英国における外国人高度人材受入れ政策

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2007年7月

EU、なかでもいわゆる旧加盟15カ国の抱える最近の問題は、高度熟練労働者の不足が深刻化していること。欧州の先進諸国はこぞって途上国から優秀な高度人材を受入れようとしているが、当然ながらその供給量には限界がある。しかも途上国の高度熟練労働者たちは欧州よりも比較的社会環境の整っている米国やカナダを目指す傾向があり、欧州がこうした人材を確保するのは容易ではない。各国ともさまざまな優遇措置を講じる中、英国も従来の移民政策を整備し新入国管理5カ年計画を、高度人材を積極的に受け入れていくという姿勢を明らかにしている。

就労許可を免除して優先的に受入れ

居住権を有するかまたは英国に定住している英国市民および欧州経済地域(EEA)の加盟国民には、英国における就労の制限がない。しかし、これ以外の人が英国に就労を希望する場合、基本的には就労許可の取得が義務付けられている。就労許可は一定の資格および能力を必要とする職種を対象に発給される。

就労許可を取得するには、労働市場テスト(国内労働者では代替できないことを証明)を経ないといけないなど一定の手続きを踏まなくてはならず時間もかかる。このため政府は、一部の優先的に受入れたいとする人材については、就労許可を免除して受入れるという措置を講じている。こうした措置のひとつが、外国人の高度人材を優先的に受入れようとする目的で導入された「高度技能移民プログラム(Highly Skilled Migrant Programme-HSMP)」である。

就労許可を免除して優先的に受入れ

HSMPとは大学教授、医師等の資格所有者、法律、金融専門家など高度な技能を有する者が就労の機会を求めて英国に移住するのを許可するプログラム。2002年1月に開始された。国内の求人なしで移住できる点が特徴であり、労働市場テストの対象外という点でも労働許可とは異なる。また起業者を対象としたビジネス・ケース・ユニットのように雇用の創出や一定の投資水準などの条件も必要ない。

受入れ申請の審査にはポイント制が用いられている。(1)学歴、(2)職歴、(3)過去の収入、(4)就労希望分野での業績などの分野 で合計65ポイント以上取得した場合に申請が認められる(表1参照)。

同プログラムで英国に入国し、1年間経済活動を行った後には在留期間の延長が認められ、さらに連続4年間イギリスに在住した後は永住許可の申請が認められる。2002年の導入以降、取得ポイントの引き下げ(75→65)など、細かい制度変更が加えられてきた。28歳未満と28歳以上では異なる条件で審査されているほか、28歳未満であれば5ポイント加算されるなど、HSMPのターゲットとしてはより若い人材が志向されている。

出所:労働政策研究報告書No.59「欧州における外国人労働者受入れ制度と社会統合」(2006)より

受入れ状況は

受入れ状況を見てみよう。2002年のプログラム開始以降、申請数、受理数ともに10倍以上の伸びを示していることがわかる(図2参照)。国籍別に見ると、2003年以降、インドからの労働者の増が顕著だ(表3参照)。

HSMP受入れ数推移(2002-2005)

出所:労働政策研究報告書No.59「欧州における外国人労働者受入れ制度と社会統合」(2006)より

出所:労働政策研究報告書No.59「欧州における外国人労働者受入れ制度と社会統合」(2006)より

最近の制度改正の動き

移民を受け入れる制度は、その時々の政治、経済・社会状況を反映して刻々と変わる。英国の受入れ政策もこれまで、たとえば医療従事者が足りない、理工技術系学生を確保したいなどその時々のニーズに応じて策定されてきたため、受入れスキーム数が80種類にも及ぶなど制度はかなり複雑化していた。優秀な人材を迅速に確保するためには、複雑な制度を改め、手続きの簡素化を図る必要がある。政府はこうした経緯より2005年2月、従来の受入れ政策を一つの体系に整理する「入国管理5カ年計画」を発表した。この新規計画により、移民は5段階の技能レベルに分類されることとなった。(表4参照

第一層と第2層の入国者については、現在の高度技能移民プログラムと同様にポイント制を導入し、5年間の就労後に定住権の申請を可能とする(図5参照)。この場合、語学試験と市民試験に合格することが必要である。従来は4年間の就労後に定住権を申請することが可能であったのに、この期間が5年間に延長された理由は、定住化受入れが厳しくなったと理解するよりも、EU諸国間との関係からの文脈で理解されるべきであろう。EU諸国間では、合法的就労者が5年間就労した場合には、居住国での定住権申請可能という統一基準へ向けて合意形成中だからである。定住権を取得するためには、就労期間を満たすだけでなく、英語の語学試験と英国文化・慣習などに関する知識を問う市民試験に合格しなければならないことは他国と同様の措置と言える。

一方、低熟練労働者については査証期限の切れた段階で出国しなければならないとする帰国担保も今回改正では強調された。ところでこの5カ年計画をまとめた報告書のタイトルは『選択的受け入れ(Selective Admission)』[Home Office,2005]というもの。実はこの計画の眼目はここにある。すなわち今後英国の移民受入れ政策は、国の利益になる人のみを選んで移住させる、低熟練労働者の受入れは制限する、という明確なコンセプトをもって運用されていくものと思われる。

出所:労働政策研究報告書No.59「欧州における外国人労働者受入れ制度と社会統合」(2006)より

図5

出所:労働政策研究報告書No.59「欧州における外国人労働者受入れ制度と社会統合」(2006)より

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