事業主・在職者向け職業訓練の拡充

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2007年2月

イギリスの職業訓練政策は、失業者、就業前若年者を主な対象とし、事業主や在職者は主要な政策ターゲットではなかった。しかしグローバル化に伴う市場競争の激化に伴い、職業生活の全期間を通じた職業能力開発が欠かせないとの観点から、事業主や在職者も対象とするように職業訓練施策のあり方を見直す動きが高まっている。

背景に技能労働力不足

背景に技能労働者の不足がある。これまでイギリス政府は、技能労働者の不足を主に移民によって補ってきた。しかし04年5月のEU拡大時に大量に流入した東欧からの移民は主に単純労働者であり、技能労働者は依然として需要が満たされていない。
他方、05年7月に発生したロンドン地下鉄同時爆破テロなどの影響から移民増加に対する社会不安の高まりもあり、新しい移民政策には移民管理を厳格化する方針が打ち出されている。

こうした状況を受け、技能労働者の不足は移民によって解消するのではなく、イギリス国民自身の生涯にわたるエンプロイアビリティを高めることで対応することが望ましいとの議論が起こり、数々の白書や提言において、現行の職業訓練施策を見直すべきとの機運が高まっている。

現行の事業主・在職者を対象とする職業訓練施策

職業訓練政策見直しの一環として、まず事業主・在職者向け職業訓練施策の拡充に目が向けられた。イギリスはこれまでこれらの層を対象とする職業訓練への関心が全般的に薄いといわれてきた。この理由には、職業訓練は個人の負担で行うものという意識が強いことに加え、80年代に保守党政権において事業主に費用負担を義務付ける「職業訓練負担金制度」(注1)が廃止されたことが大きい。現行の事業主・在職者を対象とする主な職業訓練施策は、第1表に示したとおりで、いずれも限定的な施策に留まっているといわれる。

施策拡充へ向けた動き

政府の諮問機関であるレイチ委員会はこれら在職者・事業主に対する職業訓練施策が十分な成果をあげていないと指摘、その理由として職業訓練制度の複雑な実施体制を挙げ、在職者・事業主に対する職業訓練を行う新たな機関を設置し、同機関には民間企業の役員を選出することで、事業主や在職者のニーズに適った訓練プログラムを策定することが可能としている。(注2)同委員会は、新たな機関にはさらにこうした実施体制の整備のほか、施策拡充に向けた改革案の充実も必要と提言している。同委員会が提案した主な改革案は次の通り。

  1. 業種別技術委員会(SSC)の改革

    能力開発に対する事業主の関与と投資を拡大するため、産業技能委員会(Sector Skills Council:SSC)(注3)の改革、権限強化を行う。公的資金の提供はSSCが内容を承認した職業資格のみを行うこととし、より経済的価値が高い技術の向上を目指す。

  2. 雇用・技術委員会(CES)の新設

    事業主の発言力を強化するため、雇用・技術委員会(Commission for Employment and Skills:CES)を新たに設置する。事業主の集団としての発言力を強化し、技術に関するニーズをより明確に表明できるようにする。

  3. NVQレベル2取得の推進

    事業主が資格を持つ従業員全てに対しNVQ(注4)レベル2までの訓練を職場で受けさせることを推進する。事業主側の実行状況については、進捗状況の調査を2010年に行うこととする。改善率が不十分な場合には、事業主および組合と協議のうえ、レベル2の職業訓練を受ける法的措置を導入する。

第1表 事業主・在職者を対象とする主な職業訓練施策

  1. 企業向け訓練(NETP:National Employer Training Programme)

    企業に対して従業員訓練に対する実用的なアドバイスを行う

  2. 能力開発優良企業の認証制度(Iip:Investors in People)

    事業主と従業員双方が、能力開発の目的及び重要性を理解し、訓練成果が基準に達したと判断されるとIip認証を取得できる制度

  3. 国家訓練表彰制度(National Training Awards) 企業、訓練施設、個人を対象に、効果的な訓練の実施等について表彰を行う。
  4. 小企業職業訓練ローン(Small Firms Training Loans)

    従業員50人以下の小企業に対し従業員の訓練費用を融資する。

参考文献

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