帰国知識層の賃金が下降
1990年代、海外で学位や技術を取得して帰国した「海帰派」と呼ばれる帰国知識層は、外資系企業でも中国系企業においても歓迎され、賃金や福利厚生の面で優遇されてきたが、最近、飽和状態となっている。
1.概況
過去20年間に、58万人が海外に留学し、うち15万人が帰国した。1990年代末より帰国者は増加傾向にあり、毎年13%前後増加している。この背景には、政治的に安定し経済の持続的発展が見込まれること、政府が帰国者に対し起業、住宅や自動車の取得、戸籍の移動、事務所の開設などに関し優遇政策を敷いてきたことなどが影響しているものと思われる。
2.需給環境の変化
最近、帰国知識層があまりに増加し需給関係が変化し始め、昨今は求人票に「海外留学帰国者を優遇する」という内容は見られなくなった。一般企業は、海外の大学の学位を取得しているというだけで優遇することはまれになった。企業だけでなく北京大学や清華大学などの大学関係者さえ帰国知識層を以前ほど優遇しなくなったことを認めている。
労働社会保障部によると、上海市には、2002年約7000人の帰国知識層が職を得ずにいるとみられている。
帰国知識層の多様化も需給環境の変化に影響を与えている。現在帰国知識層は大きく3つに分かれる。
- 高い才能のある優秀な人材
才能もあり学問のレベルも高い人材で、国内の経済建設に必要な人材である。特に高度科学的技術を必要とする企業、海外との取引のある企業が必要とする人材である。こうした人材は、最先端の企業の管理能力や技術革新に関する知識を備えていなければならない。
- 起業を希望する人材
帰国知識層には、帰国後起業する者も多く、帰国者による起業は概算統計で約4000社に達している。特に地方政府は、雇用対策からこうした人材を優遇し、高度科学技術企業団地、ソフト関係企業団地などの特別区を設け、行政手続きを簡素化し優遇している。
- 職難の帰国知識層次のような帰国知識層は、必ずしも優遇されるとはかぎらない。
- 専門知識や実務能力が劣っており、求人先の要求を満たしていない。
- 国内の労働者の技術水準が高くなり、帰国知識層が技術的優位性を示せない。
- 帰国知識層には、中国国内の大学が不合格なため海外で留学してきた者もいる。こうした人材は、能力的にあまり高くない。
3.背景
帰国知識層を取り巻く環境の変化には、次のような要因がある。
- 中国の企業の成長
中国の企業が力をつけ、経営力や海外の技術・市場に関する情報の収集能力が向上するにつれ、帰国知識層の情報収集能力に依拠する部分が低下した。特にインターネットの発展は、中国の企業の海外の市場や技術に関する情報収集能力を格段に向上させた。
- 技能訓練校の増加
中国国内の先端技術教育の充実も影響している。例えば、IT技術者に対する技術教育を見てみると、北京市だけでも約数千校の教育機関がある。こうした機関のIT教育が充実し、受講生を帰国知識層に負けない水準に教育している。雇用側は、技術的な差がわずかな場合、人件費を低く抑えられる中国国内のIT技術者を雇用する傾向が強い。
4.外資系企業の与える影響
1990年代、外資系企業も中国での市場拡大を狙い、帰国知識層の高額の賃金を支払い雇用契約を結んでいたが、今後分野によっては、帰国知識層の採用において、従来より企業側に有利な雇用契約を締結することが可能になると予想される。
2004年3月 中国の記事一覧
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