地方政府の賃金交渉、民間部門の厳しい批判を受ける

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  • 国別労働トピック:2005年5月

2004年は3年連続で公務部門の賃上げが民間部門の賃上げを上回った。とりわけ地方政府においてこの傾向が顕著に見られ、地方政府職員の賃上げが4.4%であったのに対し、工業部門の賃上げは最低水準の3%であった。これは、既に十分高い賃金を得ている医師や公認看護師の賃金をさらに引き上げるものである。

工業部門の労働組合、とりわけスウェーデン労働組合総同盟(LO)の方針に従って要求を行うブルーカラー労働組合は、輸出産業の競争力を維持するとともに、公務部門の低賃金女性労働者に配慮して、賃上げの要求水準を抑制した。しかしながら結果的に、地方政府のブルーカラー労働者の組合である地方自治体労働者組合(Kommunal)は、工業部門のブルーカラー労働者よりも少し高い賃上げを獲得した。賃上げが低賃金の看護師助手や雑役夫の格差是正ではなく、高賃金の医師、公認看護師、高位の管理職をさらに潤す結果となってしまったことに対し、地方の政治家、経営者、ホワイトカラー及び専門職組合が批判されている。

(1)民間部門の賃金交渉

2004年は、429の全国労働協約が締結された。協約は、スウェーデンの就業者410万人のうち、民間部門の就業者200万人に適用される。協約の賃上げは、ブルーカラー労働者が7.8%、ホワイトカラー労働者が6.8%、全体で3年間(2004年4月1日から2007年3月31日)平均7.3%となった。しかし協約の賃上げ率にかかわらず、協約初年度の賃上げは、ブルーカラーのLO組合員よりもホワイトカラー労働者のほうがずっと高い水準となる。同時に地方政府のホワイトカラーと専門職労働者の賃上げはさらに高い水準となっている。
2004年のスウェーデンの賃上げ率は、EU平均よりもおよそ1%高かった。調停委員会は、スウェーデンの生産性がEU諸国の生産性よりもずっと高いため、これは問題にはならないとしている。

過去数年間の賃金ドリフト(協約賃金を上回る賃上げなど)を含む平均的な年間賃金上昇率はおよそ4%であり、公認看護師や医師は5%以上であった。しかし2004年は賃金上昇が鈍化し、工業部門の賃上げは約3%となった。他のEU諸国、とりわけドイツの賃上げはスウェーデンよりも低い水準となっている。ドイツの賃金が低下したために、ドイツは輸出市場における主要な競争相手となりつつある。最近ドイツの労働組合には、賃金上昇を伴わない週労働時間の延長(週35時間から40時間への延長の場合、約5%の賃下げに相当)で合意する例が数多く見られる。

しかし、それでもスウェーデンの競争力は脅かされてはいない。国立経済研究所(Konjunkturinstitutet)によると、単位生産当たりの労働費用は、1993年から2003年の間に20%減少した。

高い生産性上昇の要因の一つには、生産性の低い製造業の仕事の多くが賃金の低い国へ外注化されたことが挙げられる。他方、スウェーデンに残った分野は、非常に高度に合理化された。もはや「余剰人員」は存在せず、傾斜生産方式やフレキシビリティーの時代である。金属産業労働組合の失業率は現在11%にのぼり、スウェーデンのブルーカラー労働者とその加盟組合は、構造変化を受け入れ、地理的及び職業的な移動に対応する準備をしている。雇用や生産設備全体の移転が急速に進行しているため、ハンガリー、ポーランドやラトビアにはないマニュアル労働に代わる高付加価値の雇用を創出する時間がなったのが実情である。既にエリクソン(Ericsson)、エレクトロラックス(Electrolux)やその下請企業など、かなりの数の金属産業の雇用が新規EU加盟国に移転した。こうした状況下において、地方政府部門が工業部門の賃金抑制に配慮を示さないとしたら、輸出産業の製造業労働者は反旗を翻すであろうと見られている。

(2)地方政府の賃金交渉

2005年3月31日の期限切れを前に、110万人の地方政府職員に適用される賃金及びその他の労働条件に関する労働協約の改定交渉が行われた。地方自治体労働者組合(Kommunal)は、月額650SEKの賃上げと最低賃金の1万5000SEKへの引き上げを要求した。ホワイトカラーと専門職の組合は別個に交渉を行っている。

最初に合意に達したのはヘルスケア労働者組合に加盟する公認看護師である。続いて教員が3月31日の期限切れ前に新協約を締結した。地方自治体労働者組合連合(SKTF)のホワイトカラー労働者やソーシャルワーカーの組合(SR)の労働者も、紛争に至らず合意に達した。Kommunalは、最低賃金や個別賃金の引き上げで使用者側との隔たりが大きく、期限切れ前に妥結することができなかった。

公務部門の就業者に関する職種別賃金格差は、過去10年間、持続的に拡大してきた。10年前に3900スウェーデン・クローネ(SEK)であったホワイトカラーとブルーカラーの賃金格差は、現在6600SEKとなっている。最も格差が拡大しているのは、女性が大多数を占める地方政府部門である。この部門の女性の賃金は10年前も非常に低かったが、現在はさらに置き去りにされている。ホワイトカラーとブルーカラーの賃金格差は41%ある。ホワイトカラー労働者の賃金交渉の成功と賃金ドリフトにより格差が拡大しており、過去10年でブルーカラー労働者の賃金が36%上昇する間にホワイトカラー労働者の賃金は44%上昇した。賃上げ率を自動的に決定する賃金協約が格差を増大させている。変化をもたらすためには、労働運動全体でブルーカラー労働者を支援していく必要がある。しかし、そのような支援は、専門職組合には期待できず、ホワイトカラー組合の協力も非常に限定的である。

地方政府は賃金格差の拡大に大きな責任があるとされている。地方政府の交渉委員会の責任者は、地方政府サービスの管理職の賃金が、民間から管理職を採用する場合に競合できるよう、地方政府は特別に配慮する必要があると説明している。また医師や公認看護師の不足も影響している。彼らは、多かれ少なかれ、自分達の賃金を自ら決定するか、さもなければ人材紹介会社に登録し、より高い賃金を得ることができる。

地方政府の低賃金労働者40万人を代表するブルーカラーの労働組合のKommunalは、地方における社会民主党の政治基盤となっている。そのためKommunalの会長は、地方政府の交渉戦略が民間輸出産業の青写真に従ったものになることは受け入れがたい、と述べている。

2003年の地方政府の職種別平均賃金(LO発表)
職種 月額平均賃金(SEK)
医師 44,300
高校教員 24,400
行政官 23,400
小学校教員 22,300
看護師 22,100
社会事務官 22,100
看護学校教員 19,200
歯科看護師 18,000
公園・庭園管理 17,100
不動産管理 17,000
看護師助手 16,900
守衛 16,500
保育師 15,900
清掃夫 15,500
個人秘書 15,500
調理・レストラン助手 15,300

参考レート

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