労働争議が急増

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  • 国別労働トピック:2008年10月

『労働契約法』(今年1月施行)および『労働争議調停仲裁法』(今年5月施行)の実施以来、中国で労働争議件数の増加が目立つ。争議件数の急激な増加により、労働争議仲裁委員会や人民法院(裁判所に当たる)における審理業務にも大きな負荷がかかっている。労働争議の増加は全国的な現象だが、広東省など経済発展の進む沿海地域の増加が顕著となっている。

労働争議に関する『指導意見』を発表

広東省では、2008年1月から6月末までに受理された労働争議件数が3万9767件に達した。これは前年同期比で2万4338件の増加であり、増加率は157.7%となっている。このうち珠江デルタ地帯で受理された件数は3万8381件にのぼっており、前年同期比で160.1%の増加。実はこの件数が省全体の96.5%を占める。なかでも今年の前半5ヵ月、深セン市で受理された争議案件だけで1万9784件となっており、増加率は250%に達した。同市では増加分だけですでに昨年1年間の受理総数を超えている。

広東省はこのような状況に対応するため、『「労働争議調停仲裁法」および「労働契約法」適用の若干の問題に関する指導意見』を発表した。これは労働争議に関する仲裁・裁判の法律適用をめぐる統一ガイドラインを示したもの。広東省人民法院と労働争議仲裁委員会が共同で作成した。全国初の試みである。

広東省高級人民法院の凌副院長は、『指導意見』をまとめた背景として、労働争議の大幅な増加により仲裁機関と裁判所に極めて大きな負担が生じている点を指摘している。『労働契約法』と『労働争議調停仲裁法』により、労働契約制度と労働争議処理制度には一連の新しい規定が生まれた。労働者の権益保護に力が入れられることとなったが、結果、労働争議の訴訟件数は大幅に増加した。広東省は労働争議の受理件数では一貫して全国のトップを占めてきたが、現在では全国の裁判所で受理される案件の3分の1近くを同省が占めている。

同副院長によると、この『指導意見』は四つの基本原則で貫かれている。第一に労働者と使用者の権益を平等に保護するという原則。これは調和のとれた労使関係の構築を目指すことを目的としている。第二に法の不遡及の原則。使用者側が悪意により法を回避しようとする行為は無効となる。第三に法的効果と社会的効果を統一するという原則。これは労働者の権益保護と社会経済の発展のバランスに配慮するもの。そして第四が裁判資源を合理的に配置するとの原則であり、労働仲裁資源を充分に活用し、労働争議裁判の公正で効率的な実施を目的としている。

争議が多いのは超過勤務手当の問題

裁判所が受理する労働争議案件の中で最も多いのは従業員の超過勤務手当をめぐる争議の増加であるという。多くの労働契約は正常な業務時間や超過勤務の賃金について明記していないため、一部の労働者が争議に乗じて数万元、数十万元という法外な超過勤務手当を求めるケースがあり、調整を困難にしている。こうした超過勤務手当をめぐる争議は、『指導意見』が注目する重点的な問題の一つ。『指導意見』は、「労働者が超過勤務手当を主張し使用者が超過勤務の存在を否定する場合、使用者側は労働者が超過勤務を行なっていないという事実について立証する責任を負う。使用者が労働者によって確認された電子出勤記録により労働者が超過勤務をしていないことを証明する場合、使用者側の電子勤務記録を採用しなければならない。次に労働者が過去2年より前の超過勤務手当の支払いを求める場合、原則として労働者が立証の責任を負う。2年を越える部分の超過勤務手当の金額が調査確認できない場合、2年を越える部分の超過勤務手当は通常保護されない」と規定し、超過勤務の賃金をめぐる立証責任と請求期間について明確な基準を示した。

『指導意見』はさらに、「実際に支払われた賃金に超過勤務手当が含まれていたか否かについて使用者と労働者間に取り決めがなく、使用者組織が、すでに支払った賃金に正常な勤務時間の賃金と超過勤務手当が含まれていることを証明する証拠を有する場合は、賃金に超過勤務手当が含まれていたと認定することができる。ただし、換算した後の正常な勤務時間の賃金が現地の最低賃金基準を下回る場合は除く」と規定している。

このように社会的に注目を集めている問題について『指導意見』は対応を示しており、民主的な議定手続き、労働者が労働契約の締結を拒否した場合の法的な対応、固定期限のない労働契約の締結を回避する行為の効力、経済的補償金と賠償金が併用されるか否かの問題などについても省全体の人民法院、労働争議仲裁委員会が下す法適用の指針が示されている。『指導意見』はさらに、労働争議事件の受理範囲についても明確にした。住宅積立金をめぐる争議、退職後の再雇用、外国人の不法就労、外国企業の違法な雇用といった事件を労働争議の受理範囲に組み入れるか否かについての規定を行っている。

法曹界、広東省政府は『指導意見』を評価

裁判所と仲裁機関が共同で制定したこの『指導意見』は、法曹界の関係者から多くの進歩的な意味があると受け止められているようだ。また広東省労働・社会保障庁も「仲裁と裁判の基準を統一することは、人々が法に基づき合法的権益を守る上で有利に働き、労働仲裁資源・司法資源を節約する上で効果的で、社会の調和と安定に役立つ」とこれを評価している。

資料出所

  • 海外委託調査員、中国現地主要紙

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