失業者と非公式労働者の実態

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  • 国別労働トピック:2004年11月

メキシコ国家統計・地理・情報処理局(INEGI)によれば、8月の失業率は4.35%。季節調整値(季節変動による影響を修正した数値)は3.98%で、いずれも上昇傾向にある。しかしこれらの数値は、他の国々に比べ必ずしも高くない。例えばOECD加盟国のうちでは、メキシコの失業率は最低レベルに属する。この失業率は実態を反映していないという議論が、国内でなされている。

失業保険制度がないメキシコでは、失業したまま働かずにいることは不可能に近い。失業者の多くはインフォーマル・セクターに潜り、現在、賃金労働者の4割前後が、いかなる社会保障制度の保護も受けていないインフォーマルな労働者となっているという。

失業率が低い理由

メキシコの失業率が低い背景には、様々な理由が指摘されている。まず、労働市場への国及び労働組合の介入により、近年の経済の低成長を解雇等による失業者の増加ではなく、実質賃金の低下という形で反映させるような調整が行われている。労組にとって失業は賃金水準にも増す懸念要因である。組合員からの信頼の失墜を食い止めるため、実質賃金の低下を認めることで大量失業を表面化させない戦略を1982年の金融危機以降とり続けてきた。しかし実質賃金の低下は既に数10%に達し、調整手段としてももう限界に来ているとの指摘がある。

次に、INEGIによる失業統計の手法そのものの問題がある。メキシコでは雇用アンケートで1週間に少なくとも1時間以上働いていると答えた者は、報酬の有無に関わらず被雇用者と数えられる。多くのOECD諸国における手法はこれと異なり、例えば米国では最低で週15時間、しかも賃金を受け取っていることが条件とされる。

無報酬で家事労働を行っている者や、生計を維持するのに必要な最低水準すら下回る賃金で雇用されている者を就業者と数え、失業統計から除外することが適切なのか。OECDのメンバー国であり、また近年は複数の自由貿易協定の枠組みに入っているメキシコでは、少なくとも周辺諸国と同じ失業統計手法に変更すべきであるとの議論が出ている。

インフォーマル・セクターの労働者(注1

INEGIの統計によれば、メキシコの労働力人口約4340万人のうち就業人口が4230万人余、そのうち2650万人が賃金労働者である。賃金労働者のうち、メキシコ社会保障庁(IMSS) 又は州労働者のための社会保障庁(ISSTE)による給付を受けられる者は1560万人。全体の約6割にとどまっている。残りの4割は保険給付や労働法制の適用対象とならない、いわばインフォーマルな労働者である。

このインフォーマルな労働者の割合は、企業の規模と関係している。従業員100人以上の大企業では、全労働者(900万人)の90%以上が公的給付でカバーされている。しかし非農業人口の約半数が働く零細企業(工業では従業員15人以下、商業・サービスでは5人以下)では、この割合が激減する。零細企業の労働者のうち、労働法の保護や保険給付の対象となる者は、わずか7%である。

近年はインフォーマル・セクターにおける新規雇用創出量が、フォーマル・セクターを上回っているという。

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