p208/2001年p187および『専門高校の国際比較-日欧米-の比較-』P38を参考に作成)

出典:DARES、資格認定を行う省庁のデータ(2006年)より

申請に必要な職業経験の期間については総計で3年以上で、連続している必要はない。ただし、企業での実習期間は対象外である。すべての労働者が対象だが、資格を取得せずに学校を卒業した者、斜陽産業(あるいは転換期にある職業)に携わっているか、過去に携わったことのある者、派遣など不安定な職にばかり就いてきた者、これから安定した職に就こうとしている者などを優先的対象者に想定している。

煩瑣な手続きなどで機能不全に

VAEを利用する資格取得者を年間で6万人程度と政府は見込んでいたが、利用者数はいっこうに伸びず、資格取得者数は制度開始から6年間で7万7000人にすぎなかった。利用者数の伸び悩みについて政府は、制度に関する情報不足や手続きの複雑さが原因としている。特に、優先的対象者である「職業資格を持たない」人については、制度の存在自体を知らない人が多く、また、あまりにも手続きが複雑すぎて途中で申請を取りやめるケースが続出していることも判明した。実際に、申請書を提出してから最終の面接審査に辿りつくまでに8カ月以上かかり、申請者の5人のうち1人は手続きに2年以上かかり途中で断念していることがわかった。

VAEを利用して資格を取得しようとする者は、(1)VAEに関する情報の入手(2)取得したい資格の決定(3)受理基準に関する書類(活動期間や活動内容の証明等)の提出・審査(4)より詳細な活動内容やそこから得た経験と、希望資格との関連性に関する書類の提出・審査(5)審査員による面接――という5つのプロセスを踏む。

報告書では、こうしたプロセスで生じている問題点として、(1)VAEに関する情報提供が分散しており、さらに地域圏・組織によって情報にばらつきがある(2)主に大学などが交付する資格や証明書の数が1万5000以上も存在し、申請者にとって自分の経験がどの資格に結びつくのか見極めることが困難である(3)そろえなくてはならない書類が多すぎる(4)申請者に対するサポート体制が十分でない(5)審査員による面接にたどりつくまでに時間がかかりすぎる――等を挙げている。

申請者のサポートについては、書類の準備・作成のための有給休暇(VAE休暇)や専門家によるアドバイス(有料)などがあるが、あまり有効に利用されていない。また、審査員をそろえることができず審査日程を組めないという問題も指摘されている。その理由として、審査員に対する報酬が不十分であることや、そもそも審査員を務められるほどの専門的知識をもつ人が少ない――ことが考えられる。

企業ニーズも考慮し制度改正へ

こうした報告を受けて政府は、VAEの機能不全を認めながらも、資格や証明書を取得するための従来の方法(初期職業訓練、生涯教育、交互訓練)を補完するひとつの手段としてのVAEの有効性を強調し、今後も制度の改革・拡充を図るとしている。

具体的には、VAEの認知度を高めるとともに、資格や証明書の交付を簡易化し、制度を分かりやすいものに改善することが必要であるとし、(1)国レベルで制度に関する情報を広める(2)制度の優先的対象者に的を絞った情報提供を実施する(3)VAE発展のための省庁横断委員会(CI-AVE)が手続きを一本化し情報提供の調整を行う(4)職業資格総覧を管理する「職業資格委員会」の権限を強化する(5)書類審査の期限を短縮する(6)審査員の招集に期限日を設け報酬を上げる――等の改善策を挙げている。

さらに、VAEがうまく機能しないもうひとつの大きな理由として、企業側との連携が図りにくく、雇用政策にもうまく組み込まれていない現実を指摘している。政府は、VAEは企業にとってより有能な人材を獲得しやすくすると主張しているが、企業側はVAEによって資格を取得した労働者が賃上げや企業にとっては不都合な異動を要求してくるのではないかという懸念を抱いている。こうした状況に対し、政府は、今後は企業のニーズに合わせた制度のあり方についても検討していく必要があるとしている。

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