金属業界、2004年度賃金協約交渉妥結

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年5月

金属業界では、2003年12月にIGメタルの賃上げ4%と有効期間12カ月の賃金協約締結の要求で2004年度の協約交渉が開始されたが(ドイツ労働情報2004年3月参照)、これに対して金属連盟は初めは労働生産性向上の範囲内の賃上げ幅1.4%を主張して譲らず、さらに個別企業の業績に応じた賃金調整なしの労働時間の延長とこれを実現するための開放条項(Offnungsk1ause1、労働協約当事者の同意あるいは事業所協約の定めがあれば産業別労働協約の水準を下回る条件の適用を認める条項)の導入を主張した。だがIGメタルは、賃金調整なしの労働時間延長を開放条項を適用して一般的に導入することに終始強く反対。交渉は難航して警告ストに発展し、本格ストの危機も孕むに至ったが、2004年2月12日、交渉を先導するパイロット地区バーデン・ヴュルテンベルク地区で16時間のマラソン交渉の末に協約交渉は妥結した。

以下、妥結された内容の要点とこれに対する各界の反応・評価を記する。

(1).妥結された内容

今回妥結された内容には、要点として賃金、労働時間、雇用条項の3つの部分がある。

  1. 賃金
    • 賃金協約の有効期間は2006年2月末までの26カ月間とする。
    • 賃上げは2段階とし、2004年3月以降は2.2%の賃上げ、2005年3月以降は2.7%の賃上げとする。2004年1月と2月については賃上げは遡及しない。また、2005年3月以降の賃上げ2.7%には修正条項が付され、2005年初めにIGメタルと金属連盟は、その時点の経済成長率、物価上昇率、雇用の発展を考慮に入れて、2.7%という数字がその時の状況に適合しているかどうかを検討する。この検討で金属連盟とIGメタル間に意見の一致が得られない場合には、双方とも自らの側の意見を通すことばできない。
    • 2002年の賃金協約交渉で合意に達した労働者(Arbeiter)と職員(Angeste11te)の賃金格差を無くすための報酬基本労働協約(ERA-Entgeltrahmementarifvertrag)のコストに充てる基金のための積み立てに、各段階の賃上げから0.7%、合計1.4%を充当する。
  2. 労働時間
    • 労働時間は一定の条件の下に週35時間から最大40時間まで、完全な賃金調整のもとに延長することができる。
    • この労働時間の延長は、少なくとも従業員の半分が高度の熟練労働を遂行する企業においては、IGメタルの同意なしに行える。熟練労働者がこの割合に満たない企業では、原則として古い協約条項が適用され、全従業員の18%までが最大40時間まで労働時間を延長し得る。ただし、この18%の割合は、IGメタルが同意し、雇用の減少が生じない場合には、拡大することができる。
  3. 雇用条項
    • 従来よりも進んだ開放条項(Offnungsk1ausel)の活用に道を開くことに合意する。
    • 開放条項では、企業の「競争、投資、革新のそれぞれの能力」を高めることを条件に、
      一時金の削減(例えばクリスマス手当等)、完全な賃金調整なしの労働時間の延長又は短縮等について取り決めることができる。ただし、ICメタルが開放条項を活用することにその時々同意せねばならない。
    • 3年後に、この新たな開放条項に対する取り決めが適正に働いたかを検討する。

(2)各界の反応と評価

妥結された内容については、労使、与野党、労働問題専門家等から様々な反応・評価がある。

  1. まずIGメタルは、2003年の東独地域の週35時間労働をめぐるストライキの大敗北の後で、一定の賃上げを確保したことに満足しており、かつベータース委員長は、一般的に賃金調整なしに労働時間を延長する可能性を認める使用者側の意図を阻止したことに満足を表明している。
  2. これに対して使用者側では、賃上げについては特に金属連盟の東独地域の一部の地区で、現在の経済状況でこの賃上げは高すぎるとの批判が強いが、今回の妥結内容については一般に肯定的な反応が示されている。中でも雇用条項について金属連盟は、個別企業とその従業員が雇用創出のために企業レベルで賃金等の取り決めをすることを労使双方が積極的に支持するものであり、単なる宣言的条項ではなく、IGメタルを拘束するものだとして評価している。
    もっとも、ジ一メンス等の一部の大企業からは、今回の妥結内容が雇用創出に効果があるかどうかは未定だとする意見もあり、ロゴフスキー産業連盟(BDI)会長も、妥結内容は「矛盾を含む」とし、賃上げ率は高すぎて弾力性に欠けるとしており、他方で、初期のIGメタルの協約有効期間12カ月の要求に対して、26カ月の有効期間で妥結されたことは、企業の計画性確保の見地から首肯しうるとしている。
  3. 与野党はともに今回の妥結を評価しており、経済のためにスト回避を望むシュレーダー首相(社会民主党SPD)が安堵感を表明しただけでなく、最大野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)も「理に適った結果」だと評価している。
  4. これに対してエコノミスト等専門家には、使用者側のIGメタルに対する譲歩によって雇用創出の観点からの適正な賃上げの範囲を再び超えてしまったとの意見が強い。5賢人会議は低迷する労働市場に鑑み、ここ数年来賃上げ幅を各産業部門の労働生産性向上の範囲内に留めるように勧告してきたが、それは生産性向上の範囲を超える賃上げは、被雇用者を利することがあっても、失業者のための雇用創出をもたらさないという理由による。したがって同会議は、現在のように国民経済が十分雇用を創出する力を欠く大量失業状況の下では、貸金協約の妥結額は実質的に生産性向上の範囲内に抑制すべきだとしてきたのだが、同会議の一員のヴォルフガンク・フランツ欧州経済研究所長は、この観点から妥結額は2%以内に留まるべきだったとしている。また同所長は、妥結が成立した雇用条項についても、個別企業が労使の賃金協約の拘束から離れる余地が十分ではないと、批判的である。

過去2回にわたり賃金協約交渉の妥結で化学労組(IG BCE)に先を越されたIGメタルが、今回久し振りに従来どおり最初の妥結を成立させ、他の産業部門に影響する立場に立った。そしてテレコム等他の産業部門でも交渉が始まり、柔軟路線で知られる化学労組も4月に3.5%の賃上げ要求で今年の交渉を開始する。今年の金属産業の交渉妥結が今後どのように実際的な影響を及ぼすかが注目される。

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