政府の職業紹介サービス事業へ批判が高まる

三菱自動車による工場閉鎖等の決定を受けて、連邦政府はその人員削減対象者に対する大規模な救援策を打ち出した。ところが、政府によるこうした特別支援策がかえって現在の職業紹介サービスの不十分さを浮き彫りにしたため、政府に対する批判が高まっている。

批判の背景

現政権は、失業者等に対する職業紹介サービス事業のほとんどを民間委託し、現在ではジョブ・ネットワークを通じ職業紹介が行われている。この制度の下で、失業者は職業紹介サービスと失業給付を受けるためにいわゆるセンターリンクで登録を行い、適当と思われる職業紹介業者を通じサービスを受ける。失業者が業者の名簿に登録されている間、業者は政府から報酬を受け取る。さらに失業者が就職先を見つけると、業者に報奨金が支払われる。この制度についてはかねてより、必要なサービスを提供するには政府から支払われる報酬では不十分であるとの批判が展開されてきた。特に高齢失業者のニーズを満たしていないといった批判は根強く示されてきた。

最近になってそれを実証するレポートの存在が明らかになり、問題をさらに大きくしている。同レポートは、雇用職場関係省の高齢化審議会により2003年10月に作成されたもの。マスコミ報道では、その内容が政府にとって不都合であったため公表されず、リークされざるを得なかったという。報告書は文化的にも構造的にも職業紹介サービスが高齢化社会に対応しきれていないことを指摘している。特に高齢失業者は、権利や必要性があるにも関わらず十分な支援を受けていない。その原因の1つとして、業者側スタッフの多くが年齢差別に直面している高齢労働者の特別なニーズを認識していないことが挙げられている。高齢者に十分な職業紹介サービスが提供されない状況が続けば、技能や経験の伝承が途絶するなど様々な問題が生じる可能性がある。

政府の特別支援策

連邦政府は、こうした事業での資金不足を自ら露呈するかのように、三菱自動車工場閉鎖の影響を受ける労働者に対する特別支援策を公表した。現時点では今後1000名程度の労働者が職を失うと伝えられており、総選挙を控えた連邦政府にとってこの問題への対応が選挙結果を大きく左右すると見られていた。そこで政府は即座に1000万豪ドル(注1)に及ぶ特別支援策を打ち出した。ところがこの特別支援はジョブ・ネットワーク加盟業者を通じてのみ利用できるため、政府はこの特別支援策を通じ自らが支援する業者を援助しようとしているとの非難が巻き起こった。通常、失業者は職業紹介業者に連絡することでまず900豪ドル相当のサービスを受けることができる。しかし三菱自動車の人員削減対象者はより高いサービスを受給でき、これにより業者には自動的に1350豪ドルが支給される。この資金は、職業訓練や交通費、書籍購入など就職支援のために使われる。さらに賃金補助や引っ越し、起業支援などのために最高で4000豪ドルの特別財政援助が提供される。これらの特別支援策が公表されると、なぜ三菱自動車の人員削減対象者だけ特別扱いされねばならないのか、そしてそれ以外の失業者にとってなぜ現行制度は十分ではないのかとの疑問が提起されるようになった。

このような機会に乗じるように、野党労働党は2004年7月8日に高齢失業者に関する政策を明らかにした。それによると、労働党はこの問題に対し2億1200万豪ドルを投じ、職業訓練施設の建設や高齢失業者を対象とした施策等に利用するという。これに対し雇用サービス大臣は、現行制度が高齢労働者にとって十分機能していないという主張を否定し、高齢労働者を雇用するよう啓蒙・教育活動を行うことが最重要課題であると指摘した。

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