イギリスのEU労働時間規制「適用除外」が廃止の危機

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欧州委員会当局者は2003年11月、イギリスがEU労働時間指令の適用除外(オプトアウト)を取り消される可能性があると発表した。

この労働時間指令は、10年後の見直しを条件として1993年に採択された。イギリスはEU加盟国で唯一、この法律の一般的除外を申請し、週48労働時間の上限の免除を受けるかどうかについて個々の労働者が選択できるようにしている。これはつまり、従業員は個別に同意すれば週平均48時間を超えて働くことができるということで、全体としてイギリスの労働者の5人に1人が、この趣旨の権利放棄に署名している。

しかし、欧州委員会は労働時間指令の見直しに当たり、ケンブリッジ大学による最近の調査に関連して懸念を表明している。この調査は、イギリスの使用者には適用除外を濫用する傾向が見られると結論づけているが、アンナ・ディアマントプル雇用政策担当欧州委員はこの見解を支持している。

適用除外論争をめぐってイギリスの労使は分裂している。英国産業連盟のジョン・クリッドランド氏の主張によれば、使用者は適用除外に署名するよう労働者に日常的に圧力をかけているわけではないし、従業員は自分たちが働ける時間を組合や政治家に命令されたくないと思っている。同氏は、適用除外が廃止されればEUの競争力に関する欧州委員会のコミットメントが大いに疑問視されるであろうことを示唆した。また、人々は進んで(割増手当のために、あるいはキャリア上の理由で)長時間働いているのであって、長時間労働ができなくなれば多くの被用者が個人的権利の侵害だと考えるだろう、と主張し、同時に、48時間を超えて働いている人々の多くが管理者であり、いずれにせよ労働時間規則の対象外であることも強調している。

これとは対照的に、英国労働組合会議(TUC)のブレンダン・バーバー書記長は、適用除外の全面廃止を要求し、週平均48時間労働はだれにとっても長すぎると述べている。TUCの調査では、48時間を超えて働く人々の3人に2人が労働時間を減らしたがっているとの結果が出ており、また同時に、日ごろから48時間を超えて働いている労働者のほぼ3人に2人が適用除外への署名を求められていなかったこと、48時間の上限があることを知っている人が5人に1人しかいないことなども判明している。

一方政府は、「イギリスに長時間労働の文化を押しつけている」「適用除外は『仕事と生活の両立』原則を支持する立場にそぐわない」といった非難をかわそうとしている。政府はイギリスの適用除外を守ると述べており、欧州委員会との対決を避けるために現行労働時間規則を強化する準備をしている。これには例えば、適用除外への署名の拒否を理由として求職者を不採用とすることを使用者に明確に禁止する、また48時間を超えて働き続けたいかどうか労働者に定期的に尋ねることを使用者に義務づける、などが含まれると考えられる。使用者団体はこれらの提案を支持しており、英国エンジニアリング事業者連盟(EEF)のデイヴィッド・イェンドル氏は「現行の規制を強化する代わりに、個別的な適用除外を維持できるのであれば、EEFメンバーは反対しないだろう」と述べた。

政府はまた、現在48時間の上限を超えて働いているイギリスの労働者400万人のうち、約160万人が超過勤務手当を支給されているというジレンマにも直面している。英国政府が適用除外を取り消されれば、この160万人の労働者の賃金が大幅に減ることになるため、政府はそのような賃金カットを押しつけた責任を負わされるのを嫌がっている。

適用除外の廃止に関する提案をはじめ、指令の変更にはEU加盟国の適格過半数による支持が必要だろう。ある英国政府当局者は、全面的適用除外を認めているのはイギリスだけだが、他のいくつかの国でも、特定職種について除外を行っており、イギリスが孤立しているわけではない、と主張している。

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