「中国高齢化対策事業白書」発表される

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2007年2月

2006年12月、国務院は、中国における高齢化の現状を報告する白書を取りまとめ発表した。白書によると、2005年末の中国における60歳以上の高齢者人口は、総人口の11%にあたる1.44億人に達している。また、今後、毎年総人口の3%のあたる高齢人口が増加し続けていくことが推計されている。

近年経済発展の目覚しい中国ではあるが、総体でみると、まだ、世界的にみて最大規模の発展途上国である。高齢人口の増加と今後一層の高齢化の加速は、いかに現状を改善し、高齢者の合法的な権益を保障してくかという重大な問題を含んでおり、社会経済の発展が直面する重大な課題であるといえる。

それら課題を乗り越えるためには、何らかの戦略的措置を講じる必要が認識されている。しかし、同時に、今回の白書では、高齢者自身も社会経済発展の成果を享受できる社会の実現が積極的に目標として示されているが、これについては高齢化社会のシステムはいかにあるべきかが問われる今日、高齢者に手厚い社会建設のモデルとして期待を呼び起こすものでもある。

以下では、今回発表された「高齢化対策事業白書」から、高齢者の生活保障と保護の観点を中心に内容を抜粋して現状を紹介したい。

中国政府は、今年から始める「第11次5カ年計画」のもと、科学発展観の全面的展開を提唱しているが、高齢化社会を乗り越えていくための諸政策をそういった社会発展事業のひとつとして位置づけを行っている。すなわち、高齢化事業の展開を「社会経済の統括的発展、社会主義と調和社会実現に向けた重要な要素」と認識し、経済、法律、行政的手段を全面的に活用することで高齢化事業を展開、推進していくことを宣言している。

「高齢者に安心の生活と医療を。高齢者に学び、高齢者に自身にも学びの場を。高齢者に社会貢献の場と安らぎの場を」―――これが、中国の高齢化事業の展開目標である。

こういった事業展開目標の下で、養老保険体系の整備、高齢者への医療、保健サービスの整備と充実、コミュニティサービスの拡充、文化的教育機会の提供、社会参画へ機会の提供、さらには合法的権利の保障――などの諸政策が中央政府の主導で行われており、そういった努力が成果をあげつつあることが、今回の白書では報告されている。

白書では、養老保険体系の整備など高齢者の基本的生活保障の実現の重要性が強調されている。都市部と地方都市での養老保険については、企業に就労する労働者、個人事業主、日雇い労働者すべてを対象とした統一的な都市および地方における企業と労働者養老保険制度を段階的に整備している実態が報告されている。人口高齢化に対応する資金備蓄の増強を行い、企業退職者・求職者たちへの基本養老金の確実な支給が行えるように措置することに努め、同時に基本養老保険基金の徴収に関しては、確実に徴収できるように徴収強化を図っている。2005年末時点で、全国の基本養老保険基金の累計余剰金は4,041億人民元に上っており、そう徴収総額は4,312億人民元に達しているということだ。これに対して各レベルへの財政補助も強化していることから、財政補助総額は651億人民元となっている。

一方、中国の高齢者の60%は農村部に住んでいるが、農村の社会保障強化も課題である。農村社会での養老保険制度を確立は現在模索段階といえるが、農村部の高齢者の基本的生活の広範な保障を強化しなければいけないと政府は考えている。その解決策のひとつとしては、土地を活用した養老保障を積極的に行うことが試行されている。農民の土地請負経営権を広く保障するというものである。これは、「中華人民共和国高齢者権益保障法」において、扶養者は被扶養者である高齢者の請け負う田圃を工作する義務を融資、高齢者の林木や家畜などの世話、管理を似ない、その収益をすべて高齢者の所有に帰属させることで、高齢者の基本的生活を保障しなければならないという規定するものである。扶養内容とその基準を規範化するために「家庭内扶養協議書」を作成しなければならず、村民委員会や関連組織が、その協議書の履行状況を監督するというものである。現在、農村では、「家庭内扶養協議書」の作成が広く普及しており、2005年末には1300万部以上が作成されているということである。

貧困高齢者救済制度の確立も急務の課題である。都市住民の最低限度の生活保障制度を制定し、一人当たり所得がその基準を下回る家庭に対して補助金を支給している。2005年末時点で貧困高齢者を含む2,233万人の年貧困者が最低生活保障金を受給している。また、農村部においては、865万人の農民が農村特別貧困家庭に認定され定期的補助を受けているほか、985万人の最低限度の農村生活保障を受けている。

医療保障とサービスの充実も高齢者にとって切実な問題である。中国政府は、社会プール基金(公的医療費再分配基金)と個人医療費講座が緊密に関連する「都市および地方労働者の基本医療保険制度」を創設した。この中で、高齢者に多く見られる疾患、慢性疾患などに対する高額医療費を社会プール基金から至急し、退職者・求職者の個人負担率を減らすように措置している。また、農村部においても、2003年から、個人負担金と集団助成および政府資金援助を緊密に関連させた新型農村協力医療制度の特定地域における試験的実施を開始している。また、西部地区では、「高齢者再チャレンジ事業」を展開しており、約600万人の老人性白内障患者に回復手術を施し、辺境の居住する四肢欠損貧困高齢者や聴力障害者に対して、無償で義肢や補聴器を支給している。

政府は、2006年「国民経済および社会発展第10次5カ年計画要綱で慈愛を持った介護計画の実施と高齢患者や高齢障害者に対する介護サービス施設の整備の迅速化を計画の重点課題としている。

高齢者のための在宅ケアやコミュニティサービスの充実なども現在から準備が進められているが、特に扶養者のいない高齢者(労働能力もなく、生活費のめどもなく、法定の扶養能力保持した保護者のいないような老人)に対して、高齢者アパート、養老院、高齢者介護院の設置が急務の課題として認識されている。

中国では、高齢者が生きるための権利が、「憲法」に始まり、「高齢者権益保障法」「民法通則」「相続法」「婚姻法」「刑法」「治安管理処罰法」など各種法律で規定されている。こういった法令を国民が理解し、そして遵守すること、高齢者に対して虐待、遺棄、傷害などが行われないように防ぐためことが今回の白書では強調されており、そのための各種サービス機関の設置が政府による課題として認識されている。

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