EU新規加盟のルーマニアとブルガリアからの労働者の受け入れをめぐる議論

カテゴリー:外国人労働者

スペインの記事一覧

  • 国別労働トピック:2006年12月

2007年、ルーマニア及びブルガリアがEUに正式に加盟する。これに対し、イギリスやフランスなど一部のEU諸国では、ルーマニア及びブルガリア両国の労働者の自由な移動を一定期間制限する「モラトリアム」措置をとることを既に決定している。こうしたなか、2006年10月31日、モラティノス外相は、スペインも同種の措置を導入する予定であることをある通信社主宰のセミナーで発表した。

この措置に対して、他のEU諸国だけでなくスペイン政府内からも反対の声があがっているが、外相は、2004年のEU拡大に際し加盟諸国が同種の措置をとったことから、今回の導入を決定したとしている。ちなみに、EUでは新規加盟諸国の労働市場開放はEUにとってメリットであると繰り返しているが、加盟各国は一定の労働者移動制限措置をとる自由を有する。

外相のこうした発言の一方で、移民を担当する労働省ではまだ具体的な措置を決定していない。モラティノス外相の発言とほぼ同じ頃、カルデラ労働大臣は、別の経済セミナーの席で「両国からの労働者に対する措置については、労組及び雇用者団体と交渉中である」と発言した。労働省では10月25日、二大労組のUGTとCC.OO.、ならびにスペイン経団連(CEOE)の代表との間で非公式会談を行い、意見を聴取の上、再度会合を行う意向を伝えていたばかりであったため、モラティノス外相の発言に対して労組からの批判の声があがった。しかし、労組や雇用者団体は一定期間の制限措置を設けることには、基本的に賛成の意を表明している。

一方、入国管理の権限を有する警察側からもモラトリアムに対する批判の声が出ている。ルーマニアとブルガリアがEUに加盟すれば、両国市民はEU内の他の諸国への移動、居住が自由になる。しかし、その権利を認める一方で、労働力として労働市場への参入を制限するというのは、いわば生計をたてる手段を事実上禁じておきながらただ居住することだけは認めるという、きわめて矛盾した方法である。労働が認められないために、違法な労働に就いたり、犯罪行為に走る可能性も高い。

スペインに流入する不法移民は、数の上では空の便で入ってくる移民(主として中南米出身者)、続いて陸の道(フランス国境経由)で入ってくる移民(主としてルーマニア人)が多い。ルーマニア人は「観光バス」を仕立てて入ってくることが多いが、陸の国境のコントロールは不十分で、検問の治安警備隊員等がまったくいない時もある。特に近年ルーマニア人の流入が急増したのは、2007年にルーマニアがEUに加入するまでスペイン国内で何とか持ちこたえれば、あとは自動的にスペインに在住・労働できるようになるとの希望が持てたからといわれている。

スペイン警察官連盟(CEP)は、加盟と同時にルーマニア人がなだれをうってスペインに流入することはないとしているが、その理由は「スペインの国境は抜け穴だらけであり、スペインに入りたいルーマニア人はすでに皆入ってきているから」というものである。CEPでは、2005年に政府が実施した不法移民の特別合法化プロセスにより非欧州諸国出身者を多数含む移民が合法化され、労働市場が飽和してしまったため、今回新たに正式にEU市民となるルーマニア人やブルガリア人の労働を制限せざるを得なくなったと主張。政府の不法移民の合法化に対して、政策的な矛盾を批判している。いずれにせよ、「モラトリアム」政策が具体的にどのようなものになるかは不明である。

現在、スペインに在住するルーマニア人は約50万人。モロッコ人、エクアドル人に次いで多い。しかし、このうち合法的な移民は18万9000人前後にすぎない。各市町村の住民登録ベースでみると、このほかにさらに20万人ほどが在住している。さらに、住民登録もしていない不法移民まで含めると総数は把握できないというのが実態である。また、合法的に在住するブルガリア人の数は5万5000人。住民登録ベースでは11万人となっている。このように既にスペインに入国しているルーマニア人及びブルガリア人たちは、目前に迫った両国の加盟日である2007年1月1日に、自分たちの法的ステータスがどうなるのかわからない不安を隠しきれないでいる。

2006年12月 スペインの記事一覧

関連情報