OECD雇用アウトルック(2007年版)
―グローバル化のパラドックスへの対応

カテゴリー:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2007年8月

OECD(経済協力開発機構)は2007年6月19日、『OECD雇用アウトルック(2007年版)』(以下、アウトルック)を発表した。労働政策と労働生産性、グローバル化と所得格差、社会保障財源と雇用効果、就業率の向上に向けての各国の取り組みについて分析を行なっている。

アウトルックはまず、ブラジル、ロシア、インド、中国のBRICs諸国の成長とOECD諸国への影響について取り上げている。BRICs諸国では2000年から2005年にかけてOECD諸国の5倍に相当する2200万人の新規雇用が創出されたが、賃金格差は高水準で、かつ拡大する傾向にあると指摘する。こうしたBRICs諸国の成長は、グローバル経済の下ではOECD諸国経済に対しても大きな影響を与える。アウトルックは、OECDが2004年に提唱した「改訂された雇用戦略」(以下、新雇用戦略)(注1)の実効性について検証している。

OECDの雇用戦略の見直し

そもそも、OECD雇用戦略は1994年にまとめられたもので、マクロ経済政策・構造政策、労働市場の柔軟化、積極的労働市場政策、能力開発といった分野に関する10項目(当初9項目)として策定された(注2)。市場原理中心的な理念に基づき規制緩和を前面に出したものであった。

この雇用戦略が社会に与えたインパクトは大きく、後に策定されたEU雇用戦略はOECDの雇用戦略に対する応戦とも言われている。EU雇用戦略が社会政策を見据えたものであったのに対してOECD雇用戦略は経済的自由主義に基づくものであり、市場原理的な考え方が強く反映したものであったことは否めない。この雇用戦略に沿った政策を各国が具体化した結果、賃金格差等の社会問題が生じた可能性があるとの指摘がある。こうした批判を受け、OECDは規制、雇用、社会保障の各方面の課題に対応するよう政策パッケージの見直しを行い、福祉国家的な発想を盛り込んだ新雇用戦略を策定した。新雇用戦略は、雇用保護法制が労働市場のダイナミズムを助け、労働者に安定をもたらすように強調している。また、1994年のOECD雇用戦略は、労働時間の柔軟性の拡大や賃金と労働コストの弾力化のためにパートタイム労働者などの雇用が促進されるような政策を推進していたのに対し、新雇用戦略では、パートタイム雇用など柔軟な労働時間制度の促進は雇用形態間での差別が生じることがないように強調する。

労働政策と労働生産性

しかし、新雇用戦略に沿った雇用政策は、雇用創出を実現したものの、生産性へのマイナスの影響があったという見解がある。アウトルックでは、「雇用保護規制」「最低賃金」「失業給付」「育児休暇」といった政策を取り上げ、社会保護的な労働市場政策が生産性にどのような影響を与えるのかを検証している。分析の結果、新雇用戦略が掲げる政策が生産性の伸びを低下させているという確たる証拠はないと結論づけている。その上で雇用戦略に沿った雇用促進政策の推進は、グローバル化と密接にかかわる潜在的な成長を実現する手助けとなると主張する。

グローバル化と所得格差

貿易の発展や海外直接投資や海外現地化生産の進展というグローバル化によって、労働者全体としての所得は拡大したものの、低所得者に対する労働需要が減少し所得格差が拡大しているとも言われている。アウトルックは、グローバル化によってOECD諸国の労働者の脆弱性が高まっているのか検証している。事実、ほとんどのOECD諸国において賃金格差は1995年から2005年にかけて拡大したというデータがある。グローバル化による労働者の脆弱化について一定の影響を認めた上で、アウトルックはグローバル化の便益を高め、その便益の分配における公平性を確保するために、包括的な戦略の必要性を指摘している。また、社会保障システムの適切な再編と失業者の就業化への取組みを挙げる。

社会保障システムの再編

社会保障の財源は税・保険料にどのような比重をかけるのか、各国によってそのシステムは様々である。アウトルックは雇用への影響を十分に配慮しつつ改革すべきと提案する。また、失業者の就業促進については、失業給付と積極的労働市場政策の適切な組み合わせを指摘する。求職者がエンプロイアビリティを向上し、より積極的に職を探そうとする意欲がもてるような適切な支援をすべきと提案している。

提言と日本に関する分析

以上のような視点で分析を行なった結果、グローバル化の進展による社会的なインパクトは、生活水準を向上させる一方で、雇用の不安定化と賃金格差の拡大といったリスクや脅威をもたらす側面があると位置付ける。その上でグローバル化のパラドックスに着目しその対応策を以下のように提案している。

  • OECD加盟国政府は新たなグローバル経済に労働者が適応できるよう支援を拡大すべきである。
  • グローバル化を脅威と捉えずに、変化する雇用市場に国民が適応できるよう、労働関連の制度と社会保障制度の改善に重点的に取り組むべきである。
  • グローバル化は将来性のない職に固執するよりも転職を促進し労働市場の流動性を高めること求める。
  • 新規雇用創出を妨げる障壁を取り除き、雇用創出の源であるサービス業の多大な潜在能力を活かすように取り組むべきである。

雇用アウトルックの発表に伴いOECD事務局が加盟国を分析したカントリー・ノートを公表した(注3)。日本に関しては、主に次の点を指摘している。

  1. OECD諸国平均と比較して就業率が相当程度高く、失業率は最も低い国に属している。
  2. 雇用情勢が改善しているものの、若年者や女性にとって安定的な職に就くことが難しくなっている。これは、終身雇用制の弱まりに伴ってOJTの機能が低下していることともに、正規社員と非正規労働者の間で適用される制度に格差があるということが関連している。
  3. OECD諸国は全般に労働分配率が低下しているが、特に日本は急激な低下が見られる。賃金の伸びが生産性の伸びよりも低いことがその要因である。

参考

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