自動車企業SEATにおける集団解雇問題
―労使が合意するも、再び決裂

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2005年12月

グローバル化が進展するなか、工業部門企業の産業拠点が、海外流出の脅威に曝されつつあるスペイン。中でも自動車産業への影響が目立っている。オペルのフィゲルエラス工場(アラゴン州)のポーランド工場移転問題(注1)に続き、同じ自動車部門のSEATでも集団解雇の動きが出ている。

SEATは、スペイン唯一の自動車ブランド。マルトゥレイ工場(バルセロナ市近郊)を中心として、スペインでも工業発展の伝統が長いカタルーニャ州最大規模の企業である。当初の親会社であったFiatの撤退(80年代初頭)、90年代半ばの不況と、これまでにも深刻な危機を何度も経験しており、現在は、フォルクスワーゲングループ(以下、VWグループ)の傘下にある。しかし、VWグループ買収後も、経営危機の噂は絶えることはなかった(注2)。

SEATの生産台数は、2000年から減少傾向が著しい。特に、2003年に数モデルの生産をストップしてから、生産能力過剰は、深刻な問題となっている。労組側もこうした厳しい状況を認識。2004年4月に集団解雇寸前の状況に陥りながら、交渉によってこれを回避した上で、「柔軟化の模範」と賞賛される斬新な内容の集団協約を結んだという経緯がある。同協約では、「需要の変動に応じて、一切のコストを生じさせずに、年間労働時間をプラス200時間マイナス240時間の限度内で増減できる」とされた。しかし、労組側がこれほど柔軟な労働条件を受け入れたにもかかわらず、需要の変動予測をすでに越えてしまっているのが現実である。

2005年10月には、企業側は2005年の生産台数を、39万台と発表。これは、当初予測の44万6000台を大きく下回る。さらに、労働力過剰の問題を解決するため、労働時間を10%短縮、これに伴い賃金も10%削減するという案を示した(注3)。SEATのシュレーフ会長は、カタルーニャ州政府のマラガイ州首相との会談(2005年11月13日)で、「過剰生産能力が問題となっているだけである。また、余剰労働者の一部は、有期雇用労働者であり、契約期限が過ぎれば解消する問題にすぎない。SEATの将来の存続如何が疑問視されているわけではない」とし、VWグループ全体でSEATを支援していくと述べた。しかし、それはあくまでも、新しい方向――生産台数を減少させ、より付加価値と収益性の高い製品を作る――という方向への支持であることも明らかにした。具体的には、労働時間の短縮とそれに伴う賃金削減という、いわゆるドイツ方式である(注4)。

一方、SEATの労組は、現在の状況は、企業側の生産台数減少の予測とそれに対する準備の不十分さ、有効なマーケティング戦略の欠如に原因があると主張。企業側の言い分に全面的に反対した。2005年10月27日には、企業側との交渉が決裂したものとして、マルトゥレイ工場付近やバルセロナ商業港近くの工業団地に向う道路上で3時間余りにわたりデモを実施した。企業側も、対話による解決を目指すが、時間切れになれば行政に訴えざるを得ないとして、労働行政当局(州政府労働庁)への雇用調整処理手続申請(注5)の可能性を示唆。これに対して労組は、自治州政府や中央政府に、自動車部門がおかれている深刻な状況を認識させるため、解雇手続の開始後は週1日ずつ24時間ストを決行する旨を発表した。

労使の交渉は平行線のまま、11月4日、企業側は、労働者1346人解雇のための雇用調整処理手続の申請に踏み切った。これを受けて労組側は、予告通り9日の夜勤時間帯から24時間にわたって1回目のストを決行。10日には、バルセロナ市中心部でSEAT労働者1万5000人がデモ行進し、マスコミの注目を集めた。これに対して企業側は、労働者7名の懲戒解雇を決定。交渉はさらに決裂した。

しかしその後、企業側が、解雇者数を可能な限り少なくするよう努力する意向を表明。解雇労働者への手当も、当初の6万ユーロから7万8000ユーロへと大幅に引き上げ、希望退職者が充分あれば強制解雇は行わないとした。さらに、18日には、希望退職プランについて、労使が合意。希望退職は、(1)賃金45日分×勤続年数の退職金(7万8000ユーロが上限)を受け取っての退職、(2)退職金は1万2000ユーロで、3年後に優先的に再雇用される権利付きの退職――の2案が提示された(注6)。労働時間についても、現行の協約でかなりの柔軟化を実現しているものの、更に柔軟化を進める余地があるか否か交渉が続けられることとなった。

こうして最終合意に向けて、労使は交渉を続けていたにもかかわらず、12月に入り、交渉は再び決裂。振り出しに戻ってしまった。地元カタルーニャでは、VWグループや行政の助けを借りずに、自分たち(SEATの労使)だけで痛みを分け合い、技術革新や付加価値の増大という努力によって、なんとかスペイン唯一のブランドを守らなくてはならないという声も出ている。しかし、自動車産業の置かれている状況は依然として厳しく、今後の労使の交渉の行方が注目される。

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