ILOが実施するCSRの研修事業

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2006年5月

ILOは1997年、理事会においてCSR(企業の社会的責任)に関する行動要綱(注1)を採択し、現在では、(1)CSRに関する情報収集、(2)政労使三者間の意見交換の場を設置、(3)行動要綱に謳われたCSRに関する原則の普及促進――等の活動を行っている。3月に開催されたILO第295回理事会では、(3)の普及促進活動の一環として、CSRに関し、ILOの国際研修センター(イタリア・トリノ)における以下のような研修事業の実施状況が報告された。

トリノの研修センターでは、2001年以降毎年、CSRに関する次の5つの研修事業を実施している。

  1. 社会的に責任あるリストラの実施
  2. 労働基準に関する「グローバル・コンパクト」(注2)マネージメント研修プログラム
  3. 国際労働基準、生産性向上、及び企業発展
  4. 国際労働基準とグローバル化
  5. グローバル化の中での労働者の権利擁護と促進のための国際的な枠組み

過去15年間、企業のダウンサイジング(規模縮小)やリストラ(事業再構築)によって、雇用は大幅に減少し、リストラされた者は企業福祉が受けられなくなるという事態が生じた。こうした現象は特に、移行経済下のロシア連邦やCIS諸国(注3)において著しいとされる。「社会的に責任あるリストラの実施」に関する研修は、企業がリストラを行う場合にも、従業員や、その社会への悪影響を抑制しつつ実施することが望ましいとして、研修センターでは、本研修を通じた適切な雇用慣行の促進を目指している。

(2)の国連グローバル・コンパクトに関する研修を実施する背景には、グローバル・コンパクトがILOの労働の基本原則及び権利を擁護するものであること、また、グローバル・コンパクトに関する経営者向け研修を実施するよう、多国籍企業から研修センターに対して要望が寄せられていることがある。グローバル・コンパクトへの参加は、企業の自発的行動によるものであるため、このような研修を通じてILOの労働における基本的原則及び権利が普及促進されることは、ILOは理想的だと考えている。

また、ILOは、国際労働基準の促進や、グローバル化のなかでの労働者の権利擁護・推進のため、意識啓蒙の糸口としてCSRが適切であると考えている。CSRは研修センターが「グローバル化の社会的次元に関する世界委員会」報告の結論と教訓を普及させるための、旗印の一つでもある。

これらの研修の実施と並行して、ILOでは研修教材の作成や、新しい研修コースの内容の検討を行っている。現在検討中のテーマとしては、(1)企業の自主的な取り組みの発展形成等に関する基準とそのベスト・プラクティス、(2)CSRに基づく戦略・方針・実践を通じたサプライヤー・下請業者等の業務品質改善(多国籍企業経営者向け)コース等がある。

参考

  • ILO第295回理事会(3月16日~31日開催)資料

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