人的資源省とマレーシア労組会議(MTUC)が生産性連動型賃金制度導入をめぐって対立

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  • 国別労働トピック:2004年9月

フォン・チャンオン人的資源相は7月27日、2004年アジア人的資源開発会議(Asia HRD Congress)の冒頭演説で、自動昇給ベースの従来の賃金制度を撤廃し、労働生産性の向上に連動した新賃金制度を導入する考えを示した。フォン人的資源相は、「従来の雇用保障は過去の遺物。グローバル化に対応するためには、多国籍企業レベルでは既に導入が進んでいる業績ベースの賃金制度への切り替えはやむを得ない」などと述べ、雇用保障よりむしろ人的資源開発の拡充を強調。人的資源省は、5年を目途に、新賃金制度への完全移行を図る意向だ。これをめぐって、マレーシア労組会議(MTUC、2002年時点で組織人員50万7560人、加盟組織180組合)と人的資源省の意見が対立している。

フォン人的資源相は、「これまでの協議でMTUCは、生産性連動賃金制の導入を事実上承認していた」としているが、ザイナル・ランパックMTUC委員長は、協議の経緯や新制度の是認について、一切否定。同委員長は、「新賃金制度は、使用者による濫用を招く危険性が高い」と訴え、MTUCが当初から制度導入に反対であることを強調した。

これに対しフォン人的資源相は、「新賃金制度の導入が、雇用保障の低下につながるという組合側の発想は誤認だ」として、引き続きMTUCとの協議を重ねるとともに、他の労働組合との折衝もスタートする考えを明らかにしている。フォン氏はまた、「グローバル社会では、労働者の多様な能力の向上は不可欠。今後は常に生産性などを指標とした業績評価から逃れられない現実を認識してほしい」などと述べ、労働者側の理解を求めている。

政労使三者構成による国家労働諮問委員会(NLAC)が策定した賃金改革に関するガイドラインによると、新賃金制度は、固定部分(月額その他の固定給、年間ベースアップ、及び年間その他のボーナス)及び変動賃金部分(生産性利潤分配方式に基づく昇給)から構成される。このうち、固定部分の月額その他の固定給は職務内容による決定、年間ベースアップ分は年功及び経験を土台として算出。また、変動部分については、個人、職務、企業全体の生産性及び業績をもとに、測定可能かつ透明性のある指標に従って決定する。変動部分について新制度導入を促すため、同ガイドラインは、二つの具体的モデル――「収益性モデル」及び「生産性モデル」――を示し、企業に対し、両モデルを組み合わせで採用するよう求めている。

「収益性モデル」の場合、変動部分となる業績手当ては利益分配方式によって決まる。その方式については、1.組合がある場合は労使の合意をもとに労働協約で定める事項とすること2.未組織部門では労使協議を通じての合意を得ること――が望ましい。さらに、投資利益、資産収益、株主資本利益、過去数年の平均収益などを総合的に勘案して予め基準を設定し、それを超える利益がある場合に、能率給もしくは奨励給の支給を求めている。

一方、「生産性モデル」では、変動部分は、生産性向上に対応する年間奨励給とする。支給額は、固定部分のベースアップ分を超えない範囲とし、定期的な支給が求められる。また、生産性連動賃金の支給には、企業業績との調整も必要となるため、業績悪化の場合は不支給の措置も可能だ。奨励給の支給額決定にあたっては、生産性指標を用いることとし、企業独自の指標がない場合は、産業別、あるいは国レベルの生産性指標もしくは経済成長指標の準用を勧めている。

なお、ガイドラインは、新制度導入にあたって、1.関連情報の労使間の情報共有2.新制度への従業員の信頼構築3.労使間のモニタリングや評価に関する機密の保持4.従業員との協議5.新制度導入に必要な訓練の実施6.苦情処理機関と紛争解決手段の確保――などについて、労使の協力の必要性を強調している。

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