医療保険制度(メディケア)改革法案が成立

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今年2003年6月27日に両院を通過し(海外労働時報2003年9月号参照)、その後両院の法案の相違を一本化するために調整が続いていた高齢者医療保険制度(メディケア)の改革法案が、11月23日に215対213の僅差で下院を通過し、25日に上院において賛成54・反対44で可決した。両院可決後、12月8日にブッシュ大統領が速やかに署名を行い、改革法案が正式に成立することとなった。1965年のメディケア制度発足以来、38年ぶりの大改革となる。

改革のねらい

高齢者医療保険制度(メディケア)は、10年以上医療保険税を支払っている65歳以上の高齢者と、腎臓病など重度の障害がある人を対象とした公的医療保険制度である。加入者は、全米で4000万人を超える。今回の改革に至った背景には、高齢者医療の増加に伴う制度財政負担の増加と、処方箋薬代の高騰に伴う個人や企業の医療保険負担の増加がある。主な改革内容としては、1.これまで原則として保険適用外であった処方箋薬代を新たに保険適用の範囲として拡大し、2.民間医療保険会社の本格参入を促すことにより、管理医療(マネージド・ケア)を導入して医療の効率化を行い、3.プラン選択の幅を拡大させることによって受給者のコスト意識の向上を図り、総じて医療保険の財政支出を抑制することをねらいとしている。

【医療保険制度(メディケア)の主な改革内容】
  現状 2004
-2005年
2006年以降
処方箋薬代
の負担
原則自己負担 過渡的処置として、処方箋薬の割引カードプログラムにより、国が最大25%負担
  1. 処方箋薬の総額が、250ドル(年額)までは全額加入者負担
  2. $251~$2250以内は、国が(処方箋薬-$250)の75%を負担
  3. $2251~$3600以内は、全額加入者負担
  4. $3601を超える場合、国が95%を負担
民間医療保険
の参入
Medicare+Choice(M+C)プランの中で、民間の医療管理(マネージメント・ケア)制度の導入が認められている メディケア制度によって認定を受けた民間保険会社は、給付代行事業へ参入が可能
運営は、民間の単独プラン、もしくは複合メディケアプラン(Medicare Advantage)により行われる

その他の政策

  • 8万ドル以上の収入がある高齢者、及び合計16万ドル以上の収入がある高齢者世帯には、一部適応除外の制度を設ける
  • 低所得高齢者には、別途助成制度を設ける
  • メディケア制度加入者が、処方箋薬医療保険プラン(Medicare Part D)に加入するか否かは任意とする
  • 退職者へ医療保険負担サービスを提供している企業に対し、退職者プランの加入者が処方箋薬医療保険プラン(Medicare Part D)に加入しない場合は、一定条件のもと、加入者に対し政府の補助金が支給される
    また、企業の支出については、一定の条件のもと税額控除の対象とする
  • 米厚生省が許可したものに限り、安価なカナダからの輸入薬が処方箋薬として、認められる。

上図3.の処方箋薬コストを抑制するための全額加入者負担の範囲額は、6月27日の時点で、高齢者の負担軽減を重視する上院案が「$4500~$5100」、制度財政負担の軽減を重視する下院案が「$2000~$5100」と両院で隔たりがあったが、結局$2251~$3600と下院案に近い範囲額で決定した。

医療制度改革の展望と今後の課題

今回の改革の焦点のひとつであるメディケアへの民間保険医療の参入については、過去の試みが必ずしも成功していなかったことを指摘できる。特約医療組織(PPO)、受診時選択プラン(POS)を自由に選ぶことができるメディケア+チョイス(M+C)に参入していた民間医療保険会社は、1990年代後半の政府の補助金削減を理由に相次いで撤退した。同じ時期に、これらの民間医療保険会社は、プラン加入者の自己負担を増やし、有名ブランド処方箋薬を保険給付対象から外してノンブランド薬に制限するなどしたため、加入者が減少、今では、メディケア受給者の中で民間プランに加入している者の比率は約11%になっている。

これまでの経緯から、民間保険会社は、メディケア改革後の事業環境を予測する上で、1カ月以内に算定される民間保険会社に対する政府の補助金額に注目している。メディケア受給者も、政府補助金額の規模と、その後の民間保険会社の動きに注目して、民間プランの選択を検討することになる。政府補助金額が少なすぎれば、民間保険会社の参入を促進できず、額が多すぎると医療保険費の抑制という本来の改革の意図に沿わなくなる。今後は民間保険への移行加入を促すキャンペーンや加入者への周知を図るなどの新たな政策が必要になってくると考えられる。

また今回の医療保険制度の改革にかかる国費投入額は、今後10年間で少なくとも約4000億ドル(注1)とされており、アメリカの財政赤字にとってかなりの重荷となる。最終的には現役労働者の負担増加が予想され、一部の共和党議員からも懸念の声が出されている。

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