中高年齢者の雇用促進を目指し、5年間の行動計画を発表

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2006年7月

ド・ヴィルパン首相は、6月6日、中高年齢者の雇用促進のための行動計画を発表し、当面は、中高年齢者の雇用政策を重要課題として掲げる意気込みを示した。2004年現在、フランスの55~64歳の就業率は37%。EUが掲げる「2010年までに50%」という数字には程遠い(注1)。政府は、今回の行動計画により、ここ30年間続いている引退年齢の低下傾向に歯止めをかけ、EU目標の達成を目指す。同計画には、(1)中高年齢の失業者を対象とした期間の定めのある契約の新設、(2)中高年齢者雇用の足枷にもなっていた「ドラランド拠出金(50歳以上の従業員を解雇した際に企業に課せられる税金)」の廃止、(3)年金を受給しながらの就労促進、(4)年金割増し率の引き上げ、(5)中高年齢者就労のイメージアップキャンペーンの実施――などが盛り込まれた。期間は、2006年から2010年までの5年間。主な内容は、以下の通り。

  1. 中高年齢の失業者を対象とした期間の定めのある雇用契約の新設

    57歳以上でかつANPE(職業安定所)に求職者登録をしている期間が3カ月以上である失業者が対象。雇用契約の期間は18カ月以内。一度だけ更新が認められ、最高36カ月間の雇用が可能となる。ボルロー雇用相は、この特殊雇用契約の実施に向けて、遅くとも2006年9月までに政令を発布することを明言した。

  2. ドラランド拠出金の廃止

    ドラランド拠出金は、中高年齢者の解雇抑制を目的として1987年に創設された。50歳以上の者を解雇した際、企業は失業保険の保険料徴収機関に税金を払わなければならない。その額は年齢に応じて増額される(労働法典L. 321-13条)。この税金については、以前より、企業が中高年齢者の採用を躊躇する原因になっていると考えられており、2003年には「採用時に45歳以上であった従業員を50歳以上で解雇する場合には、同拠出金を適用しない」とする制度改正が行われている。

    今回の計画では、同拠出金そのものを段階的に廃止することが盛り込まれた。2010年1月1日に、完全に廃止される予定。これにより、企業が税金の支払いを恐れて中高年の採用を控えるということは無くなると政府は主張している。

    これに対し、CGT(フランス労働総同盟)とFO(労働者の力)は、高年齢の労働者の解雇が頻繁に行われる可能性や、失業保険財源の大幅な減少(注2)に対する懸念を示し、この廃止案を強く非難している。

  3. 年金を受給しながらの就労促進策

    現在、年金を受給しながらの就労は、賃金と年金の合計額が、年金受給前の賃金額を超えない場合のみ認められている。しかし、このことが、年金受給開始前に低所得であった者に対し、年金受給後の就労意欲を減退させるという状況をつくりだしていた(注3)。

    そこで今後は、賃金と年金の合計額が、「SMIC(最低賃金水準)×1.6」の範囲内まで就労を認めることに改訂。これにより、低所得者層の年金受給開始後の就労促進に効果があると政府は主張している。

  4. 年金割増率の引き上げ

    現在、完全年金(フルペンション)の受給資格を持つ者が、支給開始年齢(60歳)を超えて就労を継続し、年金受給開始を繰り下げた場合、その繰り下げた年数に応じて、年金支給額が増額されるシステムとなっている。その割増率は、1年繰り延べにつき3%。今後は、1年繰り延べで3%、2年目以降は1年につき4%、65歳以上まで繰り延べた場合は1年につき5%と、割増率を引き上げる。

  5. 中高年齢者就労キャンペーンの実施

    政府は、「中高年齢者就労に対するイメージを変える必要性がある」とし、2006年9月から、500万ユーロを費やし、企業や労働者にとどまらず、新聞広告やラジオ、テレビのCMなどを通じ、全国規模でキャンペーンを実施する。期間は、2007年までの2年間の予定。

ド・ヴィルパン首相は、本行動計画の発表にあたり、「年齢が原因で、一部の国民が職に就くことが出来ないのは、受け入れ難い。中高年齢者は、若・中年者に伝承すべき経験を有しており、非常に高い能力を兼ね備えている」とし、若年者に雇用機会を提供するために中高年齢者を労働市場から退出させるというこれまでの政策を大きく転換することを強調した。

一方、労組側からは、「労働市場への参入を目指している若年者のポストを奪うことに繋がるのではないか」という懸念の声もあがっている。今回の計画への合意署名を拒否したCGTとFOは、「既に退職者世代に達している年齢層を労働市場に引き戻そうとする前に、勤労者世代の雇用を拡大することに重点が置かれるべきであった」とし、遺憾の意を表明。高年齢の失業者を対象とした期間の定めのある雇用契約の新設についても、「CPE(初回雇用契約)と同じ論理のもの」と強く批判した。CPEは、26歳未満の雇用について、2年間の試用期間を設け、企業はいつでも理由の説明なしに解雇することができるというもの。解雇を容易にすることで採用数を増やすというものであった。

ド・ヴィルパン首相は、今回の計画を具体化するため、関連する法の整備を「早急に」行なう意向を示し、2006年に1000万ユーロの追加拠出を予定していることを明らかにした。CPE創設の時とは異なり、今回の中高年齢者就業促進計画は、CGTとFOは合意署名を拒否したものの、CFDT(民主労働同盟)、CFTC(キリスト教労働同盟)、CFE-CGC(幹部職総同盟)の3労組は同意しており、大きな混乱もなく段階的に実施されることが予想される。

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