移民の統合策を加速、専門職不足を背景に中欧・東欧からの受入れ制限緩和を決定
―外国人政策の最近の動向

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2007年9月

ドイツ政府は移民の社会統合に力を注いでいる。統合策を強化する改正移民法を7月6日に成立させた。さらに同月12日には、移民の統合状態を改善するために、連邦政府、州政府、移民団体などの代表が参加する第2回統合サミットを開催し、国家統合計画を採択した。こうした統合策に腐心する一方で、好景気の持続で人材不足に陥っている専門職を補うために、政府は8月24日、中欧・東欧諸国からの労働者の受入れ制限措置を電機・機械技術者に限って、11月1日から撤廃することを決定した。

1. 統合策の強化と反響

(1)改正移民法

連邦参議院は7月6日、連邦議会を3月28日に通過した移民法改正法案を可決し、同法が成立した。今回の改正は05年1月1日に施行された移民法(表1および表2参照)を、外国人・難民に関するEU(欧州連合)指令の適用、移民の社会統合促進、治安対策の観点から修正するものである。概要は次のとおり。

  • 強制結婚を阻止するために、ドイツに呼び寄せる外国人配偶者の最低年齢を16歳から18歳に引き上げる。また、呼び寄せる配偶者に簡単なドイツ語知識があることの証明を義務づける。もし偽装結婚の疑いがある場合、担当官はドイツへの入国を拒否できる。
  • 移民に統合コース(ドイツ語、法令・文化・歴史)への参加を義務づける。参加を拒む者には最高1000ユーロの科料を課し、社会扶助の一部(最高30%)を削減する。
  • EU市民とその家族に対する新しい無期限の滞在資格として「欧州共同体長期滞在許可」を創設する。
  • 刑法手続きに協力することに同意した人身売買被害者に対する一時的滞在権を創設する。
  • 研究者に対する特別滞在資格、および他のEU加盟国の大学に入学を認められた学生に対する特別滞在資格を導入する。
  • 難民保護に関する実体法上の条件とそれに伴う身分権、難民手続きの形式、難民申請者の生活条件など、EU難民法の中心的要素をすべて適用する。
  • ドイツに投資し、雇用を創出する外国人に認められる移住の前提条件について、最低投資総額を100万ユーロから50万ユーロに、創出すべき雇用数も10人から5人に緩和する。

また、人道的理由によりドイツでの滞在を一時的に容認されている外国人に対し、一定の条件を満たしている場合、09年12月31日までの期限付き滞在権および労働市場への参入権を与える。その前提条件は、1)07年7月1日現在、独身者は8年以上、未成年の子供がいる家族は6年以上、ドイツに滞在していること2)統合への意欲を示していること3)十分な居住空間を備えていること4)十分なドイツ語の知識を持っていること5)外国人局に故意の偽証を行ったことがないこと――などである。現在、滞在を容認されている16万4000人の外国人のうち約9万4000人が6年以上ドイツに滞在しており、さらにそのうちの6万4000人強が8年以上前からドイツで暮らしている。

就労によって十分な生活費を稼ぐことができない外国人は、以前の受給額を上回らない社会給付を受給することができる。

10年1月1日以降は、外国人が将来にわたって生活費を確保でき、過去に概ね就労していた事実を証明できる場合、滞在許可が延長される。外国人の子供は、緩和された条件に基づき、独自の滞在許可を取得できる。

ショイブレ連邦内務相は、「この法律によって未来志向の移民法改正が実現する。これによりわが国の平和的共存が強化され、統合が促進されるだろう。今回の移民法改正は、外国人や移民の統合機会を改善することに重点が置かれている」と述べた。また、「移民の側の統合への意欲とそれを受け入れる社会の側の統合への意欲があって初めて共生が成り立つ。連邦政府は移民の包摂を促進し、外国人市民との直接対話に努める」と強調した。

(2)統合サミット

ドイツの人口約8200万人のうち、移民とその子孫(ドイツ国籍を持つ者を含む)が約1500万人を占めている。政府は7月12日、移民の統合状態の改善をテーマに第2回統合サミットを開催した。サミットに参加した連邦政府、地方自治体、移民団体の代表や有識者は、改善のための約400の誓約を含む国家統合計画を採択した。統合計画は、昨年7月の第1回統合サミット以降、約250人の専門家が6つのワーキンググル-プに分かれて議論し策定したものである。統合計画には、連邦政府、州および市町村、労働組合、企業、財団、協会など、数多くの団体による統合改善のための誓約や移民団体のプロジェクトが盛り込まれている。

ドイツ政府は11年まで毎年7億5000ユーロを統合促進プログラムの予算に割り当てることを表明した。統合コースの内容を拡充し、若者、母親、文盲者などの必要に合わせたコースを提供する。語学習得のためのコースの受講時間数を現在の600時間から900時間に延長し、より少人数のクラスで実施する。政府はまた、移民である企業経営者の協力を得て10年までに1万の研修生ポストを確保し、若年移民の就労への移行を支援する。若年移民のための奨学金制度も充実させる。

連邦政府から語学コースの実施を委託された民間および非営利の語学学校は、受講時間中の託児サービスを提供しなければならない。このほか統合計画は、幼少の移民や学校を中退した移民に対する語学学習機会の提供、移民女性の権利確立を支援するプログラムの実施などを盛り込んでいる。ドイツの地方自治体もより多くの移民を公務員として採用するよう約束した。

メルケル首相は、国家統合計画を「統合政策の歴史におけるマイルストーン」であり「ドイツが未だかつて経験したことのないイノベーション」であると賞賛し、08年秋に進捗状況をフォローアップするための統合サミットを開催すると発表した。

(3)トルコ系移民団体の反発

トルコ人はドイツで暮らす外国人約670万人のなかで最大のグループを形成している(表3)。約250万人のトルコ系移民を代表する主要四団体は、7月6日に成立した改正移民法に抗議するため、統合サミットをボイコットした。これらの団体は、呼び寄せ配偶者の最低年齢の引き上げや基礎的語学知識習得などの規制強化に反対している。この改正はトルコ人社会に蔓延する強制結婚の防止を目的としていると言われている。また、基礎的語学知識習得の要件は、日本、米国、オーストラリア、ニュージーランドやEU加盟国からの移民には適用されない。トルコ系移民の団体は、移民法の規定がトルコ人社会を狙い撃ちした人種差別であると糾弾する。

2.専門職の不足と規制緩和

(1)中欧・東欧諸国に対する制限措置

EU加盟国の市民にはEU域内での移動の自由が保障されており、将来的にはEU域内のどこででも就労することができるようになる。しかし、04年5月にEU加盟した中欧・東欧諸国からの低賃金労働者の急激な流入を回避するため、EU旧加盟15カ国には最長11年4月まで新規加盟国(マルタ、キプロスを除く)からの労働者受入れを制限することが認められている。ドイツは、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、スロヴァキア、チェコ共和国、スロヴェニア、ハンガリーの8カ国の労働者に対し、当該ポストに適したドイツ人が見つからない場合のみ、労働許可を発行している。これはEU拡大に関する条約に基づく第2段階(06年5月~09年4月)の措置であり、労働市場に深刻な混乱や脅威が発生する恐れがある場合のみ、最終段階(09年5月~11年4月)も制限措置を継続することできる。ドイツ以外では、オーストリアが09年4月まで制限措置を継続し、フランス、ベルギー、ルクセンブルグ、デンマークは段階的に労働市場を開放する。その他の旧加盟国は既に規制を撤廃している。

また、07年1月にEU加盟したブルガリア、ルーマニアに対しては、EU25カ国が最長13年12月まで労働者の受入れを制限することが認められている。現在は、マルタ、ラトビアを除く04年の新規加盟8カ国とフィンランド、スウェーデンだけがブルガリア、ルーマニアからの労働者受入れを認めている。ドイツはこの2カ国の労働者に対しても労働許可の取得を義務づけている。

(2)規制緩和に賛否両論

好調なドイツ経済を背景に、近年、電機産業や機械工業を中心に専門職不足が深刻化しており、今後も継続すると見られる。これは96年以降、工学・自然科学専攻の卒業生の数が大幅に減少し、現在も低い水準に留まっていることによる。ドイツ経済研究所は20年までに最大で27万人の専門職が不足すると予想している。連邦経済省が委託した調査によると、基幹産業における専門職不足がドイツ経済に年間200億ユーロまたは国内総生産の1%の損失を与えているという。

ドイツ産業連盟(BDI)は、「東欧には高技能労働者が数多く存在する。我々に一刻も早くこれら技術者へのアクセス権を与えることが死活的に重要である」として、09年以前に東欧諸国に対して労働市場を開放するよう政府に要望した。ドイツ商工会議所は、「技術者不足が重大な問題となりつつある。これは成長を著しく阻害し、産業立地としてのドイツの地位を脅かす」と警鐘を鳴らした。

連邦労働社会省のアンドレス副大臣も7月25日、「もし高技能労働者の不足が持続するようなら、東欧諸国からの外国人労働者の受入れ制限を09年以前に廃止することも考えられる」と述べた。ただし、賃金ダンピンングを防止するため、当該分野に越境労働者派遣法に基づく最低賃金が成立することを条件とした。

一方、連邦雇用エージェンシーのヴァイゼ長官は、「良好な経済環境は、外国人でなく、既に国内にいる労働者のために利用すべきである」と述べた。キリスト教民主同盟(CDU)のカウダー幹事長も、「国内の労働力を第一に活用するため、海外から流入する労働力よりも高い優先順位を与えなければならない」として、11年までの制限措置継続を主張した。

ドイツ労働総同盟(DGB)のゾンマー会長は、労働市場の開放によって使用者が低賃金労働者の雇用を促進することを警戒し、全国一律の最低賃金制度の導入を要求した。DGB幹部のブンテンバッハ氏も、もし計画よりも早く制限措置が撤廃されたならば、空前の規模での賃金ダンピングを引き起こすと警告した。

(3)労働市場の部分的開放を決定

連立内閣は8月23日、24日の両日、ベルリン近郊で、政権の残り任期2年間の政策を検討するための会議を開催した。この会議において内閣は、EU新規加盟国からの労働者の受入れ制限措置を、電機・機械技術者に限って11月1日から撤廃することを決定した。エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、スロヴァキア、ハンガリー、チェコ共和国、スロヴェニア、ブルガリア、ルーマニアの専門職は、労働許可を取得することなくドイツで就労できるようになる。ドイツ商工会議所はこの決定を「正しい方向への小さな一歩」と評した。

しかし、最近は中欧・東欧諸国も同様の労働力不足に悩んでいる。特にドイツと国境を接するポーランドでは高技能労働者の不足が深刻化しており、ドイツの労働市場開放が人材不足と賃金上昇を加速させると警戒している。専門家はドイツが中欧・東欧諸国から十分な技術者を確保できるのか懐疑的に見ている。

内閣はまた、ドイツの大学で学位を取得した外国人学生に対し、専攻分野の仕事に就くために卒業後1年間認めているドイツでの滞在権を3年間に延長することを決定した。この場合、ドイツ人の雇用を優先する審査基準も廃止する。

(4)EU域外からの受入れも議論に

ドイツは73年に外国人労働者の募集停止を宣言した。現在もEU域外の第3国からの低技能労働者の受入れは原則的に禁止されており、技能労働者も特定の職種に限り労働市場の状況を考慮して労働許可を与えている。高度技能労働者については、特別な専門知識を持つ学者や卓越した地位にある教授・科学者には初めから無期限の定住許可と労働許可を与える。しかし、技術者やIT専門家など、第3国の専門職がドイツで就労するためには、公的疾病保険加入限度額の2倍以上の年収(07年は8万5500ユーロ)があることを証明しなければならない。この所得規定に基づき06年にドイツへ入国した外国人専門職は500人にも満たなかったという。

キリスト教社会同盟(CSU)のグロス経済相は、EU域外から優秀な人材を確保するため、高額の年収制限を半分にすべきであると主張する。キリスト教民主同盟(CDU)のシャバン教育相も4万~6万ユーロへの引き下げを提唱している。

他方、社会民主党(SPD)のミュンテフェリング副首相兼労働社会相は、約370万人の失業者への対策を優先すべきであり、特にこれまで職を見つけることが困難であった高齢技術者を再訓練して活用することが重要であるとしている。

SPDは、シュレーダー政権が進めた05年移民法の制定過程でCDUの反対によって法案から削除された「ポイント制」の導入を再び提起している。ポイント制は、労働市場の状況に応じて外国人労働者の受入れを調整するため、資格や職業経験、年齢、言語知識、出身国等の評価基準に基づき選抜手続きを行うものである。カナダ、オーストラリアなどで採用されている。CDUはこれに反対の立場を貫いており、CSUとともに外国人専門職の年収制限の引き下げを主張している。

8月23日、24日の内閣会議でも、これらの問題の結論は先送りされた。

出所:Federal Ministry of Interior "Immigration Law and Policy”

出所:Migration Policy Group"Current Immigration Debates in Europe、Germany: Migration Country Report 2005”

出所:OECD"International Migration Outlook 2007"

参考レート

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