リストラの際に企業が果たすべき社会的責任

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係

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  • 国別労働トピック:2004年2月

1. 定義について

企業がリストラを進める際に果たすべき社会的責任とは何かという定義について、一般的合意があるわけではない。共同決定法(MBL)と雇用保障法(LAS)には、交渉プロセスと先任権制度に関する規定がある。しかし、これらの法律は、リストラが実施された場合に地域社会に与える影響を考慮していない。

2. 統計

労働市場庁(AMS)は毎月、レイオフ警告数を発表している。一般にレイオフ警告された人数の半分が最終的に解雇されている。

3. 従業員代表との交渉

MBLとLASは、大規模なリストラが予定された場合、使用者が労働市場当局、地域社会、労組に対し速やかに情報提供をするように定めている。

MBLは、労組と団体交渉を行うための十分な時間的余裕があるように、使用者が労組に対しリストラ計画を伝えるように義務づけている。しかし労組は使用者が作成したリストラ計画そのものを阻止できない。

労組は、地域社会やAMSに働きかけ、使用者に対し、リストラ以外の選択肢を探るように促す。例えば、リストラの実施時期をできるだけ遅らせて従業員の転職を容易にしたり、再訓練、能力開発の機会を勝ち取ることがある。また労組は、MBLに基づき、使用者の費用負担で労働側のコンサルタントを雇用し、リストラ計画の妥当性を分析する。

4. 企業レベルでの試み

リストラを行う企業に対し、代替策を考慮するように使用者に義務づける法規制は存在しない。しかし企業レベルでは、いくつかの試みがなされている。

  1. ある工場でリストラが実施された場合、他の工場に配置転換することでリストラを避ける。
  2. 余剰人員が発生する期間に再訓練機会を提供する。これは生産低下が一時的である企業で行われ、再び仕事が増えると、再訓練を受けた従業員は通常の生産活動に従事する。
  3. リストラを実施する代わりに早期退職が頻繁に用いられている。高齢化の進展により労働力が不足するので、政府、労組、学界は早期退職は望ましくないとして警告を発している。

5. 団体交渉で取り決めた「保障基金」

ホワイトカラーの工業部門労働者と公務員は、給与の0.6%に当たる「保障基金」を団体交渉で使用者との間で取り決め、失業保険制度や、再び雇用可能になるように訓練機会などを与える職業安定所が提供する所得やサービスを補っている。こうした基金は、地方事務所と有能なカウンセラーを持っており、リストラが計画された段階、あるいは余剰人員が発生した段階で、迅速に転職支援、能力開発、自営業創業支援などを行う。ホワイトカラー労組が保障基金について使用者を交渉していたころ、ブルーカラー労組連合であるスウェーデン労働組合総同盟(LO)は、政府が提供する職業訓練、能力開発が効果的であると考えていたため、保障基金を団体交渉で要求していなかった。

しかし、労働市場で必要とされる技術が急速に変化するため、公的な職業訓練プログラムによる対応が困難になりつつある。そのため今ではLOも「保障基金」を求めて使用者と交渉している。ところがブルーカラー労働者の賃上げ余地は小さいので、政府の補助金なしに「保障基金」を開始することは困難である。また現下の経済状況では政府の補助金も期待できない。

6. 社会的責任を果たしたリストラの例

最善かつ最大規模の事例は、エリクソン社のリストラである。同社ではかつて10万7000人いた従業員は現在5万3000人にまで削減され、今後、同社が黒字化するまでに4万7000人にまで削減される予定である。このリストラを通じ、同社は余剰労働者に対し1年分の給与を支払い、職業訓練を受けたり、自営業開業をできるようにした。

エリクソン社のリストラでは、労組元幹部を政府が任命し、会社、労組、政府の間の仲介役とした。この仲介役は、エリクソン社が社会的責任をとるために具体的に何ができるかを模索し、リストラに関係する人々の間の話し合いを通して、地域社会への悪影響を和らげようと試みた。

この仲介役に選任されたのは元LO副委員長のハンス・カールソン氏で、現在、労働大臣を務めている。

7. リストラの予測

リストラの動向を予測しようとしているのはAMSの地域事務所と研究部門である。新たに設けられた、経済成長に関する委員会にも同様の役割が期待されている。

8. AMSの研究結果

AMSが最近行った研究によると、エリクソン社の事例は、最終的な結果から判断するとそれほど望ましいリストラの仕方ではなかったかもしれない。6カ月以上の所得保障を得た余剰労働者は、所得保障があるために直ちに転職活動を開始しない。研究によれば、リストラが実施される前から職探しを開始したほうが、転職に成功する傾向がある。AMS長官によれば、AMSがすべきことは、回避できないリストラがあることを早い時期から受け入れ、余剰労働者がカウンセリングを受けられるようにすることである。

9. エリクソン社のリストラに関する政府への報告書

エリクソン社のリストラについて、ハンス・カールソン氏が政府に提出した報告書は、次のように結論している。

  1. リストラを早期に予測できないだろうか

    政府や労働当局などが正確にリストラを予測できれば、失業予防的措置をとることができる。政府機関であるスウェーデン産業技術開発庁(NUTEK)は最近の研究で、最も大きな課題は、産業の浮沈を前もって正確に予測することにあると結論している。例えば、ITや電気通信産業などの急速な業績悪化をだれが予測できただろうか。

    エリクソン社における経験から、リストラを予見できた場合に、政府が計画的に実行できる対策として、教育、訓練、そしてインフラへの投資を挙げることができる。エリクソン社のリストラの影響を受けた地域のほとんどすべてで、最も重要な政治課題は、道路、鉄道、空港の整備や建設に政府が乗り出すことであった。地方の政治家や企業の意見では、政府がインフラ整備を行うことが当該地域の産業振興や代替的な雇用創出に寄与する。

  2. 危機に対する準備

    ハンス・カールソン氏によると、大規模なレイオフ警告が出された地域では、比較的危機意識が高く、労働当局、諸機関、個人が素早い対応をした。ところが危機意識はやがて低下する。カールソン氏は、同氏が果たしたような、労働当局やリストラの利害関係者の間で意思疎通を円滑化する仲介者の役割を強化すべきだと主張する。政府は、仲介者から、いち早くリストラの予定を知ることができ、仲介者が介在することにより、地方公共団体と中央政府との間の情報交換を密にすることができる。現在、知事や地方のAMS委員会が仲介者の役割を一部果たしている。しかし、より多くの時間と労力を費やすことのできる仲介者を配置して、効率をいっそう高めることが望まれる。

    仲介者は、リストラが実施される地域に早期から関与していることが必要で、長期間その場にとどまる準備がなければいけない。さらに、政府の規制や資金を用いる際に迅速な対応を可能にするため、個別事例ごとに政府が決定をするのではなく、あらかじめルール化しておく必要がある。その際に、どのような費用を中央政府、地域社会、リストラ実施企業が負担すべきかを考慮しなければならない。

  3. リストラの際の一般的雇用保障

    リストラの対象となる従業員に与えられた雇用保障の程度は、労働協約や、エリクソン社のような個別企業が持っている従業員支援プログラムの内容による。このため、すべての労働者を対象に、レイオフ後に転職するまでの間、ほぼ同様な雇用保障を与えるようにしてはどうかという考えがある。しかし、例えばレイオフ警告期間を長くする一方で、雇用保障法(LAS)による保護を弱めたら労働者の利益にならないので、LASを維持しながら、雇用保障を強化すべきである。カールソン氏は、リストラ過程における雇用保障については法制化せず、労使が団体交渉の場で取り決めるべきであると考えている。実際に、労使もそのような態度をとっている。

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