ハンガリーの雇用・失業・賃金に見られる最近の傾向

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1.ハンガリーの雇用・失業・賃金に見られる最近の傾向

1992年以降、「全国ハンガリー労働組合連合」は中央統計局と協力して、ハンガリー経済における労働力率、雇用、失業、地域格差、所得配分といった問題について系統的な労働市場調査を実施してきた。

ハンガリーの雇用概要に関する本分析は、2001年の状況を調査した最新の包括的報告に基づいている。この労働市場報告は2002年に発表された。

1.1.低い労働力率と不十分な女性・高齢者の労働市場への統合

ハンガリーの労働力人口は約400万人で、この数字によってハンガリーは、EU(15カ国)と比較しても、いわゆる加盟候補国(CC)と比較しても、最低の地位を占めている(例えば2000年、ハンガリーはイタリアと並んで最下位だった)。ハンガリーは、特に女性・高齢者の労働市場への統合において不利な立場にある。欧州連合の主要な中期雇用目標が女性・高齢者の労働市場参加であることに触れておく必要がある。

1.2.雇用

ハンガリーの雇用は、CC諸国と比較して低雇用水準カテゴリーに属している。2000年には、加盟候補11カ国中、キプロス、チェコ共和国、ルーマニア、スロベニア、エストニア、リトアニアの6カ国が、ハンガリーよりも雇用水準が高かった。就業人口の男女構成を比べてみると、2001年には男性の割合が62.1%で、EU(15カ国)平均(72.5%)を10%下回っているということができる。女性の場合、雇用率は48.5%で、EU(15カ国)の54%よりも低い。

部門別に見た雇用分布を評価すれば、雇用に占める農業の割合が6.5%から6.2%へと低下している。雇用に占める工業の割合は33.8%から34.2%に上昇した。最大の使用者であるサービス部門の雇用の割合は、2000-2001年に59.6%から59.7%へとごくわずかに上昇した。

「公共」部門と「民間競争」部門とを比較すれば、労働者の3分の1が公共部門で、3分の2が民間競争部門で雇用されている。2001年には国内における起業家数の減少が原因で、1991年以降初めて雇用水準が低下している。いわゆる民間競争部門では、労働者の70%が従業員5人超の企業に雇用され、100万人以上が従業員4人以下の企業で働いている。

2001年国勢調査の結果を見ると、労働市場は年間1万~1万8000人の移民を吸収しており、毎年1%の外国人が就労許可を得て国内で働いている。国内で働く外国人の大多数は、主に建設業、小売業、接客部門で、また季節雇用の形で農業部門で働いている。ハンガリーは1993年から、海外での就労を希望するハンガリー人の比率を系統的にモニターしている。ハンガリー人の海外労働志向はかなり控えめで、希望者の大部分は大学の学位を取得している。

1.3.失業

失業水準は1994年から一貫して低下しており、失業率は2000年の6.4%から2001年には5.7%に下がった。ハンガリーの失業率はEU(15カ国)と比較して好ましい水準にある。スペイン、ギリシャ、イタリアの失業率は10%を超えている。加盟候補国では失業率が10%を超えることもまれではなく、2000年にハンガリーよりも失業率が低かったのはキプロスだけである。登録失業者数(積極的求職者よりも多い)は減少し続けている。その減少数は2001年には2万6400人で、2000年よりも少ない(登録失業者数は、2000年39万500人、2001年36万4100人)。登録失業者の半分弱(46.1%)が女性で、その4分の1強が初めて仕事を探していた。

登録失業者数は、次の2つの傾向によって決定される。第1に、2000年以降失業期間が短くなっているため(失業手当支給期間が300日から270日に短縮)、71万人以上が登録失業者カテゴリーに属しておらず、失業援助の代わりに「社会手当」を受給している。第2に、大規模なレイオフが原因で、登録失業者数が68万人に増えた。失業手当の水準は平均賃金と比較して低下している。2001年、失業手当の額は平均賃金の4分の1に満たなかった。

2001年には、雇用・失業両方の地域格差に目立った変化はなかった。例えば、最も発展した地域(西トランスダニュービアと中央ハンガリー地域)の失業率は5%未満で、2つの後進地域(北ハンガリーと北部大平原)の失業率は11~12%だった。2002年、ハンガリーから他の低賃金諸国(例えばウクライナ、ロシア、ルーマニアなど)に外国資本が「逃避」したため、いくつかの地域(中央トランスダニュービア、南トランスダニュービア、北ハンガリー、南部大平原)だけでなく、全国的にも失業指数が悪化した。詳しくは表1を参照されたい。

表1:ハンガリーのEU地域(NACE II)の失業率:1993-2002(%)
地域 1993年 1995年 2000年 2001年 2002年
中央ハンガリー 9.8 7.3 5.3 4.4 4.1
中央トランスダニュービア 12.4 10.8 4.9 4.4 5.2
西トランスダニュービア 8.9 6.8 4.3 4.3 4.1
南トランスダニュービア 12.7 11.9 7.8 7.9 8.0
北ハンガリー 15.9 15.8 10.2 8.7 9.0
北部大平原 14.6 13.6 9.3 8.0 8.0
南部大平原 12.2 9.2 5.2 5.6 6.4
合計 11.9 10.2 6.4 5.9 6.0
最高 15.9 15.8 10.2 8.7 9.0
最低 8.9 6.8 4.3 4.3 4.1

出所:Laky Terez (2002) Op.cit.: p.165., Terez Laky (2003) Magyarorszagi munkaeropiac, 2003, (Hungarian Labour Market, 2003), Budapest: Employment Office - National Employment Fund

雇用における地域格差の縮小を目指す経済政策・雇用政策は、ともに効果を上げていない。ハンガリーでは労働力の国内流動性(移動)がかなり低い。新規雇用を創出する外国投資(FDI)とハンガリー人による投資は、優れたインフラストラクチャーがある地域に引きつけられ、国内の低開発地域には流れていない。表2は、ハンガリーの失業率とCCの失業率を比較している。

表2:2000年の加盟候補国(CC)の失業率(%)
失業率(ILOの定義による)
失業率 25歳未満* 長期失業**
ブルガリア 16.2 16.6 15.8 10.2 9.5
チェコ共和国 8.8 7.3 10.5 7.5 4.3
エストニア 13.2 14.7 11.6 8.5 6.3
ハンガリー 6.6 7.2 5.8 4.6 3.1
ラトビア 14.1 15.0 13.2 8.2 7.9
リトアニア 15.6 17.9 13.1 10.1 8.2
ポーランド 16.3 14.6 18.3 13.4 7.3
ルーマニア 7.0 7.5 6.4 7.4 3.4
スロバキア 19.1 19.4 18.6 16.5 10.3
スロベニア 6.9 6.8 7.1 6.1 4.3
キプロス 4.9 3.2 7.4 4.0 1.3
平均 11.7 10.8 12.3 6.7 7.4

出所:Laky Terez(2002) Op.cit.:pp. 99.
* 15~24歳人口の失業率
** 15~64歳人口の失業率

2002年第1四半期から2003年第1四半期までのハンガリー労働市場の主要な指数を要約すれば、2003年第1四半期には414万5000人が労働市場に統合されていたということができる。就業者数は389万2000人、失業者数は25万3000人で失業率6.1%だった。2002年同期と比較して、労働力人口が5万8000人増え、非労働力人口は7万2000人減った。国際的に比較すれば、ハンガリーの労働力率は低く、15~74歳の年齢集団の人口で0.9%上昇した。詳しくは次の表を参照されたい。

表3:ハンガリー労働市場の主な指数(2)
指数 2002年前半 2003年前半
15~74歳人口 生産年齢人口*
就業者数(千人) 3,853,800 3,891,700 3,820,800
失業者数(千人) 232,800 253,000 251,600
労働力人口(千人) 4,086,000 4,144,700 4,072,400
非労働力人口(千人) 3,678,100 3,605,800 2,257,300
労働力率 52.6% 53.5% 64.3%
失業率 5.7% 6.1% 6.2%
就業率 49.6% 50.2% 60.4%

出所:Labor Report:January - June, 2003., Budapest:Central Statistical Office, p. 7.

1.4.賃金

2001年には、公共部門の中央賃金が大幅に引き上げられたため、過去数年よりも力強く賃金が上昇した。2000-2001年の年間賃上げ率は公共部門で22.4%、民間競争部門で16.3%だった。2001年の1カ月当たり総賃金は10万3600フォリント(1フォリント=1.9円)、純賃金は6万4900フォリントだった。総賃金、純賃金、物価指数、実質賃金については表4を参照されたい。

表4:総賃金、純賃金および実質賃金:1989-2001年
総賃金 純賃金 物価指数 実質賃金
(フォリント/人/月) (フォリント/人/月) (前年=100.1%) (%)
1989年 10,571 8,165 117.0 99.9
1990年 13,446 10,108 128.9 94.3
1995年 38,900 25,891 128.2 87.8
1998年 67,764 45,162 114.3 103.6
2000年 87,645 55,785 109.8 101.5
2001年 103,558 64,915 109.2 106.4
2002年 122,453 77,607 105.3 113.6

出所:Laky Terez (2002) Op.cit.: p.179., Laky Terez (2003) Op.cit.: p. 144.

最低賃金は2万5500フォリント(2000年)から2001年には4万フォリントに増え、政労使の最新協定に従って、2004年には5万3000フォリントに上がる。最低賃金引き上げの影響で、従業員5~9人の零細企業カテゴリーでは賃金がより急速に伸びた。意外なことに、従業員が1000人を超える大企業カテゴリーでは賃上げが控えめだった。これに関して、この企業カテゴリーの賃金水準が大幅に(73%)高いことに注目すべきである。最低賃金引き上げの影響として、そのほかに男女賃金格差の縮小が挙げられる。これは最低賃金の引き上げが、男性よりも女性が多く雇用されている低賃金部門において、女性の賃金にプラスの影響を及ぼしているためである。

教育水準別・性別に賃金を比較してみると、次のパターンが明らかになった。大卒従業員の賃金は、初等教育しか受けていない従業員の賃金の3.5倍だった。大卒者のなかでは、男性の賃金が女性の賃金の3.5倍だった。これは男性では女性よりも管理職の割合が高いからである。

表5は、企業規模別に見た賃金水準を示している。

表5:企業規模別に見た賃金水準
企業規模カテゴリー 総平均賃金(フォリント/人/月) 前年=100%
5~9人 65,708 129.7
10~19人 70,684 118.5
20~49人 84,785 117.2
50~99人 100,744 116.8
100~199人 110,873 115.6
200~249人 113,277 118.7
250~299人 113,169 117.0
300~499人 131,537 117.4
500~999人 121,641 115.3
1,000人以上 127,788 112.4

出所:Laky Terez(2002) Op. cit.:p.183.

2.非典型的な形態の雇用――パートタイム、自営および季節雇用

使用者のニーズの変化(労働需要の変化)に伴い、雇用形態(例えば労働・雇用期間、テレワークの普及による勤務地)が絶えず変化している。欧州連合では、パートタイム、期限付き、自営の3種類の雇用を系統的にモニターした。これらの形態の雇用の割合は国ごとに変化しているが、年々上昇している。1990年代の終わりに、これらの形態の雇用は全体の43.9%を占めていた。これらの形態の雇用の割合は加盟候補国でははるかに低いが、これらの国々において重要な違いを確認することができた。例えば、ポーランドとルーマニアでは自営業の割合が高いが、これは1つには農業部門で同族会社の割合が高いためであり、1つには修繕・修理サービスに従事する中小企業が多いためだろう。しかし、パートタイム従業員の割合はルーマニア、ラトビア、ポーランドを除いて低い。スロバキアとハンガリーは、パートタイム労働者の割合が特に低い。「期限付き」従業員の割合は、すべての加盟候補国で低い。残念ながらハンガリーでは、非典型的な形態の雇用の普及を促進して非労働力人口を労働市場に統合するために、特別な政策が立案されていなかった。加盟候補国における非典型的な形態の雇用の普及状況については、表6を参照されたい。

表6:加盟候補国における非典型的な形態の雇用:2001年
パートタイム従業員 自営業者 期限付き契約従業員
就業人口に占める割合(%)
ブルガリア データなし 14.7 データなし
チェコ共和国 5.4 14.5 6.9
エストニア 6.7 8.1 2.1
ハンガリー 3.6 14.6 5.8
ラトビア 10.8 10.6 5.7
リトアニア 8.6 15.9 3.1
ポーランド 10.6 22.5 4.2
ルーマニア 16.4 22.5 4.2
スロバキア 1.9 7.8 3.7
スロベニア 6.1 11.2 10.8
旧社会主義諸国 9.4 20.6 4.4
キプロス 8.3 21.4 7.9

出所:Employment in Europe, 2001、p. 110-136.

残念ながら、ハンガリーのパートタイム労働者、臨時労働者または派遣労働者の組合加入率に関して系統的に収集されたデータはない。非典型部門の組合組織率を高めることは、労働組合運動にとって最も重要な課題の1つである。

表7:労働組合の役割に関する従業員の意見(%)
部門 肯定的 否定的 どちらとも言えない 意見なし 合計
労働組合活動に関して
農業・林業・漁業 5.1 13.3 24.0 57.6 100.0
鉱業 13.0 27.0 40.2 19.9 100.0
製造業 11.5 18.9 31.6 38.0 100.0
電気・ガス・水道供給 19.2 19.3 37.0 24.5 100.0
建設業 7.0 15.5 26.3 51.2 100.0
卸売・小売・修理 9.1 17.5 30.2 43.2 100.0
ホテル・レストラン 10.0 17.6 21.1 51.3 100.0
輸送・保管・通信 20.4 17.3 36.8 25.6 100.0
金融サービス 10.8 14.9 34.5 39.8 100.0
不動産・企業向けサービス 11.6 19.1 32.3 37.0 100.0
公務・国防 17.0 17.0 33.5 32.6 100.0
教育 20.2 23.2 36.0 20.5 100.0
医療・ソーシャルワーク 16.8 26.7 33.1 23.4 100.0
その他のサービス 7.7 21.0 25.7 45.6 100.0
合計 12.4 18.1 31.1 38.3 100.0

出所:Muszakrend, munkarend, szervezettseg (Shifts, Working Order and Interest Representation), Budapest: Central Statistical Office, p.39

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