EU労働市場の自由化とラトビア人建設労働者の賃金をめぐる紛争

カテゴリー:外国人労働者労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年2月

2004年11月、スウェーデンで事業を行うラトビアの建設会社Laval and Partners(L&P)が、同社の雇用するラトビア人労働者に対し、スウェーデンの労働協約で定められた水準の賃金を支払うことを拒絶したため、スウェーデン建設労働者組合は、当該工事現場の封鎖を開始した。L&P社は、建設労働組合を提訴し、この問題は裁判で決着がつけられることとなった。

2004年5月の欧州連合(EU)拡大に伴い、EU加盟国の市民は、すべての加盟国の領域内を自由に旅行し、滞在し、居住する権利が保障された。しかし、雇用者として働くことを目的とした労働者の移動については、移行期間が設けられ、現加盟国は最長7年間、新規加盟国からの労働者の受け入れに制限措置を講ずることが認められた。スウェーデンは、この制限措置を一切課さないこととした。

ラトビアの建設会社Laval and Partners(L&P)は、ストックホルム近郊の学校建設工事を落札し、工事を行っていた。L&P社は、同社が雇用する14人のラトビア人労働者に対して、スウェーデンの労働協約で定められた建設労働者の賃金を下回る賃金を支払っていた。L&P社は、ラトビア人労働者の賃金を、現在の80スウェーデン・クローネ(SEK)から105SEKに引き上げようとしたが、スウェーデン建設労働者組合は、130~145SEKへの引き上げを要求し、L&P社はこれを拒絶した。

その結果、建設労働者組合は、2004年11月2日、L&P社の工事現場の封鎖を開始した。この紛争は、12月3日にスウェーデン電気労働者組合が当該建設現場でのすべての電気工事をボイコットすると発表したことによって深刻化した。電気労働者組合は、さらに12月28日、L & P社が工事を行っているすべての現場で、同社が労働協約に署名するまでストライキを継続すると宣言した。

このような同情的行動は、スウェーデンの労使関係法制では合法とされている。法律と労働協約に基づくスウェーデンの制度では、外国人労働者を含む未組織労働者の労働条件についても、労働組合が争議行為により労働協約の締結を要求することを認めている。これは、スウェーデン労働市場においてはスウェーデンの労働協約が適用されるとする一般原則に基づくものである。

他方、L&P社は、外国で働くラトビア人労働者に対しても、ラトビアの労働協約が適用されるべきであるとし、そうでない場合は差別的取り扱いであると主張した。スウェーデン労働組合総同盟(LO)の弁護士は、これは差別事例ではなく、スウェーデンで働くラトビア人労働者にもスウェーデン労働者と同じ権利があるという均等待遇の問題である、と述べている。

この問題は、両国間の外交問題にまで発展した。スウェーデン政府は、スウェーデンの労働組合の行動を支持する旨を表明し、ラトビア政府は、スウェーデン労組の現場封鎖をEU域内における人の移動の自由を侵害するものであると主張した。L&P社は、スウェーデンの労働組合と労働協約を締結するよう要請されたが、同社は、すでに自社の雇用するラトビア労働者と労働協約を締結していると反論した。

L&P社は、EU法に違反するとして、スウェーデン建設労働者組合を提訴するとともに、この問題を欧州裁判所へと持ち込むという脅しをかけた。

スウェーデン労働裁判所は、12月22日、労働組合の現場封鎖は、スウェーデンの法規に照らして、非合法とは言えないという判断を示した。

今後も同様の事件が発生することが予想されるため、LOとスウェーデン経営者団体連盟(SAF)は、この問題に関する一致点を見出すため、話し合いを開始した。

また最近、工業関係の使用者団体は、外国企業との間で一時的な協約を締結し、外国企業がその協約に定められた最低賃金を支払うという新たな方法を採用した。この協約による最低賃金は、通常の平均賃金より35~40%低い額となっている。製造業における一例では、平均時給の120SEKに対し、一時的に合意された時給は75SEKであった。

労働組合は、最低賃金は若年者や新規移民だけに適用されるものであると強く抗議している。組合側は、これは差別の一種であり、スウェーデンの賃金に下方圧力をかけるものであると主張している。

建設関係労組の合併

スウェーデン労働組合総同盟(LO)傘下の4つの建設関係労働組合が2007年初頭の合併に向けて検討に入ることを決定した。該当労働組合は、建設労働組合(Byggnads、組合員数13万人)、電気労働者組合(同2万7000人)、建物管理労働者組合(Fastighet、同3万9000人)、塗装工労働組合(Malarna、同1万8000人)である。この4組合の合併が実現すると、地方政府職員労働組合(Kommunal、59万人)、金属労働者労働組合(Metal、38万人)に次ぐ、組合員数21万5000人のLO内で3番目の産業別労働組合となる。

建設労働組合の会長によると、合併の背景には、1)団体交渉における交渉力の強化、2)建築・建設業労働者の政治的発言力の強化、3)管理機構と失業保険の統合による合理化――3つの理由があるという。

また、財政的事情のほかに、欧州労働市場の自由化もまた、建設関係の労働組合に合併を即す要因となっている。スウェーデンは2004年5月のEU拡大に際し、経過措置なしに新規加盟国からの労働者の移動を受け入れたため、現在、バルト海諸国やポーランドの建設会社がスウェーデン市場に参入していきている。その中には、スウェーデン企業が支払うよりもずっと安い賃金で契約を獲得している会社もある。スウェーデンの建設関係労働組合は、個人的にスウェーデンに来る全ての外国人労働者や外国企業の労働者に対してもスウェーデンの協約に基づいて賃金が支払われるよう保障していくため、合併によって交渉力を強化していく必要に迫られている。

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