EUマルチステークホルダー・フォーラムがCSR勧告を発表

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  • 国別労働トピック:2004年9月

EUのCSR(企業の社会的責任)に関するマルチステークホルダー・フォーラムは6月、20カ月の討議を経て、CSR戦略の発展・実施を促す具体的勧告を含む報告書を発表した。勧告の内容は、1.CSRの基本原理に関する意識向上2.CSRに関する情報の収集・交換・普及3.CSRに関する知識及び行動に関する調査、及び質の向上4.CSRに対する企業の理解力、連携の推進5.CSR分野でのキャパシティビルダーの能力蓄積6.教育・カリキュラムへのCSRの包含7.CSRのための適切な条件整備8.利害関係者の対話促進9.公的機関及びEUの役割強化――の9項目。これを受けて欧州委員会は、CSR戦略の進捗評価に着手し、年末にむけて新たな文書を採択する見込みだ。

EUレベルでのCSRに関する議論は、2000年3月のリスボン欧州理事会を契機に活発化した。2010年までにEUの競争力を強化するという戦略目標の達成を目指し、企業責任の強化を掲げたためだ。これを踏まえて欧州委員会は、CSR問題に関する評価・検証を実施し、2002年7月にEUのCSR戦略に関する骨子をまとめた文書「CSR:持続的発展に向けた企業の貢献」を発表。グローバル経済における社会・環境に対する企業の新たな役割を明確化するとともに、中小企業におけるCSR拡大の必要性を強調した。

欧州委員会はまた、同文書を土台として2002年10月、EUレベルの企業、労働組合、NGO、投資家、消費者その他の利害関係者20名が参集する「欧州マルチステークホルダー・フォーラム」を設置(注1)。EUの経済・社会・環境に関する目標達成を補完するものとして、CSR及びCSRの実例の信頼性、一貫性、透明性、実効性を促し、各利害関係者の共通理解を深めることを、設立趣旨としている。同フォーラムに寄せられた企業事例は50件程度。これをもとに、行動規範(コード・オブ・コンダクト)、レーベル、報告書、経営文書などCSRに関連する各種ツールを見直し、1.知識2.中小企業3.透明性4.開発――をキーワードに20カ月間にわたる討議を展開した。以下は、6月29日発行の最終報告が明らかにした9勧告をまとめたもの。

  1. CSRの基本原理に関する意識向上

    CSRの基本原理について、公的機関その他の利害関係者の意識向上を図る。具体的には、行動規範、労働協約、パートナーシップ、グローバルな協定等を通じて、CSRの基本理念を実施に移していくイニシャチブが求められる。

  2. CSRに関する情報の収集・交換・普及

    CSRに関する情報の収集・交換・普及に向けた利害関係者の貢献を促す。情報の公共性・利用可能性拡充のため、インターネットの利用を強化する。

  3. CSRに関する知識及び行動に関する調査、及び質の向上

    あらゆる利害関係者をカバーする複合的な比較調査、事例調査、実地研究を行う。取り上げる分野は、1.CSRが競争及び持続的発展に及ぼすマクロ的影響2.公的調達における社会・環境基準の統合及びその影響3.サプライ・チェーン問題と大企業・中小企業とのパートナーシップ4.コーポレートガバナンスとCSR5.消費者、投資家、及び一般市民へのCSR関連情報の周知――等。

  4. CSRに対する企業の理解力、結合力の推進

    CSR政策の開発・実施に関し、企業、企業体、その他の利害関係者相互の連携強化を図るとともに、簡単に利用できる実践的な情報やアドバイスの公開により一貫性あるCSRの普及を目指す。また、サプライ・チェーンにおける持続可能なマネジメント能力を構築するため、購買サイドと供給サイドとの経験の共有を促進する。なお、CSRの導入にあたっての重要事項として、1.企業ニーズや状況を踏まえたツールの採用2.CSR目的に対する企業の業績検証3.CSR問題の担当者への適切な訓練の提供4.CSR分野での企業内訓練機会の提供――等をあげている。

  5. CSR分野でのキャパシティビルダーの能力蓄積

    CSRの分野における企業へのサポート的役割を担うのは、ビジネスアドバイザー、消費団体、投資家、労働組合及びメディアといった諸団体。こうしたキャパシティビルダーのCSRに対する理解や、技能・能力の開発を促し、効果的なCSR実例のノウ・ハウを蓄積し、ビジネス界を支援することが望ましい。この目的のため、公的機関、企業その他の利害関係者の支援も必要となる。

  6. 教育・カリキュラムへのCSRの包含

    CSR戦略に必要な能力を蓄積するうえで、ビジネス・スクール、大学及びその他の教育機関が果たす役割が大きいことに鑑み、CSRや関連するトピックを、各教育機関における従来のプログラムや、将来のマネジャー、大学院生を対象とするカリキュラムで主流化する。

  7. CSRのための適切な条件整備

    EU諸機関及び政府は、CSR推進に向けた適切な条件整備のため、統一した政策アプローチの構築に向け努力する。また公的機関は、企業がCSRを実施することによってEU及びグローバル市場での恩恵を受けるような法的枠組みと適切な経済・社会的条件の整備を進める。さらに、社会責任投資(SRI)、各種基金――等、CSR関連の財源情報の利便性向上を図り、投資家、企業の参加を促す。

  8. 利害関係者の対話促進

    CSRの推進を目指し、建設的な対話構築に向けた企業及び利害関係者の貢献を求める。また、企業レベルでの従業員、労働組合、従業員代表との対話を重視する。

  9. 公的機関及びEUの役割強化

    CSRの牽引役としてEU諸機関及び政府は、一貫性ある政策を通じてCSR環境を構築するとともに、人権、社会権、及び環境保護を目的とした国際条約の批准、実施について各国を支援すべきである。また、効果的な公的資金の投入について、評価が必要である。

  1. フォーラムには、欧州労連(ETUC)、欧州産業連盟(UNICE)、CSRヨーロッパ、グリーンG8(欧州環境NGO)、欧州社会NGOプラットフォーム、アムネスティ・インターナショナル、欧州消費者団体(BEUC)、欧州労働者協同組合委員会(CECOP)、企業と市民参加欧州センター(CEEP)、欧州産業討議会(ERT)、欧州専門家・経営者審議会(EUROCADRES)、欧州幹部・管理職連盟(CEC)、欧州商工会議所協会(Eurochambres)、欧州商工会(EuroCommerce)、公正取引表示組織(FLO)、欧州人権連盟(FIDH)、オックスファム、欧州中小企業組合(UEAPME)、持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)の代表が参加。このほか、欧州議会、欧州理事会、地域評議会、経済社会評議会、OECD、ILO、UNEP、UNグローバル・コンパクト、アフリカ・カリブ・太平洋グループ(ACP)事務局、欧州大学協会(EUA)、欧州持続可能な社会的責任投資フォーラム(EUROSIF)が、オブザーバー参加している。

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