ボーイング社の協約改定交渉、決裂しストへ突入

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  • 国別労働トピック:2008年10月

米航空機最大手ボーイング社と同社の機械工関連部門を組織する国際機械工・航空宇宙産業労働者組合(IAM)との3年間の新労働協約交渉が今年の5月から行われていたが、9月4日の失効期限になってもまとまらず、9月6日からストライキに突入した。

IAMの組合員は同社が提示した最終協約案(下記参照)を受けて、9月3日、二つの投票を行った。(1)同社が提案した新協約案を受け入れるか、(2)ストを決行するかどうかの二つに関する決議である。前者に対しては80%の組合員が協約案を受け入れられないとし、後者には87%がストに賛成した。

雇用保証に関する溝は埋まらず

ボーイング社が8月29日に提示した最終的な協約案は以下のとおり。

  1. 3年間で11%の賃上げ。内訳は、1年目5%、2年目3%、3年目3%である。
  2. 物価調整手当(COLA)をほぼ3%支給。内訳は、1年目1.5%分(平均すると時間当たり41セント)、2年目0.8%あるいは時間当たり22セント、3年目0.5%あるいは時間当たり15セントである。
  3. 協約締結ボーナスとして2500ドル(9月3日に締結した場合)
  4. 一時金として総額賃金の6%あるいは2500ドルの高い方を支給
  5. 年金については、基本年金を2009年1月1日より、現行水準の月額70ドルから14%引き上げて、月額80ドルとする(年金額を業界最高レベルとする)

このような経営側の協約改定案を不満とする労働側はいくつかの理由を述べている。まず、賃金上げは13%を主張しており、経営側との提示額に差があった。次に、労働側が強く求めていた雇用保証について現行の協約から前進が一切なかった点である。同社がプロバイダーを使って仕事の委託比率を上げ、アウトソースの割合を高めていることに労働側は不満を抱いている。

また、健康保険の問題も争点となった。同社は従業員負担額を増額し、今後採用となる従業員が早期退職した場合の健康保険の対象範囲を縮小する意向を示した。特に医者の処方した薬に関する従業員負担分の増額の考えを示し、労働側は条件悪化に反対した。さらに、労働側は同社の成功による莫大な利益は従業員が身を粉にして働いた成果であるから、労使で適切に分かち合うべきであると主張している。

一方、同社は今回の提示を総計すると3年間で従業員1人平均で3万4000ドルの追加支給になり、航空機産業の中では最も良い条件の協約案を提示していると経営側は自負している。また、労働側が直近の賃上げよりも、雇用保証や年金といった将来の生活の安定を強く求めていることに対しては、現行制度では勤続し続けるよりも退職した方が収入が多くなってしまい、中長期的に維持できないシステムになっていると懸念し、従業員の生産性を反映した業績ベースの支払いと年金支給の増額を緩やかにしていくねらいがあるとしている。

不当労働行為の指摘も

前回の2005年の協約改定では4週間のストライキ後に合意したが、今回は5週目に入っても話し合いの予定すらたっていない(10月8日現在)。交渉の膠着状態を受けて、連邦調停和解サービス庁は労使双方に対して、話し合いは中立的な場で行い、合意への道筋をつけるように要請している。労使は同庁の調整官と連絡を取り合って話し合いの予定をたてる努力を続けている。

スト参加労働者は「スト中」と書かれたプラカードを掲げているが、その中には「不当労働行為」という文字も掲げる。IAMが組合員に会社側の提案内容を打診し承認するかを確認している最中に、提案された協約案の内容について、同社のマネジャーが機械工作労働者と違法な直接交渉していた同労組は指摘しており、全米労働関係局(NLRB)が調査中である。労組側の指摘によると同社は労組との交渉とは別に、従業員と直接、接触し、不正確な情報を従業員に提供して協約案に賛成するように工作したという。これは全国労働関係法(NLRA)第7条に規定される被用者の権利を侵害するものであるとしている。

これに対して、同社のスポークスマンは、労組の投票に先立ち従業員と接触したのは、通常の従業員とのコミュニケーションとして行ったまでであると反論している。

専門職・技術者従業員組合との協約改定も

ボーイング社は専門職・技術職従業員組合であるSPEEA(全米プロフェッショナル技術者協会=Society of Professional Engineering Employees in Aerospace)との交渉も控えている。この協約は12月1日に期限切れとなるため、10月28日から交渉開始する予定である。9月17日に同社はSPEEA側に主な交渉事項を賃金、健康保険、退職、職場の問題に絞るという基本姿勢を提示した。この提案に対してSPEEA側は賃金、退職手当、健康保険手当の面での改善と、同社が進めている外注の量を制限するように求めたいとしている。

今回のストによって同社は1日当たり約1億ドルの売り上げが減少するという(注1)。同社の次世代中型機「787機」(通称:ドリームライナー)は、部品調達や組み立て最終工程の遅れなどの理由から3度にわたって開発を延期しているが、さらに生産計画に影響が出そうだ。50機を発注している全日空には、当初予定では今年5月に初号機が納入される予定だったが、1年3カ月遅れの来年8月にずれ込むことになった。35機を発注している日本航空も同じく10月にずれ込む予定。ちなみに、787機の生産には、三菱重工業(主翼)、川崎重工業(前部胴体、主脚格納部、主翼固定後縁)、富士重工業(中央翼)が携わっている。富士重工業は、ストが長期化することによって悪影響が出る可能性があるとしている。

参考

  • IAMウェブサイト(1)
  • IAMウェブサイト(2)
  • IAMウェブサイト(3)
  • ボーイング社ウェブサイトリンク先を新しいウィンドウでひらく
  • Daily Labor Report, BNA,May 14, Jul. 18, Aug. 29, Sep. 3, 5, 9, 12, 15, 19, Oct. 6, 2008
  • New York Times Sep. 3, C9
  • Wall Street Journal Sep. 5, B3

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