失業保険制度改革と活性化、失業予防、再統合に関する政策

カテゴリー:雇用・失業問題労働法・働くルール

オランダの記事一覧

  • 国別労働トピック:2005年8月

2005年4月、三者構成の社会経済審議会(SER)は、失業保険法(WW)の改正に関する全会一致の勧告を発表し、政府も勧告を事実上全面的に実施する方針を表明した。政府はまた、最長受給期間の短縮、過去の就労要件の厳格化などの失業保険制度改革と併せて、解雇規制の緩和、失業予防、仕事への復帰、失業者の再訓練に重点を置いた政策を実施することとしている。

(1)失業保険制度改革

政府は4月29日、失業保険法の改正に関する社会経済審議会の勧告を基本的に完全実施する方針を決定した。改正される失業保険法の主な特徴は、次のとおり。

  • 最長失業手当受給期間を、現行の5年から3年2カ月に短縮。
  • 短期の失業手当(3カ月)の受給資格要件を、現行の直前52週中39週就労から、直前36週中26週就労(「週要件」)に、長期の失業手当の受給資格要件を、直前5年間のうち4年間就労に厳格化(「年要件」)。
  • 週要件を満たしているが年要件を満たしていない労働者は、当初3カ月間(従前は6カ月間)賃金の75%、その後は賃金の70%の手当(従前は最低賃金)を受給できる。
  • 3カ月経過後の失業手当受給期間は、労働者の就労歴1年に対し1カ月の失業手当受給資格が付与される。最長受給期間は、38年間就労の場合に38カ月間の受給資格が与えられる。この新基準は、段階的に導入される。
  • 失業手当受給者の再統合プログラムへの参加義務を厳格化し、手当受給3カ月経過後に「試験(gatekeeper test)」を課すこととする。
  • 50歳以上の失業者は、6カ月以上の失業手当受給資格が与えられ、高齢失業者所得制度法の規定に基づく所得保障制度を利用することができる。50~60歳の失業者に対しては、試験を受けることなく、家族の所得が社会的最低水準まで補助される。60歳以上の失業者には、配偶者の所得を考慮することなく、最低水準の手当(最低賃金の70%)が支給される。

(2)活性化策と失業予防および再統合政策

新たな失業保険制度は、失業保険受給者を活性化する影響の増大に重点を置いている。失業保険制度改正の目的は、労働市場をより大きなダイナミックなものとすることである。政府は、労働市場の運営を改善するために十分な予防と再統合に関する政策が必要であるとするSERの認識を共有している。政府とSERは、解雇規制の緩和がきわめて重要であるとし、比較的緩やかな採用と解雇条件、比較的高い失業手当の水準(少なくとも最低所得層の人々と同水準)、厳格な再統合政策などを特徴とする「デンマーク・モデル」を引き合いに出している。

政府はSERの勧告に基づき、失業予防、再統合政策の改善、解雇規制の緩和を盛り込んだ政策を決定した。失業予防と再統合に関しては、失業を最初の段階で予防しなければならないと主張する。適切な予防対策の立案に向けて、1)労働量の調整(一時配置換え、内部移動等)、2)労働者の能力開発に向けた施策、3)一義的には分権化されたレベルの労使の責任であるが、この分野に関する公的資源のより積極的な活用――などの具体的な提案を行っている。また、失業手当の管理体制の見直しも、再統合政策の実施と併せて行わなければならないとしている。

(3)解雇法制の変更

政府はまた、失業保険制度改革と関連して、解雇法制に関する次のような施策を講じる予定である。

  • 「ラスト・イン、ファースト・アウト」の原則を見直し、将来的に、解雇の影響を受ける年齢階層をより均等に拡散させるために「比例」の原則を適用する。
  • 自らの責任によって失業者となった労働者には失業手当の受給資格がない。このため現在労働者は当然のこととして解雇に反対する。この厄介で費用のかかる慣行を省略するために、失業が個人の責任かどうかについての試験を限定的なものとする。
  • 使用者と労働組合が合意した場合には、大量解雇が事業運営以外の理由によるものかどうかの確認を受ける必要をなくする。

(4)失業保険の財源

政府は、現行のように失業保険の財源をすべて保険料で賄うのではなく、徐々に税金を失業保険財源に部分的に投入するというSERの提案について、さらに調査を行うとしている。SERは、失業が当該産業労使によって最も影響される当初6カ月間の手当は、現行どおり産業別に設定された保険料(労使折半)から支出すべきであると主張する。しかし、当初6カ月を過ぎると特定産業の当事者が失業期間に与える影響がずっと少なくなるため、SERは、国家的に設定された基金や一般財源を活用しつつ、より適切に政労使が出資する財源のしくみを設立する必要があるとしている。

(5)失業保険制度改革の評価

失業保険法の改正は、政府の社会保障制度改革の最終段階を示すものである。昨年秋の政府の社会保障制度改革案に対する大規模な大衆抗議行動の発生を省みると、SERが全会一致の勧告を採択し、政府が勧告を全面的に採用する決定を下したことは、劇的なことである。

短期手当の維持と最長受給期間の短縮によって若年者と高齢者の間の均衡を図ったことは、SERの勧告から導かれた積極的な改善点であると評価されている。今回の改革により、障害保険や早期退職制度に続いて、失業保険制度も労働市場からの代替的な退職ルートとして魅力の薄いものとなる。

SERの勧告に対する批判として、失業保険から脱退した高齢労働者に対する所得補助制度を暫定的に維持したことが、政府の議論で提起された。しかし、高齢者が現在置かれている弱い立場を考慮すると、最低所得保障制度は当面廃止されそうにはない。

参考

  • 欧州労使関係観測所オンライン

関連情報