急速に進む少子高齢化
―移民問題も絡み、問題は複雑化

カテゴリー:労働条件・就業環境外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2005年5月

急速に進む少子高齢化

スペインの2003年の合計特殊出生率(女性が一生に産む平均子供数)は、1.30。2002年の1.26からやや上昇したとはいえ、出生率の低迷は続いている。一方、65歳以上の人口は720万人(2004年)。これは、人口の17%近くに達し、16歳未満の人口を既に上回っている。少子高齢化が進むなか、今後の労働力人口の確保や公的年金制度の維持、そして介護が必要な高齢者のための社会保障支出の増大等に、どのように対応していくか。急速に進む「少子高齢化」問題への対応が迫られている。

政府の対策

出生率の低下傾向の原因のひとつに、「結婚年齢の上昇」が挙げられる。政府は、その背景に、「若者の経済的自立の難しさ」があるとしている。そこで、現政権は、「有期雇用契約の濫用防止」を大きな目的とした労働市場改革を目指し、労使と協議を進めている。「若年者の雇用の安定」の実現が狙いだ。

また、若者が結婚して新しい家庭を築くための「住宅確保支援」にも取り組んでいる。スペインでは、住宅賃貸の市場が非常に小さいうえに、伝統的に「新居を購入し、家具その他一切を整えてから結婚するもの」という考え方が根強い。そのため、住宅事情は、結婚・新家庭の形成に直接的に影響を及ぼしている(注1)。しかし、近年、不動産(新築・中古住宅)価格の高騰は全国平均で年17%前後に達し、大都市圏では20%を越える所もあるほどである。これは、初めて住まいを購入しようとする若い世代にとってはきわめて厳しい状況といえる。

こうしたなか、政府は「住宅省」を新たに創設し、問題に対応する意欲的な姿勢を見せている。しかし、今後、同省がこの問題をどう分析し、どのような政策を打ち立てるつもりなのかは、明確ではない。2005年4月には、トゥルヒージョ住宅大臣が、若年者の1人暮しや若いカップルの自立支援を目的として、「公的助成住宅でも30㎡以下の小さなアパートを提供する可能性について検討を始めたい」と発言。賛否入り交じった反響を呼んでいるが、現在のところ、その実現化について具体的な案等は出されていない。

高齢者介護に必要な財源調達という面では、国民党前保守政権時(2004年3月)に、「公的介護保険制度の導入が最も好ましい」とする調査報告が、専門家から提出されている。現政権も、この報告を重視しており、サパテロ首相は、政権2年目の目標のひとつとして、「介護保険導入」を挙げている。

企業の取組み

大手スーパーチェーンMercadonaでは、2005年1月より、妊娠中の女性従業員に対し、4カ月の法定産休期間を30日間延長できるようにした。産休延長期間のコスト(基本給分)は、会社が負担する。

Mercadonaの女性従業員は、3万2736人。全従業員の66%を占める。女性従業員の多い同社では、以前より「子供をもつ女性が働きやすい」環境づくりに取り組んでおり、特に保育園の設置をすすめてきた。これまでに、バルセロナ市近郊(2001年)、アリカンテ県サン・イシドロ市(2003年)、セビージャ県ウエバル(2004年)――にある各ロジスティックセンターに保育園を設置。2004年に出産した同社の女性従業員は、2400人にのぼる。

このほかにも、「自宅が、勤務先から徒歩10分以内であること」という同社の入社条件も、仕事と育児・家庭の両立を可能にしているといえる(注2)。

移民労働者の急増

一方、少子高齢化の進展とともに、注目されているのが、近年の移民労働者の急増である。移民の年齢構成が平均よりも若いことに加え、移民女性の出産数は、相対的にスペイン人女性の出産数を上回っており(注3)、「人口年齢構成の不均衡の緩和」という観点からも見逃せない現象となっている。

さらに、急激に進む少子高齢化や女性の社会進出に対して、公的支援が追いつかないスペインでは、家事・育児、老親の介護などを担う労働力として、移民への期待が高まっている。2005年2月に、移民合法化(半年以上滞在した不法移民に就労ビザを与えて合法化する)手続きが開始されて以降、こうしたニーズは強まる傾向にある。しかし、スペインで合法化された移民が、周辺国に流入する懸念も広がっており、こうしたスペインの移民政策は、他のEU加盟国との協調を欠いたものとして、ドイツやオランダからも批判を受けている。

移民問題が絡むなど、複雑化しているスペインの少子高齢化問題。一部の企業では、「両立支援」への積極的な取組みがみられるが、政府の対応については、未知数の部分が多く、今後の動向が注目される。

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