新移民政策、公表される
―移民受け入れの厳格化

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2005年4月

2005年2月、クラーク内務相は、入国管理5カ年計画に基づく新たな政策案を公表した。同案では移民受け入れの審査がより厳しくなり、英国内の求人なしに入国が認められるのは、医師、技師、金融専門家、情報技術専門家などの高度熟練労働者に限られ、農業、食品加工業、ホテル業、レストラン業で実行されている非熟練労働者割当て制度は段階的に廃止される予定となっている。

新移民政策案の概要

新規10カ国がEUに加盟した2004年5月以後、内務省に新規登録された移民労働者数は約9万人。英国政府はこれまで、新規加盟した東欧諸国からの労働者を受入れることは、非熟練労働者に関する労働市場の供給不足の解消につながるとの見解を表明してきた。しかし、今回の新たな制度の導入は、英国の移民政策が、非熟練労働者に対する移入制限と熟練労働者のより積極的な受け入れに向けて路線転換することを印象付けた。

新たな政策では、入国を希望する移民労働者に対する技能試験および年齢、技能、職歴、学歴などを点数化するポイント制が導入される。また、移民労働者を雇った雇用者には制度運用の監視者としての立場が求められると同時に、不法入国労働者を雇用した場合は2000ポンドの罰金を科す規定が盛り込まれた。また移民労働者の居住に関する規定も変更される予定。

一定水準以上の資格を備えた熟練移民労働者は、英国で五年間労働した後、語学試験と市民資格試験に合格すれば、家族とともに英国に定住することが認められる。しかし非熟練移民労働者については、家族とともに入国することは認められないほか社会福祉給付の申請資格も与えられず、さらに5年後には帰国しなくてはならないという厳しい内容となっている。

移入制限によるインフレを懸念する声も

この非熟練移民労働者を制限する移民政策については、賃金インフレの懸念を示す意見も少なくない。英国人材マネジメント協会(CIPD)主席エコノミストであるフィルポット氏は、「移民労働者は逼迫する労働市場において過剰な賃金圧力に対する安全弁の役割を果たしている」と主張。イングランド銀行のキング頭取も同様に「経済成長がここ数年続いているにもかかわらず、インフレが抑制されてきた理由の一つが移民労働者の存在にある」との見解を示している。また、英国公共政策研究所のスリスカンダラジャ上席研究員氏は、「移民政策は労働力需要を満たすものでなければならず、それができなければ、英国は深刻な賃金インフレに見舞われ、その統制は困難になるだろう」と指摘している。

米国の国家情報評議会(NIC)の『世界の未来予測図(Mapping the Global Future)』は、欧州諸国は将来、大規模市場、統一通貨、高度熟練労働力、高い国内総生産、民主的安定性など多くの点で優位な状況が続くだろうと予測している。しかし、同時に欧州諸国は、経済成長を維持できるだけの労働力を確保できない恐れがあるとも警告している。経済成長の維持には、女性と初老者(50~65歳)層の労働市場への復帰が不可欠とされるが、これに次ぐ重要度で合法的移民労働力の確保と枠の拡大が重要とされている。新政策の行方が注目される。

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