外国人看護師の受入れ条件を厳格化

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  • 国別労働トピック:2006年9月

2006年7月3日、英国内務省(Home Office)は、欧州経済地域(EEA)域外出身の看護師受入れの条件を厳格化すると発表した。これに伴い、これまでは国外からの看護師受入れの際に免除されてきた「労働市場テスト(対象となるポストが英国内での労働者では代替できないことを一定期間募集広告を掲示することで証明する)」の実施が義務付けられることになった。

一般看護師に労働市場テストを導入

今回の制度見直しは、看護師不足解消のために国外から積極的に看護師を雇用してきた2000年以降の政策を転換し、低技能の看護職については労働市場テストを導入しようというもの。これは、2005年5月に発表した移民政策の見直し案「入国管理5ケ年計画」が示した「高度技能移民については積極的に獲得する一方、単純労働の受入れについては、段階的に廃止する」という基本方針に基づいたものといえる。

この変更に伴い、内務省移民国籍局労働許可課(WPUK)が作成する人材不足リストには、(1)(NHSが定める看護師の基準である)バンド7および8レベルの看護師(2)専門看護師(注1)が掲載されているが、いわゆる「一般看護師」は同リストから除外された。これにより2006年8月以降、海外から一般看護師を受け入れる場合、雇用主は対象となるポストについて4週間募集広告を掲載し、英国内の労働者では代替できないことを証明(労働市場テスト)しなくてはならないことになった。

各界からの反応

保健省大臣であるワーナー卿は、制度変更の理由として「国内看護師養成の取り組みを進めてきた。今後英国内の看護労働力を活用するためにも、一般看護師は人材不足リストから除外すると判断した」と述べた。

一方、英国に多数の看護師を送り出しているフィリピン労働雇用省(DOLE)は、「現在約4万人のフィリピン人看護師がNHSに従事し、うち約半数が既に永住権か英国市民権を保持している」として、制度変更が与える影響はそれほど大きくないとの見方を示している。(注2)

これに対し、王立看護協会(RCN)のビバリー・マローン理事長は、看護師の高齢化が進んでいることから、今後数年間に約15万人の英国人看護師が退職すると予測し「将来も外国人看護師が英国の看護労働力を補完するという図式は変わらない」と述べている。

看護労働力受入れのプロセス

英国では1946 年に制定された国民保健サービス法(National Health Service Act)に基づき、1948 年から全国民を対象とする医療サービスである「国民保健サービス(NHS:National Health Service)」が提供されている。

NHS はその費用のほとんどが国庫負担であり、基本的に無料でサービスを受けることができるが、1980 年代以降、医療費抑制のための行政機構の簡素化、職員の削減などの施策が開始され、看護師の慢性的な人手不足や士気低下など危機的状況に陥った。現ブレア政権は発足当初から、看護師の増員をNHS改革の大きな柱として掲げ、離職者の復帰促進のための給与引き上げ、看護師養成制度の整備などの諸施策を推進してきた。

これに加え、看護労働力拡充策として取られたのが、移民による看護労働力の補完であった。2000年、政府は労働許可制を改正し、医師、看護師等の医療専門職に就労する移民の規制緩和を実施した。以降、看護師は英国内での人材不足が著しい職種として、人材不足リストに掲載され、労働市場テストの実施が免除されてきた。

英国では、看護師になるための国家試験は実施されておらず、高等教育機関において看護専門教育課程を修了することで英国看護協会(NMC) に看護師登録する資格を得ることができる。NMCの統計によれば、2004年度に新規登録した3万3257人の看護師のうち、EEA域外で看護教育を受けた看護師は1万1477人にのぼっている。内訳はインド人(3690人)、フィリピン人(2521人)、オーストラリア人(981人)となっている。特に注目されるのが、フィリピンからの受入れ数の増加である。1999年は52名に過ぎなかった登録者数が5年後には、50倍近く増加している。この背景には、1999年当時南アフリカのネルソン・マンデラ大統領が、相手国の労働市場に配慮せず熟練労働者を引き抜く英国の姿勢を強く批判したことを契機に、それまで結びつきの強かった、南アフリカや西インド諸島からの受入れの見直しを余儀なくされたことがある。その結果、代替となる送り出し国として、当時通貨危機後の経済停滞期にあったフィリピンからの受入れが二国間協定ベースで進められ、以降安定した看護労働力供給先となっていった。

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