ストレスレベルを測定するための管理標準を発表
―仕事上のストレスの増大が背景に
英国安全衛生庁(HSE)は2004年11月3日、仕事上のストレスレベルを測定するための管理標準( HSE’s Management Standards for Stress )を発表した。同管理標準には法的拘束力はないものの、ストレスに対する経営方針の策定例などがもりこまれている。英国では最近仕事量の増加に伴うストレスの影響が指摘されており、ストレスレベルが計測可能な実用的なツールとして活用されることに注目が集まっている。
管理標準は、(1)要求(2)コントロール(3)サポート(4)人間関係(5)役割(6)変化――の6項目で構成されており、HSEのウェブサイトから利用できる(表1)。利用者は1から5までのステップに従って、職場のストレスレベルを測定することができるほか、アクションプランの策定など問題解決の手段なども示されている。
管理標準が策定された背景には、企業間競争の激化に伴う長時間労働によって仕事上のストレスを感じる労働者が増えていることが挙げられる。実質所得および雇用の安定度が回復している反面、職務満足度はここ10年間で平均10%低下しているほか、ストレスや不安、うつ病等による損失は1年当たり約1300万日となっている。英国安全衛生委員会(HSC)は2010年までに職業性ストレスの発生を20%減らすという目標を掲げており、2003年4月から管理標準の策定に向けた取り組みを行なってきた。(注1)
各界の反応―労使ともに管理標準の導入を歓迎―
英国労働組合会議(TUC)は、4年前と比べて仕事量が急激に増大したことで余分な仕事によるストレスも拡大し、その結果疾病手当、生産の損失、国民保健サービスの取扱額な民保険サービスの取り扱い額など年間合計70億ポンドのコストがかかっていると指摘、管理標準の必要性を強調した。一方、英国産業連盟(CBI)も、病欠や高い従業員退職率さらには生産性の低下を最小限にするために雇用主はストレスをコントロールする必要があるとの認識を示している。
これまでも企業は労働安全衛生法の下で、職場における不必要なストレスの原因を作ったことを理由に訴えられる可能性があった。しかしその立証が困難であったため安全衛生事務局が告訴したケースはこれまでなかった。管理標準では、仕事上のストレス削減に向けた企業の努力を評価する法的基盤が示されていることから、今後企業は従業員のメンタルヘルスに一層配慮することになると見られ、その一方で将来には、従業員や組合による訴訟が増加が予想されるためHSEは施行令を発令し、改善通告を強制する行動をとらなければならなくなるだろうと考える専門家もいる。これに対しHSEは、組合および個人の労働者が、管理標準を利用して訴訟をおこすことを否定はしていない。しかし管理標準は採用を企業自体が任意で決めるもので企業に対してその向上の説得・奨励を強制するものではないと述べ、雇用主にもたらす管理標準の影響を控えめに扱う管理標準の影響はそれほど大きくないだろうと予想している。
表:ストレスレベル測定項目
- 要求:労働者が仕事において要求されるものに対処できるか
- コントロール:労働者が仕事のやり方について発言できるか
- サポート:労働者が同僚・上司から適切な情報・サポートを得ているか
- 人間関係:労働者がいじめ等の不当な扱いを受けていないか
- 役割:労働者が自身の役割と責任を理解しているか
- 変化:組織変更の際に労働者が関与しているか
注
- 『労働安全衛生要旨 2003-2004』(The 2003/4 survey of Self-reported Work-related Illness: SWI03/04)
参考
- ウェブサイト Health and Safty Executive
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