「産業の国外流出」に高まる危機感

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係

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  • 国別労働トピック:2005年1月

2003年頃から、企業の海外移転増加に対する危機感が高まってきたスペイン。労働・社会問題省のゴメス雇用長官は、11月に行われた経営セミナーに出席し、「産業の国外流出」への懸念を示した。また、「公的助成を受けた企業が国外に生産拠点を移す際に、助成の返却を義務付ける」等、企業の海外移転防止策を検討中であることを明らかにした。

自動車メーカーや、繊維、製靴、玩具製造業等で、生産拠点を国外に移転するケースが多くみられるスペイン。特に雇用面への影響が大きく、既に、直接雇用で1万人、間接雇用ではその3倍から5倍が、その影響を受けたともいわれる。こうしたなか、国内では「産業の国外流出」に対する危機感の高まりとともに、その対応策に関する議論が活発化している。

全国紙のエル・パイス紙は、政府諮問機関の経済社会評議会のメンバーでもあるサルバドール・デル・レイ・グアンテル教授(労働法)の「産業の国外流出」に関する論文を掲載。同教授は、「この現象を人為的に阻止することは難しいが、税制上の措置、研究開発の促進、職能訓練等の様々な政策をとることによって、そのインパクトを緩和しつつ、国内産業構造を強化することは可能である」と指摘している。また、労働者の権利の侵害につながるような濫用は避けなければならないものの、アウトソーシング自体を制限する必要はなく、むしろ「産業の国外流出」の防止という意味では、アウトソーシングの拡大は、賃金や労働時間以上に重要な要因であるとしている。

一方、労働・社会問題省のゴメス雇用長官は、11月に行われた経営セミナーの席で、「産業の国外流出」への懸念を示した。国外に生産拠点を移す企業はそろって、「生産コストの削減」をその理由として挙げているが、「労働者、投資家、行政に対する圧力手段として用いられるケースも後を絶たない」と指摘した(注1)。また、「国外に拠点を移す企業が公的助成を受けている場合、助成の返却を義務付ける」等、「産業の国外流出」の防止策を検討中であることを明らかにした。同長官は、その他の防止策案として、競争力向上を目指した技術革新、近代化と雇用維持に成功した企業への何らかのインセンティブの導入等を挙げている。

こうしたなか、11月30日、二大労組の労働者総同盟(UGT)と労働者委員会(CC.OO.)が、2005年の集団交渉に向けての指針を発表。労組は、「スペインはOECD諸国中、米国に次ぐ貿易赤字国であり、経済的競争力の増大が必要である」とし、政府及び企業側と一致した認識を示した。また、労使関係の更なる柔軟化の実現に向けて前向きな姿勢を示しつつ、その条件として、企業の生産投資増大を要求。この点においても、競争力強化と「産業の国外流出」防止を目指す政府の方向性と一致している。

企業がより低コスト・低賃金を理由に、生産拠点を国外に移転する現象は、今に始まったことではない。しかしその背景は、社会・経済の変化とともに大きく変化してきている。通商のグローバリゼーション、交通インフラや通信技術の急激な発達、移転先の労働力の質の向上等――こうした新たな背景のもとで、加速傾向にある「産業の国外流出」に、どのように対応していくのか。今後の政労使の動きが注目される。

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