韓国の公務員労働基本権問題でILOが再勧告
/OECD-TUACは非難決議を採択

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2004年12月

11月に開かれたILO(国際労働機関)理事会の結社の自由委員会とOECD-TUAC(経済協力開発機構・労働組合諮問委員会)総会では、ともに韓国の公務員労働組合法改正案(「公務員労働組合の設立と運営等」に関する法案)などを中心に議論した。

韓国の公務員の団結権や団体交渉権などの労働基本権問題についてILOは、韓国労総(韓国労働組合総連盟)などの労組の申立のあった1996年以降審議を重ね、政府と労組との協議を前提にした改善を求めてきた。11月4日から19日に開催された第291回理事会の結社の自由委員会でもILOは、2003年6月の勧告に引き続き同案件について審査。「進捗はみられるものの、政府の改革案では完全な労働基本権保障といえず、結社の自由原則に反する」として、早急に是正措置を講じるよう再勧告を出している。

一方、韓国加盟当初から同国の労働基本権問題をモニターしているOECD-TUAC(経済協力開発機構・労働組合諮問委員会)も、22日にパリで開催した総会で、労組と協議せずに公務員制度改革を強行に進めようとする韓国政府を批判する決議を採択。労組支援の姿勢を固めている。

韓国は、結社の自由及び団結権保護条約(ILO87号条約)・団結権及び団体交渉権条約(ILO97号条約)については未批准。韓国政府は10月、公務員労働組合法改正案を国会提出したものの、労組との協議による合意はみられていない。改正案によると、6級以下の一般公務員について団結権を認めるものの、団交権については、その効果について法律・予算による留保を付しているほか、団体行動権は認めないまま。「団交権の効果についての留保」とは、団体交渉により締結された協約の中身が、現行の予算や法律に抵触する場合、必要な予算措置もしくは法改正がなされるまで、当該内容の実施が停止状態となるとの内容だ。また、日本と同様、消防・警察職員は除外対象となり、団結権も認められない。

この法案に対し、韓国の全国公務員労組(全公労)は「3権保障を要求しているのに、改正案は1.5権を保障するものに過ぎない」として強く反発。韓国政府は、昨年同法案の国会提出を予定していたが、意見の一致が得られないまま断念した。だが、今年10月、政府が国会提出の強行に踏み切ったため、全公労は、基本権の完全付与を求めて11月15日からゼネストを計画。政府が2万人の警察官を投入して妨害したため、5万人規模の集会に変更したものの、当日は100人に及ぶ逮捕者が続出した。

ILOの結社の自由委員会は、「管理・監督権限を有する公務員が他の一般公務員の組合に所属する権利を制限すること自体は、結社の自由原則に反するものとはいえないが、その場合は、1)他の労組を結成する権限を認める、2)管理・監督権限を有する公務員の範囲を特定する――等が条件となる」として、5級以上の広範な公務員を公務員法から完全に除外する改正法案を、結社の自由原則に反するものと位置づけている。また、消防・警察職員の団結権については、「警察職員及び軍隊への団結権の除外は容認されるが、消防職員の団結権のみならず団体行動権も認めるべき」としたうえで、ストライキ権の制限もしくは禁止が認められるのは、1)国家権力の名のもとに権限を行使する特別な業務にあたる公務員、2)厳格な定義で、公務の性質上、その中断が国民全体の生活、安全、健康を脅かす危険がある重要な業務にあたる公務員――であり、消防職員は、それに該当しないとの見解を示している。さらに、改正労働組合及び労使関係法71条2項が挙げる広範な「重要公務リスト」についても言及し、スト権制限を受ける公務員の範囲を最小限に留めるよう求めている。ILOは、改正法案における公務員への団体交渉権、団体行動権を含む労働基本権の完全付与に向けて、政労協議を踏まえたうえでの早急な是正措置を講じ、進捗に関する情報提供を行うよう韓国政府に勧告している。

一方OECD-TUACは、22日にパリで開催した総会で、「1996年のOECD加盟の際のコミットメントを果たさず、OECDのモニタリングに基づいた勧告も尊重していない」として、韓国政府の労働基本権制限について非難決議を採択。引き続きモニタリングを実施する方向だ。

連合の中嶋滋国際総合局長によると、韓国は、労働基本権の状況に関するOECDのモニタリングを条件に加盟が認められたため、これまでも定期的にモニタリング調査が行われていた。ここ数年、「キム・デジュン政権移行後、著しい進展がある」として調査をストップする声も日本政府ほかの加盟国からあがっていたが、今回の総会で韓国政府の動きを問題視するTUACと一部ヨーロッパ加盟国が、モニター継続の必要性を強調。今回の決議に基づき、来年1月10日、労働基本権の実施状況に関するモニタリングを目的とする調査団が派遣される見込みだという。

OECD加盟30カ国のなかで、公務員の基本権を制限しているのは、州法で規定する米国を除けば日本と韓国の2カ国のみ。「韓国でたとえ1.5であっても基本権が実現すれば、日本だけが公務員法制で極めて後進的であることが際立ってくる」(中嶋総合局長)。加えて、ILO勧告を踏まえた韓国政府の対応やTUACのモニターの動き次第では、韓国の公務員制度改革の前進が考えられる。TUACの副会長を務める連合の笹森清会長は11月25日の会見で「韓国の公務員労働基本権問題に対し、OECDが支援体制をひいた。この問題で日本だけが取り残されることになりかねず、日本は政労協議の中で最終的な答えを早急に協議の結果として出していかねばならない。政府案を阻止するだけでなく、中身の話ができるよう切り替える時期にきた」などとして、同問題の取り組みを強めていく姿勢を明らかにしている。連合は、12月5日から宮崎で開催されるICFTU世界大会にあわせ、日本の公務員制度改革問題におけるILOへの共同提訴人ICFTU(国際自由労連)と国際公務労連(PSI)との連携で、対政府交渉を予定しているほか、ソマビアILO事務局長に対し、同案件に関するILO側での改革のスピードアップを要請する方向だ。

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