「ミニジョブ」の使用者負担、増加

カテゴリー:非正規雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2006年3月

低賃金労働市場へのアクセスを容易にするため導入された「ミニジョブ」の制度のうち、社会保険費用の使用者負担分引き上げが閣議決定され、経営側から反発の声が出ている。ミニジョブは賃金が月額400ユーロ以下の雇用で、労働者側が社会保険料負担なしに額面どおりの賃金を受け取れる仕組みで、低賃金雇用の受け入れ促進を狙っている。一方、現在使用者は賃金の25%相当の定率の社会保険料を負担しているが、今回の引き上げ案ではこれを30%に引き上げる。背景には、政府の年金・健康保険料収入を増やす意図があるが、その反面で、企業負担分引き上げによるミニジョブの雇用数減少が指摘されている。

「ミニジョブ」は僅少労働(geringfuegige Arbeit)の通称であり、現行制度は2003年1月に施行された、労働市場改革法の一環であるハルツ第Ⅱ法で定めた規定に基づいている。労働者がミニジョブに従事した場合、月当たりの賃金の合計が400ユーロまでは、社会保険料を支払わなくてよい。また、社会保険加入義務がある「本業」に従事しながら、一つのミニジョブを行う場合は、本業の賃金と合算しなくてよい。現行制度では、使用者に対して社会保険料(一部税金を含む)負担分として25%の定率負担が課せられている。なお、月額400ユーロを超え800ユーロまで(このゾーンの労働はミディジョブと呼ばれる)は、月額400ユーロまでゼロだった労働者の社会保険料負担が段階的に増えていき、800ユーロに達した時点で通常の社会保険料負担率が課せられる仕組みになっている。

2月22日の連邦政府の閣議決定では、ミニジョブの社会保険料使用者負担を06年7月1日から、30%へと引き上げるとしている。たとえば、400ユーロのミニジョブに従事する労働者の場合、使用者から見ると、これまで500ユーロ(25%相当の負担を含む)だった雇用コストが520ユーロとなる。増額分は年金および健康保険会計に組入れられる。

負担増を強いられる使用者側はこの引き上げに強く反発している。BDA(ドイツ使用者連盟)は「ミニジョブ分野の雇用が失われる」と述べ、さらに「闇労働」(社会保険料負担などから逃れる目的で届出なしに行われる)の増加に懸念を示している。2月23日付のBDAニュースレターでは、ミニジョブがこれまで「闇労働や影の経済活動を防ぐ成果をあげてきた」ことが社会科学研究からも裏づけられているとし、しかしながら、最近ミニジョブの就業者数が、これまでの増加傾向から減少に転じたことを指摘している。

ドイツにおけるミニジョブ就業者数は、05年12月末時点で約641万7000人であり、同年9月末時点と比べて約28万人減少したとされる(ミニジョブセンターの集計による)。約694万人の就業者数を数えた前年同期と比較すると、約52万3000人減少している。04年まで一貫して上昇傾向にあったミニジョブ就業者数がすでに頭打ちとなっていることが、今回の使用者負担引き上げによる影響を懸念する論調の背景にある。

一方、DGB(ドイツ労働総同盟)など労働側には、もともとミニジョブに対する不信感が強い。06年2月にも、M・ゾマーDGB会長は「ミニジョブはドイツにおける社会保険加入義務のある労働を空洞化する」と地区大会で述べている。通常の雇用が低賃金のミニジョブに置き換えられることに対する懸念が、これまでも繰り返されてきた。

このほか、メディアからは、今回の使用者負担引き上げにより、逆に引き上げ分のコストを吸収する圧力が高まり、賃金そのものを引き下げる「賃金ダンピング」が起こるのではないかとする論調も出ている(ベルリンオンライン)。ドイツで現在関心を集めている「低賃金労働市場における雇用創出」の論議と併せて、ミニジョブの今後の動向に目を向ける必要がありそうだ。

参考レート

  • 1ユーロ=137.64円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2006年2月28日現在)

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