政府、最低賃金の大幅な引き上げを発表
2006年3月22日、政府は低賃金委員会(Low Pay Commission)の答申を受け、10月より全国最低賃金を時給5.35ポンドに引き上げることを発表した。引き上げ率は2005年の平均賃金昇率4.1%を上回る5.9%となっており、約130万人が恩恵を受ける見通しだ。
2003年以降賃金上昇率を上回る最賃の引き上げが毎年実施されていることについて、低賃金委員会のターナー委員長(前英国産業連盟会長)は、今後は賃金上昇率との連動性を重視するとの意向を示しており、次回以降の引き上げ幅は縮小するとみられている。
最低賃金制度の概要
最低賃金制度は1993年保守党政権によって一旦廃止された後、労働党への政権交代に伴い、1999年に復活し現在にいたっている。決定にあたっては労働組合、使用者団体、及び学識経験者の三者で構成する低賃金委員会に首相および貿易産業大臣が諮問する審議会方式がとられており、低賃金委員会は、賃金動向、経済への影響、市場競争、雇用情勢、特に中小零細企業及び若年労働者市場に与える影響を考慮しつつ、また労使団体や企業などへのヒアリングを行ない、最低賃金額を政府に答申する。
英国では、成人労働者(22歳以上)を対象とする全国最低賃金のほかに年齢に応じて減額された若年者最低賃金が設置されていることが特徴。1999年の制度導入当時は成人労働者と若年労働者(18~21歳)の2区分であったが、2004年の最低賃金法改正に伴い、新たに義務教育修了年齢(16~17歳、地域によって異なる)を対象とする最低賃金制度が設置されている。今回の全国最低賃金の引き上げに伴い、両区分についてもそれぞれ、4.45ポンド、3.30ポンドへの引き上げが決定した(表1)。
若者向けの最低賃金を通常よりも低く設定する特例措置は企業の労働費用負担を軽減し、労働需要を喚起するとしてアメリカやフランスでも導入されている。(注1)低賃金委員会は答申に併せて発表された年次報告書において、16~17歳向けの最低賃金の導入の影響についての分析を行い、労働市場に特段の悪影響は生じていないとして今後も使用者による一方的な賃金設定から若者を保護するためにも今後も同措置を継続すべきとの立場を示している。
1999.4 | 2000.10 | 2001.10 | 2002.10 | 2003.10 | 2004.10 | 2005.10 | 2006.10 | |
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最低賃金 | 3.60 | 3.70 | 4.10 | 4.20 | 4.50 | 4.85 | 5.05 | 5.35 |
引き上げ率 | - | 2.78% | 10.81% | 2.44% | 7.14% | 7.78% | 4.12% | 5.94% |
18-21歳 | 3.00 | 3.20 | 3.50 | 3.60 | 3.80 | 4.10 | 4.25 | 4.45 |
引き上げ率 | - | 6.67% | 9.37% | 2.86% | 5.56% | 7.89% | 3.66% | 4.71% |
16-17歳 | - | - | - | - | - | 3.00 | 3.00 | 3.30 |
引き上げ率 | - | - | - | - | - | - | 0.00% | 10.0% |
注
- 米国では、20歳未満の労働者に対しては、勤務開始から90日間は4.25ドル/時の最低賃金が適用される。90日経過後、又は労働者が20歳になった時点で、通常労働者の最低賃金である5.15ドル/時が適用される。また、フランスでは、17歳以下の者については最低賃金額を、入職後6か月に達するまでは、17才未満の者については20%、17才の者について10%、それぞれ減額することができる。
参考レート
- 1英ポンド=207.39円(※みずほ銀行ウェブサイト
2006年5月1日現在)
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