EU拡大と移民労働者の受け入れ

カテゴリー:雇用・失業問題外国人労働者

デンマークの記事一覧

  • 国別労働トピック:2004年8月

(1)デンマーク政府の方針

デンマーク政府は既に2003年12月2日、野党第一党である社会民主党をはじめとして、急進自由党、社会主義国民党、キリスト教民主党等の野党と、東欧諸国からの移民労働者の受け入れについての基本的な方針について合意に達している。「新規EU加盟国からの労働者のデンマーク労働市場への参入に関する取り決め」と呼ばれるデンマーク政府の方針は、以下5項目を最も重要な事項として掲げている。

  1. 新規EU加盟国からの労働者を不当な(安い)賃金で雇用しない。
  2. デンマークにおける適度な雇用バランス及び秩序の保持。
  3. デンマークで適用される労働条件により新規EU諸国の労働者を雇用。
  4. デンマークの福祉制度を保持し、同制度の悪用を防止。
  5. 不法労働及び不正な企業活動を厳重に規制。

(2)新規EU加盟国からの労働者のデンマーク労働市場への参入に関する取り決め

  1. デンマークへの入国・滞在

    2004年5月1日以降、新規加盟国の国民は、最高6カ月間までデンマークに滞在することができる。ただし、就職活動が目的である場合に限る。また、当該求職期間中、求職者は、社会福祉サービスを受給することはできない。

  2. 就労ビザ

    新規EU加盟国の国民は、他のEU諸国の国民と同様、デンマーク国内で就労することができる。ただし、エストニア、リトアニア、ラトビア、ポーランド、スロバキア、スロベニア、チェコ、ハンガリーからの労働者については、就労ビザの取得を条件として掲げた「暫定的取り決め」が適用される。

  3. 暫定的取り決め(キプロス、マルタを除く、新規EU市民に対して適用)
    1. 就労ビザの取得要件
      1. デンマークの労使協約に基づいたフルタイム就労であること。
      2. 使用者は、被雇用者の給与から所得税を源泉徴収。ストライキ、ロックアウト等の労働争議がない職場であること。
      3. 雇用主と被雇用者の間に正規の雇用契約が締結されること。
        ビザ申請は、外国人管理局が審理。
    2. 就労ビザの交付期限
      1. 通常、1年だが、延長も可。
      2. 研究者、管理職、専門家の場合、初回のビザは最高3年まで。その後のビザ延長は、最高4年を単位にその都度審理。
      3. 雇用契約期間に基づいてビザを交付。
    3. 家族の滞在
      1. 就労ビザを取得した労働者がデンマーク国内で住宅を確保していることを条件に、当該労働者の家族の滞在を許可。
    4. 暫定的取り決めの適用範囲
      1. 暫定的取り決めは、賃金労働者に限って適用される。
      2. 東欧8カ国(エストニア、リトアニア、ラトビア、ポーランド、スロバキア、スロベニア、チェコ、ハンガリー)の事業主がデンマーク国内にオフィス・工場等を開設する場合、またこれらの諸国からの留学生に対して、当該取り決めは適用されない。事業主や留学生に対する滞在許可書は、県が発行。
    5. 東欧諸国の労働者に対する就労ビザの交付状況
      雇用促進省労働市場局によると、2004年5月1日現在、東欧諸国の労働者に対して交付された労働許可書は146件。(表1)また、デンマーク国際関係研究所は、東欧諸国の労働者に交付される就労ビザは、年間およそ2000件前後であろうと推測している。
表1:国別就労ビザ(2004年5月1日現在)
リトアニア ポーランド ラトビア ハンガリー エストニア スロバキア スロベニア
72 41 15 9 5 3 1

*「新規EU加盟国からの労働者のデンマーク労働市場への参入に関する取り決め」に基づいて交付された就労ビザ

表2:分野別就労ビザ(2004年5月1日現在)
農業・漁業 工業 サービス業 ホテル・飲食業 交通・運輸 土木・建築
119 13 7 4 2 1

*「新規EU加盟国からの労働者のデンマーク労働市場への参入に関する取り決め」に基づいて交付された就労ビザ

(3)雇用失業情勢

  1. 労働力不足と失業者

    デンマークにおいては、IT、農・林業等の分野では労働力が不足しており、東欧諸国の労働者の雇用に対して、積極的な企業も少なくない。ただし、土木・建築業界では、特に就労ビザを持たないポーランドの労働者を不当な賃金で雇用するケースが既に数件発覚しており、東欧諸国からの不正労働者の流入をより厳しく監視すると同時に、国内の事業主に対して、これらの不正労働者を雇用しないよう警告することが重要だとされている。

    2004年6月現在、デンマークの失業者数は18万人(対労働力人口比:約6.2%)を数える一方、国内で的確な労働力を十分に確保できない業界では、オフィスや生産施設の国外移転を考慮する企業も出現している。このような状況の中、国内の失業者に対して企業が求める資格・技術の取得を目指した研修や再教育を施し、失業者の雇用を推進することが求められており、東欧諸国からの労働者の雇用は、国内で十分労働力が確保できない場合に限定すべきだというのが政府や産業界の基本的な姿勢だ。

  2. 就労に関するグリーンカード制度

    2002年夏、高度な技能を持った外国人専門家の招聘に関する事務手続きを簡素化し、アメリカや他のEU諸国との競争により積極的に立ち向かうことを目的とした「ジョブ・グリーンカード制度」が導入された。この制度は、IT分野、エンジニアリング(環境、化学・物理、バイオテクノロジー、機械、エネルギー、食品工学)、研究者(医学、統計学、化学、物理、薬学、生物学、地質学)、医師・看護師などの特定分野に雇用される外国人専門家(国籍は問わない)の就労ビザ申請に関する事務処理の効率化を図るため、外国人管理局は事前に国内労働組合に当該雇用の是非を問い合わせることなく、単に雇用契約書を基本に審査するというもの。2004年5月に施行された「新規EU加盟国からの労働者のデンマーク労働市場への参入に関する取り決め」と平行して適用されている。

表3:ジョブ・グリーンカードの交付件数
  インド アメリカ ポーランド リトアニア 中国 その他の国
2003年 110 96 60 43 37 315 661
2004年(1-6月) 95 55 10 11 19 162 352

*上記は新規就労ビザの交付に限る。

2004年8月 デンマークの記事一覧

関連情報