EU第6次拡大をめぐり、新規加盟国への対応に注目が集まる

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2006年7月

2004年5月にEUに新たに加盟(第5次加盟)した10カ国出身の労働者の自由移動に対する各国の移行措置が発表された(注1)。これに伴い2007年1月のEU加盟(第6次加盟)が予定されているブルガリア、ルーマニア(注2) 2国出身の労働者に対する対応に関心が高まっている。英国は第5次加盟の大半を占める中東欧8カ国(A8:Accession8)(注3) に対しては、「労働者登録制度(WRS)」(注4)を導入し、移行措置を設けなかった。2007年加盟予定のブルガリア、ルーマニアに対しても同様の制度を適用するのか、あるいは何らかの移行措置を設けるのかが注目されている。

英国における中東欧諸国出身外国人労働者

英国政府は中東欧諸国を低技能労働の主要な供給地ととらえている。2006年6月に行われたA8に対する移行措置の見直しでは、スペイン、ポルトガル、フィンランド、ギリシャが制限撤廃を決定したものの、ドイツ、オーストリアは2009年までの移行措置の継続、フランス、オランダは3年以内の見直しを検討との決定を行った。

このため当面はA8諸国から英国への安定した低賃金労働者の供給が見込まれているが、しかし中東欧諸国と距離的にも近いドイツ、オーストリアが将来的に制限を撤廃した場合、中東欧労働者の多くが英国ではなくドイツでの就労を望むとも考えられ、この場合いかに中東欧諸国の労働者を英国の労働市場に取り込むかが政策課題となってくる(注5)。

現在、英国政府はブルガリア、ルーマニア出身の労働者に対して、EU圏域外の国民が英国内で就労を行う際の枠組みで受入れを行っている。2005年には約1万人の受入れが行われ、その内訳は、最も一般的な受入れ制度である「労働許可(Work Permit)」によって約1700人、高技能労働者の受入れを行う「高度技能移民プログラム(HSMP)」で100人、単純労働者受入れ制度である「業種別割当計画(SBS)」で2114人、季節農業労働者受入れ制度である「季節農業等労働者制度(SAWS)」で6033人となっている(注6)。

一方、2004年に新規加盟したA8の労働者に対しては、2006年現在「労働者登録制度(WRS)」による管理を行っているが2004年5月から2005年5月の1年間でWRSの登録者数は約17万人にのぼり、うちポーランド出身の労働者が約6割を占める。ポーランドとルーマニアの人口規模がほぼ同等であることを考慮すると、2004年のEU拡大以前に3万2000人のポーランド出身者が既に英国内で就労していたのと比較して、現在英国で就労するブルガリア、ルーマニア出身の労働者数は小さい規模に留まっているといえよう。一方、就労産業については両国とA8との間に大きな差異はなく、いずれもヘルスケアや建設といった英国人が就業したがらない産業に多く就労している。

2005年4月のブルガリア、ルーマニア両国政府高官との対談において、チャールズ・クラーク内務相は「両国に対して自動的にA8と同様の対応をするわけではない」と述べている。英国政府は両国のEU加盟自体は支持しつつも、両国がEUに加盟した際の労働者の移動の自由への対応に関する現時点での明言を避けた格好だ。

この背景には、2004年の第5次拡大の際、WRSの登録者数を年間1万3000人程度と見積もっていたにも関わらず、旧加盟国の多くが移行措置を設けた結果登録者数は予想の10倍を超える結果となったこともあり、他の経過措置の導入状況を見て判断すべきとの配慮が働いたものといえる。

公共政策研究機構(IPPR)は2007年のEU加盟後1年間に就労目的で英国に入国するのは約5万6000人(ルーマニア:4万1000人、ブルガリア:1万5000人)という試算を発表した。 第5次拡大時と比較して規模が小さいことから、IPPRは両国に対してもA8同様に労働市場を開放すべきと結論付けている。

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