公務員法の改正と公務員の職業意識

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2006年3月

2005年4月27日に中華人民共和国公務員法は改正され、2006年1月1日から施行されている。今回の改正は、1993年に規定された国家公務員暫定条例を補完強化し、全国レベルで公務員の位置づけと機能について統一的基準を示すものである。同法は、執務にあたって公務員が縁故による癒着や汚職を行うことを厳しく排除するものであり、同時に公務員の昇給昇格など処遇については、明確な基準を示すものである。すなわち、同法の施行により、伝統的な公務員体制の弊害の一部は取り除かれた。

中国企業家協会・企業連合会の報告によると、江蘇省、浙江省、山東省、湖北省、海南省、重慶市、安徽省、江西省等で、さまざまなランク、職務の公務員に対して、給与水準、賞与、昇進・昇格などの待遇や勤務環境、福利、保障、仕事への達成感などの項目について意識調査を行った結果、公務員は、勤務環境、福利、保障、職責については高い満足感を持っている反面、収入(特に賞与)や官僚文化について不満が多いことが明らかになった。

収入に対する満足度

調査結果によると、公務員は職業として安定しており社会的地位は高いと多くの公務員が評価するものの、その給与の少なさには不満を示している。江蘇省、浙江省等経済が比較的発展した地域の公務員の年収は、およそ3万元から5万元であり、安徽省、江西省などの地域の公務員の年収は、1.5万元から2.5万元、海南省および西部の一部地域、直轄市の公務員の年収は1.8万元から3万元の間と、地域間格差が激しく全体的に見て公務員の収入は高いとはいえない。

給与が低いという問題以外に、公務員が不満に思う点は給与待遇が組織により大きく異なる点である。同じ組織内でも同一労働であるにもかかわらず仕事量が個人により異なるという情況が存在する。これについては、安徽省のある期間に勤務する公務員は、「現行管理体制は、仕事に合わせた組織が成り立っているとはいいがたく、権限と責任がマッチしていないため、自分がしなければならないことと自分が得られるもののバランスがとれない。同一組織内で個人による繁閑の差が歴然と存在する」と説明する。公務員の待遇は、従来の「全国一律」を引きついでいるものの、実際にはかなり混乱している。同じ地域でも、部門が異なると収入に違いが出る。中央の国家機関、省、直轄市、地県の公務員では待遇が異なる。また同じ職務でも地域、業界、部門が異なれば違いが生じることになる。北京市と上海市等では公務員の地域、部門による収入格差を減らし、隠れた収入をなくす目的で、2年前から収入を透明化する政策が打ち出されている。

公務員の収入については依然として未知であるが、「公務員法」が打ち出されたことで、給与構成には一定の変化が生じるであろうし、国の関連部門でも現在給与調整プランが練られている。待遇の格差については現在のところよりよい解決方法はないが、給与が上がるであろうという予測は低収入の一部の公務員には慰めとなっている。

発展の機会に対する満足度

調査を受けた公務員のうち17.6%はいわゆる社会人大学院生であった。公費によるもの、私費によるものさまざまである。浙江省紹興のある公務員は、公務員歴17年、幸福度は91%であるが、「私たちは夫婦2人とも在職中の院生です。目的はレベルアップ、自分に挑戦しているのです。」と調査に答えている。中国では元来「生きている限り年老いるまで学び続ける」という考え方があるが、知識経済のもと現代ではなおさらそうした態度が要求される。調査でもほとんどの公務員は学び続けなければならないという時代の要請を痛感しており、それに対して学習機会は少ないと考えていることが明らかとなっている。

現代の中国の公務員にとって、学位の取得は自らの能力を発展させることであると同時にそれは昇進の空間的発展を意味している。「公務員法」が施行されるまで、昇進と待遇は直接連動したものであった。昇進の機会がなければ待遇改善は難しかったのだ。それが現在の公務員制度の下では、どうであろうか。現在でも公務員の職務構成は、管理職と非管理職の二つの区分があるのみで、それを仕切る階級も15ランクあるのみでいまだ単一的な人材管理が行われている。公務員のキャリアと処遇の発展ルートは依然フレキシビリティに欠け、基層の公務員が昇給する機会は非常に少ないといえる。現状では、タイムリーに適材適所な配置と処遇を提供することは難しい情況にある。江西省のある公務員は、「私はずいぶんいろいろなことをしてきたし、苦労も随分した。大変な思いをしたが、いつももとの場所で足踏みをしているだけで大変不満である。」と回答している。こういった不満足感を解決しない限り、公務への積極的、創造的コミットメントを求めることは困難な情況にあることが調査結果から明らかとなっている。

そういった中、国税系統の業務においては、制度改革が試されている。「公務員法」を根拠に公務員の職務、階級区分と配置は公務員の給与制度改革とリンクして大きく調整されている。今後他の分野においても、多元化した公務員の職務発展のキャリアパスを構築し、各階級の役割と機能を明確に定義することで新しい体制を構築することが期待されている。

人間関係に対する満足度

公務員は、官僚文化と規則の中に身をおいていることから、普通の企業の組織管理からは想像しがたい柵があることは事実である。人間関係に関する満足度に関して、まず、第一には上下関係の中で、職場において上司を意識したとき心理的プレッシャーが大きくなることを調査結果は指摘する。仕事上一番喜びを感じるときは、「作成した書類が上司の要求を満たした時」であり、嫌なことは「上司の要求が高く、どうしても期限どおりに仕事を仕上げることができず叱責されるとき」であるとの回答が公務員の人間関係満足度の現状を表している。公務員の中には、受身的ではなく、自主的な姿勢に改めて創造性を重視した仕事を行うことに幸福感を高めているものがいることは注目すべきことである。また、今回調査を実施したすべての省において、上司との関係について、「部下は忠誠心を持つべきであり、上司は思いやりを持つべきである」という回答を得ている。上司から尊重されたときは喜びを感じ、人格を傷つけられたときには不満足感が高まることが確認された。

第二は、同僚との関係であるが、中国の官僚の世界では「和を以って貴しとなす」ことが強調される。今回の調査でも人間関係に関する項目については相対的に満足度が高い。同僚との関係においても、職場においては時として形式主義による対応をせざる得ない局面を不愉快に思う者が多い。また、社会的関係の累(コネなど)である影の規則が仕事環境に与える悪影響を指摘する声も多い。「公務員は大多数が社会的エリートであるが、多くの知恵が影の規則の中で消耗され、磨り減ってしまうことは残念なことだ」とコメントする公務員も多い。こういった弊害を取り除き作業効率を高めるため、2005年10月、深セン市政府は「治傭計画」を公布し、一連の措置をとっている。別の地域でも同様の措置をとる政府が増えている。

高まる公務員への就職希望

人事部のデータによると、2005年中央機関、国家機関の公務員募集に対して54万人が応募している。採用率は37%弱である。大卒者の就職難がいわれる中で、労働市場において公務員が人気の高い職業となっていることを物語っている。

公務員は、(1)年間解雇率が0.05%と企業と比較しても低く、圧倒的に安定した職であること、(2)給与の大幅アップ、有給休暇、医療・住宅手当、車両補助などの福祉待遇の充実、(3)潜在的利益があることーー等が人気の理由として指摘される。

公務員は、充実した福祉を享受できる就職先として魅力ある職である反面、公共の事務を管理するという職責、公共利益への貢献が求められる。近年では汚職、腐敗、行政効率の低さ、サービス意識の欠如などが指摘されている。公務員自身の仕事への満足感を高め、コミットメントを高めることで、現存する負の側面の改善が強く求められている。

参考

  • 海外委託調査員レポート2006年3月他

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