労働時間指令の改正

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  • 国別労働トピック:2004年11月

欧州委員会が労働時間指令の改正案を発表

欧州委員会は、9月22日、1993年に採択された労働時間指令の改正案を発表した。

これに先立つ1月と5月にEUレベルの労使協議が行われ、重要な改正点について議論されたが合意に達せず、EU労使は欧州委員会に改正案を提示するよう依頼していた。

欧州委員会は、この改正案を、労働時間の上限規制の維持により労働者の健康と安全を保護するとともに、現在の欧州経済に適応したより広範な柔軟性と競争力を導入し、仕事と家庭生活の両立を可能にするものであるとしている。

改正案の主な内容は、1)週48時間労働制の適用除外要件の厳格化2)待機時間に関する新定義の導入3)代償休息期間の付与期限の設定――の3点。

労働時間指令については、1993年の制定時にも、それまで一切労働時間法制を有していなかったイギリスが猛烈に反対し、イギリス政府が欧州司法裁判所に提訴して敗訴に終わった経緯がある。93年指令には、イギリスの反発を和らげるために週48時間労働制の適用除外に関する特例が盛り込まれた。今回の指令改正においても週48時間労働制を維持するか否かが一つの重要な争点となった。

EU委員会の今次改正案は、平均週労働時間の上限を、時間外労働を含め48時間とする規定を維持した。また、平均週労働時間の算定基礎期間を最長4カ月とする現行規定を据え置いたが、加盟国は国内法によりこの最長期間を1年まで延長できることとした。ただし、最長期間の延長にはソーシャル・パートナーとの事前協議を必要とした。

労働時間の上限規制については、加盟国が国家レベルで週48時間労働制の適用を除外する方法を採用できるが、使用者と労働者間の合意において尊重されるべき条件をより明確に国内法に規定する必要があるとした。具体的には、現行指令の特例で労働者個人の同意があれば可能とされている適用除外を、中央、地方、産業別等労使の団体協約等による合意が必要であるとした。ただし、労働組合や従業員代表組織がなく団体交渉が行われていない事業所については、労働者個人の同意のみで可能とされた。また、労働者個人の同意については、1)書面によること2)労働契約締結時や試用期間中の同意は無効3)適用除外の有効期間は1年以内(更新可能)4)団体協約で規定されていない限り、いかなる場合も週65時間を超えて労働させてはならないこと5)使用者は労働者の勤務時間を記録し、監督当局の要請により開示する義務があること――等のより厳格な条件が課せられた。

EU委員会はまた、労働時間と休憩時間の間に位置する「待機時間(On-call time)」という新たな概念を導入した。待機時間は「労働者が職場において、使用者の要請があった場合に職務を遂行できる状態で待機している義務を負っている時間」と定義され、待機時間のうち実際に仕事をしていない「不活性待機時間」は、労働時間に含めなくとも良いとされた。ただし、加盟国は国内法や団体協約において規定した場合には、不活性時間を労働時間に算入することができる。

代償休息期間について、現行指令は、24時間ごとに11時間または7日ごとに24時間と1日分の11時間を合計した35時間の休息期間を与えなければならないとしているが、特定の職種における特定の条件の下で、この規定の適用除外を認めている。ただし、国内法又は労使協定で同等の期間の代償休息を与えなければならないとしている。今回の改正案は、新たにこの代償休息期間を72時間以内に与えなければならないと規定した。

労働時間指令の改正案は、10月4日の雇用社会問題相理事会で議論され、議長国デンマークは、2004年末までに政治的合意に達するよう希望する、との声明を出した。今後欧州議会及び閣僚理事会において、最終合意に向けた議論が行われていくこととなる。

ソーシャルパートナーの反応

欧州産業連盟(UNICE)は、労働時間の柔軟性はリスボン戦略の実現に不可欠なものであり、欧州委員会の改正案は、米国、日本と比較した生産性の観点で、欧州を非常に不利な立場に追いやるものであるとした。UNICEは、週48時間制の適用除外を団体協約でなく、労働者個人の同意によって可能としている現行規定を維持することや週48時間制適用除外の算定期間を、4カ月から12カ月に延長可能とするのではなく、一律12カ月とすべきであると主張している。

欧州労連(ETUC)は、改正案を労働者の健康と安全を危険にさらす問題外の提案であるとして断固拒否する姿勢を示した。ETUCは、週労働時間の適用除外規定の維持や算定基礎期間の延長、待機時間を労働時間に含めないこと等は、勤労者生活の質の向上をうたった欧州連合条約の精神に反するものであるとして強く反対している。

労働時間指令に対して強い反対の立場を貫いてきたイギリスでは、イギリス産業連盟(CBI)が、「あらゆる手段を尽くして改正案に反対する」と表明した。CBIは、週48時間労働の適用除外における団体協約の必要性と有効期間(1年以内)、及びいかなる場合においても週65時間を超えて労働者を働かすことができない点等について強行に批判している。他方、労働組合側も、イギリス労働組合評議会(TUC)は、週48時間労働制の適用除外が残されたことについて落胆を表明し、適用除外条項の廃止を求めて断固闘う姿勢を示している。

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